第27話 色々と変なんだけど?


「お邪魔します」

「ッチ、遅いわね」


 俺が第1音楽室のドア(鍵がついてない)をひき中へと入ると、早速柚木さんが憎々しげな顔をして立っていた。

 前も思っていたのだが、柚木さんは他の人以上にあたりが強い気がする。……気のせいか?


「まっ、いいわ。率直に聞くわよ」


 俺と話すことを1分1秒でも少なくしたいようで、そう口走る柚木さん。


「アンタ……花凛になにかした?」


 そして俺は柚木さんの問いかけに固まった。


「い、いや——」

「休日に会ったりした?」


 それでもなんとか俺が口を開き否定の意を示そうとした時、またも柚木さんが口を開き俺は完全に固まることになる。

 誰かにみ、見られたりしてたのか?


「今日、花凛の様子は明らかに変だった。私と話していてもどこか上の空。何度も視線は宙を彷徨わせ、よりにもよってアンタの席の方へと目を向けていた」

「へっ?」


 み、見られたわけじゃなかったのか。しかし、そんな俺に構うことなく柚木さんは続ける。


「だからっ、アンタとなにか仲を深めるイベントでもあったんじゃないかと思った……以上っ」


 柚木さんは俺を睨めつけながらそう吐き捨てた。いや、凄い観察眼だ。というか鋭すぎるだろ。流石に町田さんを見てきただけはある。

 果たして上手く誤魔化せるのだろうか? ……ちなみに誤魔化すという以外の選択肢は存在しない。何故なら町田さんにまで迷惑がかかる可能性があるからだ。


「アンタ花凛とどこも行ってないわよね?」

「い、行ってないです」


 俺はこの問いかけにおし黙るのは良くないと瞬時に察知し、被せるように声を出す。少し噛みかけたが疑われるような範囲じゃないはずだ。


「本当に?」

「本当に!」


 それでも納得がいかないのかジーと俺を眺める柚木さん。なんか、この人やたら鋭そうだから怖いんだよ。


「ならいいわ」


 しかし俺の目からはなにも感じ取れなかったらしく、そう口にする柚木さん。た、助かった。


「でも、今後花凛に近づいたら……その時は本当に許さないからねっ! アンタみたいな奴がヘラヘラ笑って近づいていい娘じゃないのっ。分かった?」

「は、はい」


 怒鳴り上げるような声でそう言い放つ柚木さんに対し「バイトで会うからそれは避けようがないんですが?」 という言葉をなんとか飲み込み俺は返事をする。

 俺から近づいているわけではなくバイトの都合上であるから柚木さんの言葉からすればセーフの部類だろう。

 まぁ、それを伝えて柚木さんが納得するかと聞かれれば多分NOなので、口にはしないけど。……最悪、俺がバイトを辞めろとか言ってきそうだしな。


 そして柚木さんは俺に特に挨拶をするわけでもなく音楽室から出て帰っていくのだった。



 *



「町田さん、町田さん」

「? どうしたんですか? 先輩」


 今日もバイトに早く着いた俺は同じく早く着いていた町田さんに声をかける。

 町田さんはそれに反応してトコトコとコチラへと歩いて来てくれた。ちなみにココはスタッフルームである。


「あの〜今日なんか色々と合図を送ってくれてたんですけど……どうしました?」

「ふぇ!?」


 俺の言葉に激しく動揺する町田さん。なんか、誤解されてそうだから付け加えおくか。


「嫌というわけじゃ全然ないんですよ!? 嬉しいですから。そ、そのでもなんでかなぁと気になって」

「い、いや、それはですね」


 珍しく目を泳がせ俺の問いかけには答えようとしたい町田さん。なにか言いにくいわけがあるのだろうか?


「そうだ! ば、バイトしましょう。掃除は先に出来ますし」

「……」

「な、なんでそんな「逃げたな」的な目をするんですか!? 別に逃げてませんし」


 俺が「逃げたな」と思って見つめていると町田さんが慌てて反応してくる。

 うん、その反応こそが証拠になってしまっていると思うのだが……。


「というか、そういうことでしたら……赤田さんは何故昨日私のことを花凛さんって呼んでくれたのに、今日は町田さんなんですか?」

「……」


 少し耳を赤くした町田さんからの反論に思わずおし黙る、俺。


「さてと、掃除やりにいきますか。町田さんの言うように前にでもやれますし」

「ちょっと!? 逃げましたね?」

「さっ、掃除、掃除」


 その後も不満そうに俺を見つけくる町田さんを俺はなんとかいなすのだった。

 なんか……柚木さんよりも怖い。




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 次回「バカ」


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