第37話 誰か説明を大至急求む


「えっと……」

「うむ、久しぶりだな赤田くん」

「あっ、はい」


 俺の脳裏には「何故?」ばかりがよぎり固まっていると、本城さんから挨拶をされ思わずそう返す。隣では花凛さんも硬直状態。


「町田ちゃんも相変わらず可愛いな」

「ど、どうもです」

「……相変わらずガードが固いねぇ」


 花凛さんにも笑顔な本城さんからの挨拶がかけられる。すると花凛さんは俺の影へと隠れてしまった。……そういや、花凛さん軽いトラウマがあったか。


「そ、それでこれはどういうことなんですか?」

「うーん、端的に言うと顔合わせ?」


 色々言いたいことはあるがそれよりもここは話を進める方がいいと判断した俺がそう切り出すと、本城さんは相変わらず笑みを浮かべたままそう告げた。


「順一が「ドウイウコト?」みたいな顔してるからいい加減にちゃんと説明してやりな」

「分かったよ、梅っち」

「誰が梅っちさね!? 誰がっ」


 未だに呆然としている俺と花凛さんの前でそんな会話が交わされる。というか、本城さんマジで誰に対しても強いな。これほど強キャラ感のある人は会ったことがない。


「まぁ、今年の夏からね……名古屋に新たな店を構えることになったんだよね」

「第2店舗ってことですか?」

「うん、そゆこと」


 東京で売れているわけだし事業拡大は変な話じゃないか。つまり、今回の訪問の目的ってのは……。


「愛知県来るから同じカフェ事業としてよろしくの挨拶ってわけです——」

「新店舗立ち上げるから優秀なバイトが入るまで君達を借りたいというわけさ」

「えっ?」


 俺の思ったこととはまるで違うことを本城さんに言われ、俺は本日何度目かも分からない硬直をする。ナニヲイッテルンダコノヒト?


「え、えぇ!? えっと、それはつまり私達が新店舗さんで働くってことなんですか!?」

「うん、そゆこと。そゆこと」


 花凛さんがかなり動揺を見せながらも俺の代わりに尋ねるがどうやら聞き間違いや、勘違いというわけではないらしい。

 ほ、本気で言ってんのかこの人!?


「いや、コーヒーを淹れる子は最初本店舗の子が数名来てくれるんだけどね……接客までってのは難しくて」

「な、なるほど」


 確かにコーヒーを淹れる方はかなりの練度がいるだろうし、東京から連れて来ないとどうにもならないけど接客は……ってことか。

 普通に東京からここまで来るの大変だしな。


「まぁ、だから現地でバイトを集めるのが一番なんだけど……ウチで戦力に入れるにはある程度育ててからじゃないと無理でね」

「そ、それはそうですね」


 高級なカフェ屋なわけだからな、接客も手は抜けないというわけだ。ここまでは納得だ。


「それでバイトの子達を育て上げるまでの期間の人材を……信頼ある梅さん所から借りようかなって思った。これが全て」

「それで俺と花凛さんをってことですか?」

「うん、君達以外も借りるけど割と主に来てもらうのは君達」


 俺の恐る恐る尋ねた言葉に対しにこやかにそう返してくる本城さん。隣では花凛さんも顔を青くして震えていた。

 そ、そうだ。梅バァからこんな話は聞いてない。こんな直前で言うのは明らかにおかしいから、それを理由になんとか……。


「う、梅バァ俺聞いてなんだけど!?」

「いや、夏休みの予定表に出張店舗って書いておいたじゃないか」

「「なっ!?」」


 しかし梅バァに余裕を持ってそう返され俺と花凛さんは思わず声を上げる。確かに書いてはあった。書いてはあったが……。


「あれ去年も書いてありましたけど、去年は簡易的な屋台的なの開いてそこで働く的な感じだったじゃないですかっ」


 そもそも夏休みになると普段バイト入れない時間の大学生の先輩達も入れるようになる為、シフトが割と埋まりやすくあまり働けない人が出て来る。

 そこで少し離れた所に簡易な屋台を立てそこで稼ぐというのが毎年の夏の恒例文化なのだ。

 ちなみに3週間ほど前、花凛さんが尋ねて来たので俺はそう説明している。


「去年は去年。今年は今年さね。別に出張店舗ってのは間違いないじゃないか。それに去年と同じく名古屋なわけだし」

「き、汚ないですよ!?」


 確かに本城さん所に行った時優遇されすぎだろって思ったけどもっ、梅バァの学んでこいってこういうことかっ。

 俺と花凛さんを行かせたのってこういうことだったのか。


「悪いね、アンタら以外は夏休みくらいしかシフトに入れない大学生におっさんおばさんくらいしかいないんだ。練度が高いとは言えない大学生組みは無理だし、おっさんおばさんじゃ疲れちまうからね」

「まぁ、単純に私が赤田くんと町田ちゃんの話を梅バァから聞いて気に入ったてのもあるんだけどね、特に町田ちゃん」

「ひっ!?」


 本城さんが手を非常に怪しい動きさせ、花凛さんに迫るので花凛さんが軽く怯えてしまう。


「ちょっ、怖がってますから」


 思わず俺が割って入る。……この人、明らか楽しんでるな。さっきも気に入ったからとか言ってたし。


「うーん、彼氏くんに邪魔されてしまったらしょうがない。じゃあ、そういうわけでよろしくね」

「だ、だから付き合ってませんっ!」


 軽く口笛を吹きながらそんなことを言う本城さんに花凛さんが後ろから焦ったような声を出す。……こんなのでこれから大丈夫なのだろうか?



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 次回「大丈夫」


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 では!《《》》


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