第34話 赤田……敗北
とある部屋の一室にて俺と町田さんはテーブルを挟んで向かい合い、目の前に置かれた白い紙を見つめる。俺がゴクリと唾を飲むと町田さんがようやく口を開いた。
「さぁ、勝負といこうか赤田 順一くん?」
「そうですね、町田 花凛さん」
「私は負けないからね? 赤田 順一くん」
「お、俺もですからね町田 花凛さん」
「……それよりもなんで2人ともフルネームで呼び合ってるの?」
俺と町田さんがそんな応酬を繰り広げていると、横から見ていたなーちゃんが冷静なツッコミを入れる。
だが、理由は簡単……自分が今なにを喋っているのか分からないくらいには緊張しているからだ。なにせ、これで決まるんだからな。
しかし、町田さんのフルネーム呼びはどこはかとなく余裕を感じる。
まるでワザと間違えたのかのような……考えすぎか?
「……そしてなによりもなんで私の部屋でやってるの?」
それも簡単……町田さんの部屋は無理らしいし、俺の家に今更行くのもめんどくさい。ちなみに町田家リビングは論外である。
「本当にごめん、奈々っ」
「……お姉ちゃん後でアイス奢りね?」
「本当にごめんね? なーちゃん」
「いや、順兄は全然いいよ」
「なんかお姉ちゃんに対してだけ当たり強くない!?」
俺の言葉に優しくそう返すなーちゃんに町田さんが少し不満そうな声を上げる。なーちゃん……なんで相変わらず素直じゃないんだ、君は。
「……それに花凛姉は部屋を綺麗にした方がいい」
「さっきの発言聞いて更に追い討ちかけてくることある!? そ、それに汚いわけじゃないし」
「? ……じゃあ、なんで使わせてあげないの?」
町田さんの言葉に対し当然のごとくなーちゃんから疑問が飛ぶ。
「そ、その心の準備というか……と、とにかくダメっ!!」
少しボソボソと喋ったと思ったらいきなり声を上げて、そう言い放つ町田さん。
流石にこうなると追撃は無理なようでなーちゃんはため息をつくと、攻撃の手をようやく止めた。
「そ、それじゃあいこうか?」
「ですね」
なんか妙に時間があったがいよいよである。お互いに白の紙を表にすると持ち上げ総合の順位の所を手で覆う。
「「せーのっっ」」
そして合図と共に手をどけた。そこに現れたのは……。
「へぁ!?」
「へっへ〜」
町田 花凛 総合 1位
赤田 順一 総合 4位
町田さんの1位という圧倒的な数字であった。こ、これは勝ちようがない。どおりでさっきから余裕があったわけだ。
「負けましたっ……」
総合4位……決して悪い順位ではない。そもそも一桁を取ったことすら初めての俺からすればまさしく快挙。
だが、1位という順位の前ではなすすべなどない。悔しい。不思議な気持ちだ。
負けて当たり前の勝負……そのはずだったのに。
町田さんに英語を教えて貰って自分でも今までじゃ考えられくらいやって……自信がついていたんだ。負けて悔しいと思えるくらいには……。
俺が俺自身の考え方の変化に戸惑っていると町田さんが鼻を鳴らした。
「どう? どう? 物理で87点も取ったんだよ!?」
その顔は「褒めて、褒めて」と言わんばかりである。最早、返す言葉も浮かばない。
「完敗ですよ……やっぱり町田さんは凄いですね」
俺が心の底から思ったことを吐き出して笑顔を向けと町田さんがかなり頰を緩ませ、照れ始めた。
……なんか、正直こんな町田さんが見れたんだから実質の俺の勝ちな気がしてきたな。
「そ、そうかなぁ……」
「……お姉ちゃん顔ニヤケすぎ、それに順兄は物理93取ってるから」
「本当に奈々はどっちの味方なの!?」
「勿論順兄」
「本当にお姉ちゃん納得いかないんだけどっ」
俺がそんなことを考えているとまた町田さんがなーちゃんに弄ばれていた。
ま、町田さん流石に……というよりこれはなーちゃんが悪魔的すぎるのか? どっちなのだろうか?
まぁ、それはいいとして……。
「おかげで今回のテスト週間は楽しかったです。また、やれたら楽しいですよね」
「赤田くん……」
俺は今日1番の笑みを浮かべると今日1番言いたかったことを町田さんへと伝える。そして、町田さんも俺に応えるように俺の肩へと手を置いた。
「なんか、いい感じな雰囲気出して終わろうとしてるけど……賭けの内容忘れてないよね?」
そして町田さんも今日1番の笑みを浮かべるも、恐らく俺に今日1番言いたかったであろうことを伝えてくるのだった。
くっ、誤魔化しきれなかった。
「ふふ〜ん」
町田さんはとても楽しそうな笑みを浮かべてコチラを見ているが、俺は一体なにを言われるのだろうか?
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次回「敗者」
次回が終わりますと夏休み編へと移ります。そしてあと夏休み編から三回、編が終わると本編は終了となります。
ここからは編ごとの長さがドンドンと長くなっていくので意外と終わりは遠いですが付き合って頂けると幸いです。
最後に良かったら星や応援お願いします!
では!
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