第20話 お疲れ……


「帰って来たねぇ」

「帰って来ましたねぇ」


 夕方も終わりを迎え太陽が完全に沈みかけている中、俺と町田さんは駅へとたどり着くとお互いにそう呟く。


「まぁ、ここからようやく愛知へと向かうんですけどね」

「やめて。必死に考えないようにしてたのに」


 そう、ただし駅は駅でも東京のである。思った以上に東京スカイツリーで時間を食ってしまったからなぁ……。まあ、町田さんが想像以上に楽しそうだったし俺としては構わないんだが……。


「問題は町田さんのご両親の方ですよね」

「一応連絡入れてあるし大丈夫だとは思うけど」


 そこまで言った所で町田さんが口を止める。そしてスマホを取り出して操作し始めると、顔が青くなっていく。


「う、うん、大丈夫。大丈夫だね」

「ちょっ、今の間はなんですか!? 絶対になんかありましたよね?」

「な、ないよ」

「いや、流石にそれじゃあ誤魔化されませんよ」


 俺から目を逸らし慌てたような口調で話す町田さんに俺はそうツッコむ。というか、町田さんが顔と態度に出すぎなわけだが。


「い、いや、ただ……「この星は爆発する。早く、宇宙へと脱出するんだっ」みたいなメールを貰っただけで」

「終末のお知らせ!? というか、そんなわけがないでしょう」


 明らかな嘘すぎる。


「じ、実は今のは冗談で本当は「いや〜マイケル聞いてくれよ。ジョニーが怪我しちまってよ、俺たちの月くらいの大きさの宇宙船……地球に墜落するっぽいわ」みたいなメールだった」

「アメリカ人っぽい口調なのに宇宙人!? というか、それ結局また終末のお知らせじゃないですか!?」


 そもそも町田さんはマイケルじゃないしな。なにからなにまで違う。というか、慌てるにしても今までより格段に変だ。嘘があからさますぎる。

 つまりそれはなにも考えることが出来ないくらい焦っているということ。だが、ここで問い詰めて焦らせるのは逆効果。


「ま、まぁ、とりあえず新幹線乗りますか。乗り遅れても嫌ですし」

「だ、だね」


 それよりもまずは新幹線に乗らなくては。



 *



「ふ〜、やっと足を休められるよ」

「ですね」


 思えば東京に着いてからは「ヤミーノ」でコーヒーを飲んだ時以外は立ちっぱなし、歩きっぱなしである。

 あまり気づいてなかったが余程体の方は疲れていたのか新幹線のイスに腰掛けた途端、体全体が柔らかくなり力が抜けていく。

 いや、待て。というか抜けていきすぎじゃないか?


「いや、でも本当に今日は楽しかったね! 色々学ばせて貰ったし、夢だった東京スカイツリーにも行けたし」

「で、ですね」


 指を追って楽しかったことをカウントしていく町田さんに俺はなんとか頷く。ま、マズイ。もう力が……というか意識が。


「それに——って赤田くんどうしたの?」


 町田さんが不思議そうな顔をしてコチラを見つめて来るがもう声を発することすら出来ず、意識も薄くなっていく。


 も、もうダメ……だ。



 *



 私の肩に横からなにかが乗りかかる。首筋に少しくすぐったい感覚が訪れ、私は慌てて肩を見る。


「ちょっ、赤田くん!?」


 それは隣に座る赤田くんの頭で私は激しく動揺する。一体、彼はどうしたというのだろうか?


「あっ、寝てる……」


 しかし、彼のまぶたが閉じておりゆっくりとした呼吸を繰り返していることを確認した私は、そんなことを呟く。

 でも、この場合どうすればいいのだろう?


「起こす、のは可哀想だし。このまま寝かせておく?」


 でも、果たしてこの状態でいて私は冷静でいられるのだろうか?

 今ですら心臓がバクバクと自己アピールを始め、体は急激に熱くなっているというのに。


「ちょっ、赤田くん!?」


 と、そんなことを考えていると赤田くんの頭が私の肩からずり落ちて私の膝へと着地を果たした。

 しかし、ここでいつもより短めのスカート丈のワンピースを着ていた弊害が出ることとなる。

 赤田くんの頭は今、私の太ももへと直接乗ってしまっているのだ。


「えっ?? あれぇぇ!?」


 当然、異性にそんなことなどしたことのない私は太ももから伝わってくる感触に戸惑いが隠せず、顔がドンドンと赤くなっていくのを自分でも感じるが……。

 当の赤田くんは気持ち良さそうに眠ってしまっている。その表情たるや、仏様もびっくりな穏やかさである。


 起こせないっ。こんな幸せそうな顔をして眠っている赤田くんは起こせないっ。

 それに私の知っている赤田くんは恐らく疲れたからといって、私の前で眠ってしまうような人じゃない。

 つまり、それは体の方が限界を迎えてしまったということ。


 思えば赤田くんは今日一日大変だったのだと思う。そもそも遠出が久しぶりだと言っていたし、大分私に気を遣って話を盛り上げようともしてくれた。

 その上私の手を引いて走ってくれて、恐らく私が行きたいのが分かっていて東京スカイツリーにも寄ってくれた。

 慣れないながらもここまでしてくれたのだ、相当疲労がたまってしまっていたのだろう。


「赤田くん……らしいな」


 私は自然と笑みをこぼすと幸せそうな顔をしている赤田くんの頭を軽く撫でる。


「お疲れ、今日は楽しかったよ」


 そして私は誰の耳にも入らないくらいの声でそう囁くと赤田くんの頭を撫で続けるのだった。

 しかしもうこの際、膝枕はもういいとして太もも直接は私が保たない。

 なんとかして起こさないようにスカート部分に乗せなくては。


 そして私は到着まで格闘を続けるのだった。





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 次回「えっ?……」


 次回で東京デート(?)編は最後です。良かったら星や応援お願いします。投稿ペースが上がるかもです。


 では!








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