第33話 お互いに


「はー、今日もやっとこさお終いさね。みんなお疲れ様」


 本日のバイトも終わり最後に梅バァがそんなことをいいながらスタッフルームへと入って来る。


「って、アンタらはなにやっとるんだい?」


 そして俺と町田さんを見るなりそんなことを尋ねてくる。普段ならある程度は答える俺であるが、今はそれどころではない。


「だから時制の一致をしないのバツになるんですよ」

「ここは加速度の求め方を応用して……」

「本当になにをやってるんだい」


 俺と町田さんが一心不乱にノートを見せ合い教え合っている梅バァがまたもそんなことを尋ねてくる。


「なんか、期末テストがあるらしくて勝負するらしいんですよ。しかも、それが負けた方が勝った方の言うことを一個だけ聞くっていう感じのらしくて」


 すると事前に俺たちから話を聞いていた先輩の羽田はねださんが梅バァにそう説明してくれる。


「それでお互いの苦手教科でも教え合っているとでも言うのかい?」

「まさしくその通りらしくて……」

「はぁ……一体いつの間にこんなに仲良くなったんだろうね」


 梅バァは若干呆れたような目をコチラに向けながら、ニヤニヤと気色の悪い笑みを浮かべるのだった。



 *



「来週のテストはどう? 大丈夫そう?」


 バイトの帰り際、いつものように町田家によって行くことになり(なーちゃんのために)、町田さんと足並みを揃えて歩いていると不意に町田さんがそんなことを口にした。


「英語なら70はいけますよ」

「へぇ……言ったね?」

「……60ならいけます」

「日和ったっ。今、完全に日和ったよね!?」


 俺が言い直すと町田さんがそれを非難するような声を上げる。


「全く……赤田くんはこれに限らず少しは自信持っていいと思うんだけどなぁ」


 町田さんは夜空を見上げ届くはずもない星へと手を伸ばしながらそんなことを言う。というか、一連の動作が可愛すぎるように映るのは俺だけか?

 めっちゃ必死に手を伸ばしてるんだが?


「私は物理69いけるからね」

「町田さんも日和ってるじゃないですか」

「ち、違うよっ」


 俺がジト目でそう返すと町田さんが手をあたふたさせ必死に否定してくる。……ちなみに説得力はゼロである。


「そ、それより花凛って呼んでよ」


 俺がジト目で見つめ続けているとその視線から逃げる為か、話題を変えようとする町田さん。


「物理で80とらないと無理です」

「ぐぬぬぬ、無理難題言って恥ずかしくないの!?」


 しかし、それに関する対処法を習得している俺がそう口にすると町田さんが悔しそうに頰を膨らませると、プイっと顔をそむけてしまった。


「勝負絶対に勝つからね」

「俺も負けませんよ」


 そしてそっぽを向いたまま、そんなことをポツリと呟いた町田さんに対し俺も負けじとそう返す。


「まぁ、多分ですけど」

「なんで赤田くんは最後で日和るのかなぁ!?」


 だって怖いから……。


 そんなことを話しながら俺と町田さんは夜道を歩いて行くのだった。



 *



 そして1週間が経ち時は訪れた。今、負けてはならない。戦いが始まる。



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 赤田……アンタが勝たなきゃ誰がサービスシーンを作るっていうのよ!! それを一体どれだけの読者が待ち望んでいるのか分かっているの!?

 立ち上がって……アンタなら絶対に勝てるんだからっ!



 次回「赤田……敗北」



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