第35話 敗者
「それで俺はなにをすればいいですか?」
町田さんにああ言われてしまっては仕方ないので俺はそう切り出した。……町田さん家は楽しんだけどずっといると疲れるからな、長居を避けたいという面も多少なりともある。
だからこそのこの素早い返し。
「そ、そうだよね。早く言わなきゃ……だよね」
しかし、当の本人である町田さんは何故かここに来て言葉を詰まらせているようだった。どうしたのだろうか?
「……花凛姉、優柔不断?」
「ち、違うよ。決まってはいる。決まってはいるのっ」
「……じゃあなんで早く言わないの?」
そんなことを考えていると再びなーちゃんに攻め立てられる町田さん。……一体、俺は今日何度この光景を見ればいいのだろう。
というか、なーちゃんの口撃が相変わらず強すぎる。
「え、えーと、なんというのかな——」
「……そうやって引き伸ばしてると嫌われるよ?」
町田さんがなにかを言いあぐねているとそこに更に飛ぶなーちゃんの口撃! 本当に君は強すぎると思うんだ。
なんかもう町田さんめちゃくちゃ慌てちゃってるじゃん。
「あぅ……え、えっとね? その……」
そしてなーちゃんの口撃をなんとか耐えきった町田さんが何故かほんのり顔を赤くしながらも、なにかを決意したような顔でようやく口を開いた。
「えっと、タメ口って言うのと私のことをその……花凛って呼んで欲しいなぁって」
「えっ!?」
なにかを奢るとかではなくそんなことか、と一瞬思いかけた俺だがよくよく考えるとハードルが馬鹿みたいに高いことに気がつき固まる。
「ダメ……かな?」
「……どうしよう。私の姉が可愛すぎる件なんだけど」
俺がしばらくの間思考が追いつかず固まっていると町田さんが少し不安そうに肩を震わせながら、上目遣いでそんなことを尋ねてくる。
ちなみに俺はなーちゃんの意見に完全同意である。
なんだこの可愛い町田さんは……。いや、町田さんは元々可愛いんだけど、なんと言うのだろうか?
最早、なんと表していいのかも分からないレベルである……が、流石にこれは無理だ。
「で、でもそれだと2つじゃないですか? せめてどちらか1つで……」
「でも、赤田くん物理で80以上取ったら花凛呼びするって言ってくれから賭けの方がタメ口ってことにすれば……」
「ぐっ」
俺はなんとか阻止しようと声を上げるが町田さんから冷静にそう言われ返す言葉がない。
「……分かりました」
「本当!? ……ふ、ふふっ」
そして打つ手がなくなった俺が静かに頷くと町田さんはその場で飛び上がり、落ち着いたかと思えばとても幸せそうな笑みを浮かべニコニコとし始めていた。
「……本当になんなんだろう。この可愛い生物」
うん、なーちゃんの意見には同意だけど生物って言い方やめようか? 一応、君のお姉ちゃんにあたると思うんだけど。
というか、なーちゃんも充分可愛いのだが俺が言うとただのセクハラになるのでやめておく。
「じゃあ、これからもよろしくね赤田くん」
「よ、よ、よろしく、花凛」
町田さんの笑顔の言葉に負けた俺はかなり難しいながらも、なんとか声を絞り出しタメ口かつ花凛さん呼びで話すことにする。
やっぱり思ってた以上にハードル高いな。
「っっっ〜〜っつ!?」
「か、花凛?」
俺が少し恥ずかしい思いをしながらもようやく顔を上げると、そこには何故か手で顔を覆いアタフタしている花凛さんの姿があった。
言われた通りにやったのだが……も、もしかして変な所とかあったか!?
それともやっぱりキモかったとかか!?
「大丈夫か?」
「っっっ〜〜っ!?」
俺が声をかけると更に慌ててしまう花凛さん。こ、これはどうしたらいいんだ。
俺となーちゃんがしばらくの間花凛さんの復帰を待っていると、ようやく花凛さんが動きを止める。
「も」
「「も?」」
そして声を出したので俺となーちゃんは当然のごとく反応する。一体なにを言われるのだろうか? やっぱりキモかった、か!?
「もう無理ぃぃぃ。あ、赤田くんはタメ口禁止っ」
「へっ?」
しかし、花凛さんから飛び出た予想外の返事に俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
というか、なんか涙目だし花凛さん。
「……泣き顔花凛姉、そそりますねぇ」
そしてなーちゃんはと言えば横で中々に危険なことを呟いていた。
「わ、分かりました花凛さん」
「う、うん」
まぁ、花凛さんの願いなので俺は大人しく受け入れそう返すと、ようやく花凛さんは落ち着いたようで手で目元を拭う。というか、実際俺も助かったしな……タメ口だと話す度に詰まりそうになるし。
と、俺がそんなこと考えていると、横でなーちゃんがまとまるようにボソッと呟いた。
「……うーん、very cute」
うーん、良い発音だななーちゃん。
「こ、今度こそこれからもよろしくね赤田くん」
「はい、花凛さん」
しかしタメ口ではないとは言え今日から花凛さん呼びか……。俺なんかがと思う反面どこか嬉しいと思う自分がいるのも確かだ。
本当にこの短期間でここまで距離が近くなったものだ。これが花凛さんの持つパワーなのだろう。
そんなことを考えていると出会った日のことや、様々な思い出が蘇って来てしまい……。
「……順兄の笑ってるよ?」
「えっ?」
俺は自然と笑みをこぼしてしまうのだった。本当に俺も変わってきたものだ。俺は何故か耳を必死に隠している花凛さんを見つめながら、少しそんか感傷に浸るのだった。
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次回「んっ?」
次回からは次の編に入ります。これからもよろしくお願いします!! 星や応援よろしくお願いします。
では!
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