第29話 オチが見えた


「っと、ここだよな」


 放課後、珍しくバイトのシフトを入れていない日でありながら俺は珍しく外出をしていた。

 この珍しいがどれほどの確率のものかと言われれば、プロ野球で表すところのドラゴン◯が日本に勝つようなものだろう。

 ——つまり俺がなにを言いたいかというとドラ◯ンズ……くっそ頑張ったのでシーズン10回勝利分くらいのポイントをあげてくれと言うことだ。


 いや、そうではなかった。昨日の件である。勉強会をすることは決まったがそもそも場所がない。

 例えば、図書館に行くのはもしかすると同級生と会う可能性がある為危険。勿論、学校など論外。

 となると必然的に行える場所は限られてくる。


 そしてそれこそが今俺の目の前にそびえ立つ町田さん宅(豪邸)であるというわけだ。

 ちなみに余談だが町田さんの家から俺の家までは約駅一個分離れている。

 それにしても……いつ来ても緊張するな。俺は毎度ながら額に変な汗を掻きながらもインターホンを鳴らした。


『はーい』


 すると町田さんのお母さんである玲奈さんの声がした。


「あの、町田さんの友達の赤田 順一です。その今日は町田さんに用事があって来ました」

『「話は聞いてるわ。今、開けるから待ってて——」「お母さん!? なんでそんな格好して出ようとしてるの!?」』


 玲奈さんがそう言いかけた所で町田さんの焦ったような声が聞こえた。


『「そんな格好って別にいいでしょ——マ◯オのコスプレぐらい」「いいわけないからっ! 赤田くん? 私が出るからもう少しだけ待って——だから、お母さん鍵を開けようとしないでっ。着替えてぇぇぇ」』


 インターホン越しに聞こえるそんな声を聞き、俺はやや苦笑いを浮かべる。最早、慣れたことではあるが……町田さんは今日も大変そうだ。



 *



「ご、ごめんね。赤田くん」

「いや、流石に分かってましたし……普段通りですから」

「お母さんっ、お母さんのせいでもう赤田くん受け入れちゃってるから! 悟った目をしちゃってるからっ。もう、今後は絶対にしないでっ」

「はいはい」


 家に上がった途端言われた、申し訳なささと恥ずかしさが入り混じった町田さんの言葉に俺がそう返すと、町田さんと玲奈さんの間でそんな会話が交わされる。

 ……いやぁ、今日も平和だ。


「じゃあ、早速勉強といきますか?」

「そうだね。早くから始めちゃおうっ」


 俺が持ってきた勉強道具の入った鞄を片手にそう言うと、町田さんがそれに頷く。


「それでその場所なんだけど私の部屋は……ほ、ほらっ、アレだし。大きな机もあるからリビングでやろうと思うんだけど……どう?」

「い、いいと思いますよ」


 イマイチ「アレ」はよく意味が分からなかったが、多分知らないけどなにかしら事情があるだろうし深く詮索することはせず話を進める。


「お母さん……邪魔はしないでね?」

「大丈夫、チアになって応援するだけよ」

「それを世間一般では邪魔って言うの! 勉強にチアは必要ないからっ。というか、なにこの服。また新しいの買ったの!?」

「違うのよ、これは買ったんじゃなくてネットでポチって押したら届いただけなの、買ったわけじゃないのよ」

「買ったんじゃんっ! それ買ったってことじゃん」


 進めるが……進まない。これが町田さん家クオリティ。もう、流石に俺は驚かないぞ。こんなんで驚いてたら1時間と滞在できないからな。


「……お母さんも花凛姉もうるさい。一体なにご——順兄!?」


 するとそこへ町田さんの妹の奈々ちゃんこと、なーちゃんが姿を現した。そして俺を見つけた途端真っ先に駆け寄って来る。


「なんで、なんで順兄今日いるの!? もしかして今日からウチに住むの!?」

「住まない。住まないから落ち着いて」


 そしてかなり興奮した様子で俺の周りを飛び跳ね始めた。

 ちなみにこれも余談だがここ最近の俺はバイトの終わり際、ここ町田家に寄っていくことが多いのだがその主な理由がなーちゃんである。

 町田さんから「遊びたがっている」という趣旨の話を聞き「それなら」と度々訪れてはいるのだ。

 まぁ、ただ今日は早い時間なのでなーちゃんもかなり驚いているらしい。


「分かったわ、お茶を出すだけにしておくわ」

「本当にお願いね? さて、じゃあ赤田くん勉強しよう……か?」


 すると先程まで玲奈さんの相手をしていた町田さんが戻って来た。


「えー、勉強会なの!?」

「そうなんだ今日は遊べない。ごめん」


 するとなーちゃんは明らかに不満そうに頰を膨らませる。


「ごめんね、奈々。お姉ちゃん達……真剣にヤバイからさ」

「……分かった」


 うん、全然分かってない顔してるね。町田さんはどうやら気がついていないようだが、こういう顔の時のなーちゃんは危険だ。

 しかし、それを町田さんに伝えた所で意味はないというか……なーちゃんが爆発するか、しないかの問題なので後は天に身を委ねるばかりだ。

 もう、これ以上なにも起こらないことを祈願するしかな——。


「おーう、今日は早く帰還したぞ〜」


 そんなことを考えているとドアの開いた音がして、そんな声が聞こえてきた。

 なんだこれっ! あれかっ、即落ち2コマか? これ。なんでこのタイミングで町田パパ帰還!?

 いつもは23時とからしいから顔を合わせたのなんて、初日くらいなんだが……なんでよりにもよってこのタイミング!?


「あっ、パパ——お父さん帰って来たんだ。じゃっ、赤田くん始めようか」


 しかし、町田さんはどうやら事態の深刻さに気がついていないらしく、無邪気な笑みを浮かべてそんなことを言う。

 ……可愛い。


 いや、そうじゃなくて……未だにコチラをチラチラと伺っている玲奈さん、爆発寸前のなーちゃん、そして最終兵器町田パセイドン。

 町田さんには悪いが最早、この時点でオチが見えてしまっている気がするのは俺だけなのだろうか?




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 次回「本日の知ってた、知ってた)


 いや、描写してない1ヶ月間で仲良くなりすぎな件。


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 では!









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