第21話 えっ?……


「……くん、……くんっ。もうあと15分くらいで着くよ」

「ん、んん」


 どこからか優しさを纏いながらも必死な声が聞こえて来て俺は意識を取り戻す。目をゆっくりと開けるとまずは白くまばゆい光に照らされ、思わず手で目の付近を覆う。

 あれ? というか、なんか頭の下と首の下に柔らかな感触が……。


「あっ、ようやく目が覚めた」

「ま、ま、ま、町田さん!?」


 町田さんが眉尻を上げホッとした顔をするが……おかしい。何故、覗き込んでるんだ?

 何故、こんなにも近いんだ?

 さっきから感じるこの感触はなにか?


「〜〜っっ!? す、す、すいませんっっっ」


 そしてここで俺はようやく自分が町田さんの膝の上で寝てしまっていることに気がついた。

 マジでなにやってるんだ、俺!?


「あ〜、うん。べ、別にいいんだけどね」

「全然良くないですよっ。本当にすいません」


 普通にクラスの人に見られようものなら処刑もんである。

 というか、付き合ってるわけでもない相手に……しかも、あの町田さんに俺は本当っっになにやってんだ!?


「というか、本当に大丈夫ですか? 不快な気分になってませんか?」


 100パーセント不快な気分にはさせてしまっているとは思うが、程度を知りたいものだ。


「い、いや、まぁね? 多分、疲れてたんだと思うよ? だから、特に不快な気分には……というか、むしろ—」

「? むしろなんですか?」

「っ!?」


 口で直接言われるほど不快な気分ではなかったことに俺は安堵しながらも、町田さんが続けようとした言葉に違和感を感じ尋ねてみると、町田さんは本日何度目か分からない停止をしてしまった。


「——じゃん」

「はい?」

「ダメじゃんっ!!」


 そしてしばらくした後、顔を上げた町田さんがそんな声を出す。


「こういうのって普通聞こえないもんじゃないの?」

「? 俺、別に耳遠いわけじゃないんですが?」

「そういう問題じゃないんだけどね。まぁ、いいや。とにかく全然不快じゃないよってことっ!」


 町田さんは声を張り上げて(とは言っても今までかなり小音なので普通くらいの声だが)、そう言い放った。


「で、でも、私あんなこと他の人にはやったことあげたことないからね? そこは勘違いしないでね?」

「も、勿論です」


 恐らく町田さんが言いたいのは「私はそんな浮ついた奴じゃない」っていうことと「今回は俺が疲れてたからしてあげただけで、2度はない」と言うことだろう。

 流石の俺でもわかる。


「むぅ、なんか返答がおかしい気がするけど掘り返すのもそれは恥ずかしいし……まぁ、いいや」

「恥ずかしいってなにがですか?」

「……だから、さっきからおかしいって! こういうのって普通聞こえないものじゃんっ」


 ??? 町田さんはさっきから何を言っているのだろうか? 俺が解釈違いを起こしてしまっているのだろうか。


「赤田くんが「あれ? なにか言いました?」って言って私が慌てて「なんでもないよ」つて返すパターンじゃんっ。普通!」

「は、はぁ」


 俺は一体なにを怒られているのだろうか? いや正確に言えば怒られているわけではないのだが、なんとなくそんな気分だ。


「というか、さっきから私はなにを言っているんだろうね?」

「いや、それこそ俺に言われましても……」


 その時、俺は町田さんが耳を赤くしているのが目に入って来た。そして今までのおかしな言動。きっと俺が起きるまでの膝枕の負担がかなりの負担だったに違いないっ!

 というか、それしかあり得ない。


 俺がそんなことを考えているともうすぐ到着という新幹線の案内が車内に響き渡った。

 どうやら、長かった今日の旅行も終わりを迎えそうだ。


「き、今日は楽しかったですね。町田さんが居てくれたおかげで自分一人で行くより何倍も楽しかったような気がします」


 俺はこの若干妙なムードを変えるべくそう切り出す。とは言え、なにも嘘を言っているわけではなくこれは俺の本心だ。


「そう、なんだね」

「はい」


 さっきから挙動がおかしかった町田さんも少し落ち着きを取り戻してそう口を開く。


「いっとくけど、私もめっちゃ楽しかったからね!? 赤田くんのおかげで」

「あっ、はい」


 そして町田さんは慌てたようにそう付け足した。俺は少し嬉しい気持ちとなり自然と口角が上がる。本当に今日は楽しかったし、町田さんにもそう思って貰えたならこんなに嬉しいことはない。

 だからこそ感じてしまう。


「これで終わりなのが悲しいね……もっと、続けばいいのに」

「ですね」


 やがて新幹線は音を立てて止まりドアが開く。それは俺達の旅の終わりを告げる合図だった。



 *



 あの後は特にお互い口を開くことなく新幹線を降り改札を抜けていく。そして駅を出たその時だった。


「おーい、花凛〜。迎えに来たぞ〜」


 目には星柄のサングラス、片手には更にサングラス、そして何故か肩掛けポーチを腰に巻いたパリ男が可愛く見えるレベルの不審な男が現れたのは……。


「し、知り合いなんですか?」


 俺がおそるおそる町田さんに尋ねて見る。


「あ〜、うん。なんというかお父さん」

「お父さん!?」


 そんな馬鹿なと思い俺は不審な男性を二度見する。えっ、本当に町田さんのお父さんなのか? この人が? どこからどう見てもただの不審者なんだが!?


「んで、そっちの子が花凛がメールで教えてくれた先輩さんか」

「えっ? あっ、はい。ば、バイトの方で一応先輩をやらせて貰ってます」


 突然声をかけられテンパリすぎた俺は若干変なことを言いつつもなんとか答える。

 なんか変な汗が出て来たな。


「そうか……ところで君、これから時間あるか?」

「ま、まだ9時ですし俺は一人暮らしなので時間はあるにはありますが……」

「そうか、じゃあウチに寄っててくれないか? なあに、ちょいと話を聞きたいだけさ」


 えっ? あっ、これ俺死んだパターンじゃないか?

 い、いや、町田さん前放任主義って言ってたし、今回の件だって事前にオッケー貰ってるだろうから大丈—。


「いや〜バイトの先輩と行くって言うから女の先輩かと思ったら、さっきメールで男って聞いて驚いてね」


 町田さんのお父さんが1つも笑っていない目でこちらをみながらそんなことを言ってくる。


 ぇ?



 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「町田家訪問」


 東京デート(?)編これにて終了です。良かったら星や応援お願いします。

 それでは皆さん一緒に、


 ぇ?





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