第28話 バカ


 町田さんがカフェ屋のバイトに来てから今日でもう1ヶ月ちょっと経った。

 初めはどうなることかと思っていたが、町田さんの明るさと優しさに支えられて今の所はどうにかなっている。

 いや、まぁやっぱり今も多少緊張はするんだが……圧倒的に前よりは少なくなった気がする。

 前までは手の届かない完璧超人? みたいなイメージが強かったが、会って話していく内に段々と仲良くなれていっている気がする。

 というか、そうであって欲しいっ。


 やはり1番大きかったのは東京への旅行だろう。あそこで距離を縮められ大分フランクな関係になれた気がする。

 もうあれから1ヶ月も経っていると考えると時の流れの早さを感じるな。

 まぁ、最近では「花凛さん」呼びじゃないとムクれてしまうので別の問題が出てきてはいるが……その様子も可愛いので別に損ではない。

 いや、やっぱり困る。やっぱり俺みたいなのが下の名前で呼ぶのめっちゃハードルが高いんだよっ!


 っというわけで、町田さんが現れ今までとは比べものにならない程濃密な日々を送っている俺だが……現状は楽しい。

 その一点に尽きると思う。

 まぁ、そんなわけで最近は割と充実した日々を送っている俺だが今はとある問題が発生しているのだった。



 *



「ヤベェなこれ」


 俺は1枚の紙を手に頭を覆っていた。

 ちなみに今の俺は少し手違いがあってバイトの1時間前に来てしまった為、梅バァもおらず開いていないカフェ屋の目の前で頭を抱える不審者である。

 お願い、別に悪いことはしてないから誰も警察に通報しないでっ。

 ……なんか警察の人とかパトカーって何も悪いことしてなくても怖く感じる。

「なんか捕まるんじゃね?」みたいな?

 ……誰か理解者求む。


「とか誰もいないのに変なこと考えるくらいにはヤバい」


 俺は額から汗を流しながらそう口にする。本当に夏が近づいて来てナツい件について。


「いや、流石にこれは放っておくのやっぱマズイよな。でもかといって、教えて貰える相手いないし……」

「あっ、赤田くん!」

「あっ、こんにちは。町田さん」


 俺を見つけるなり駆け出して来る町田さんが見えたが、今はそれよりもこの問題だな。

 マジでマズ——。


「って町田さん!?」

「えっ、あっはい? 」


 事に焦りすぎて冷静じゃなかった俺がようやく異常さに気がついて振り返ると、町田さんがやや戸惑った顔をして立っていた。

 恐らく俺の声にビックリしたといった感じだろうか?

 だとしたら凄い申し訳ないな。


「あ、赤田くんも早すぎちゃたんだね。というか、その紙はなに——」

「い、いやー、俺も完全に今日は30分遅くに開くのを忘れてまして。というか、町田さんもでしたか」


 俺は町田さんに勘付かれそうになったので慌てて紙をポケットへとしまうと、そんな大きな声で対応する。バレたら終わる。

 あれ? というか、よく見たら町田さんも手になにか持ってないか?


「なにその反応、なにか隠してる?」

「い、いえ」


 あれ? 更には町田さん呼びにも反応なし? これって町田さんもなにか隠しているパターンでは?

 俺はこれまで1ヶ月接して来た経験からそう判断をする。今は町田さんに一方的に攻められているからな、反撃に出ないと露呈するっ。

 それだけは……それだけは阻止しないとっ。


「というか、町田さんもなんか変じゃありません?」

「へ、へんってなに? それは赤田くんの方じゃない?」


 俺の言葉に明らかに動揺しながらもそう返してくる町田さん。決定した、町田さんもなにか弱みを持っている。その証拠に先程のようなキレは無くなって来ている。

 あとは梅バァが来るまで時間を稼げば……。


「「あっ」」


 そう思った矢先である。俺の手から握り締めていたはずの紙が離れ、宙を舞い町田さんの目の前へと着地する。

 そして、逆に俺の目の前には町田さんの持っていた紙が飛んで来る。

 思わず俺と町田さんの声が重なるという奇跡が起こるが、今の状況にパニクっている俺はそんなことを気にしてはいられない。

 俺も町田さんも自分が落とした紙へと素早く手を伸ばす。


 そんな時だった。日常的に普通に起こりうる「風」が吹いたのは。そしてその風を受ければ紙は動く……当然のことだ。

 そして俺たちの紙も当然のように舞い上がる……そして表向きになって俺たちの目の前れと着地を果たした。

 果たしてそこにあったものとは……。


 ・町田さんの39点の物理の小テストの答案


 ・俺の27点の英語の小テストの答案


「「……」」


 ・そして当然のごとく流れる静寂



 などだろうか。そしてしばらくすると町田さんが口を開いた。


「い、いや、あのこれは違くてその物理が凄く苦手というか……他の教科はこんなんじゃないから」

「し、知ってますから大丈夫です」


 ちなみに余談だが町田さんは前回の中間考査では総合得点で2位を獲得している。この言葉に嘘がないのは確かだろう。


「ちなみに赤田くんの英語は?」

「……俺、英語が死んでるんですよ」

「……私の物理と一緒だね」


 俺と町田さんは死んだような目になりながらもようやくテストの答案を回収する。すると突然町田さんが目を輝かせ、俺へと迫ってきた。

 尚、ちょっと心臓に悪いなと思う今日この頃である。



「そうだ! 赤田くんって物理得意?」

「僕も町田さんと同じで文系選択でそこまでではないですが……一応80点くらいは」


 俺は何故こんなことを聞かれているのだろうと思いながらも素直に答える。いや、正確に言うなら近づかれすぎて言うしかなかったのだが。

 すると町田さんは「よしっ」と言わんばかりのガッツポーズをとると、(尚、無自覚の模様)更に俺の方へと顔を寄せてくる。

 俺の心臓くん……頑張って耐えてくれ。


「じゃあ、勉強会を開くのはどう? お互いに得意な部分を教え合うの!」


 そして町田さんは目を輝かせて「名案」と言わんばかりに得意げな顔をするのだった。

 当然、そんな可愛い仕草を見せられ俺に断るという選択肢があるわけもなく俺も頷く。

 ……まぁ、本当に英語の方はどうにかしないといけなかったしな。



 そんなわけで俺と町田さんの勉強会が開かれることが今日決定したのだった。あれ? というか、よく考えればめちゃくちゃハードル高くない!?





 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「オチが見えた」


 すいません、色々とあって休んでました。今日から復帰です。


 そしてイラストですっ! 今回は読者様からです。白のワンピース姿の町田ちゃん!! 東京デートの時のですかね。



 https://kakuyomu.jp/users/KATAIESUOKUOK/news/16817330654318694092


 神っ!! 異論は認めません以上!!



 良かったら星や応援お願いします。では!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る