第18話 東京と言えば……アレ


「はぁ、なんか色々疲れちゃったね」

「そうですね」


 駅へと着くと町田さんが手を上に伸ばしながらそんなことを言う。俺も完全に同意見なので頷いておくことにする。


「今日は早く帰って寝るのに限りますね」

「そう……だね」


 俺は何気なく言ったつもりだったが町田さんの言葉の歯切れが悪い。


「なにかあったんですか?」

「んっ? い、いや、なんでもないよ?」


 明らかに挙動が不審だ。……しかし、俺はなんとなく勘付いていた。


「町田さん……別に全然関係ないんですけど、今からもう少し歩けますか?」

「えっ!? そ、そりゃ大丈夫だけど……」


 少し戸惑ったような様子を見せる町田さんに俺は続ける。


「じゃあちょっとだけ寄り道……してきません?」


 何故なら俺は知っているのだから。町田さんがトランプを取り出した際に見えた東京観光のパンフレット……そこの東京スカイツリーに赤丸がデカデカとつけられていたことを。

 まぁ、偶然見えただけなのだが。


「ほ、本当!?」


 そして俺の言葉に瞳を輝かせる町田さん。恐らく俺に遠慮して中々言い出せなかったのだろう。……いやにしても分かりやすぎるけど。

 まぁ、俺も俺なんかが誘っていいものかとひよって今まで言い出せなかったわけだけど。


「ま、まぁ、俺みたいのと行っても楽しくはないかもしれませんが、折角東京に来たんですしね?」

「そんなことないよっ。さっ、行こう!」


 さっきまでの疲れたという言葉はどこへやら、更に目をルンルンに輝かせた町田さんが俺を服を掴むと早く早くとアピールをしてくる。……なんだ、この可愛い生物。

 素直すぎないか?


「いざ京都へ」

「まさかの選択肢!?」

「間違った東京スカイツリーだったね」


 いや、東京スカイツリーに行くとは俺はまだ一言も言ってないし、今のはもし俺が知らなかったとしても行きたがっていたことがバレてしまう発言なのだが。

 まぁ、こんなに幸せそうな顔を向けてくれてるんだ。ツッコミを入れるのも野暮ってなもんだろう。



 *



「はわわわ、高い。凄い高いよ」

「そうですね」


 着いた途端に落ち着かない様子で体をピョコピョコとさせている町田さん。どうやら、余程興奮しているようだ。


「東京スカイツリーと同じくらい高いよっ」

「いや、東京スカイツリーですから」


 軽く語彙力をなくすくらいには興奮しているらしい。これだけでも来た甲斐があるというものだ。


「むぅ。というか赤田くんはなんでそんな冷静なの?」


 俺がツッコミを入れていると町田さんは少し頰を膨らませてそんなことを聞いてきた。様子から察するに俺が落ち着いているのが謎なのだろう。


「まぁ、2回目ですから」

「なるほど」


 とはいえ、この高さには感動を覚えるものだが。流石に町田さんほどではないだろう。というか、町田さんの喜びようと比べれば全てが霞むだろう。

 そしてその後も腕を振って驚いたり、俺の服を掴んでは興奮を抑え切れない様子の町田さんをなんとか宥めながら、ようやくチケットカウンターへと到着することが出来た。


「なんか、ごめん。はしゃぎすぎちゃって……」

「い、いえ」


 少し冷静になって自分の行動を振り返ったのか、申し訳なさそうに項垂れている町田さん。な、なんとかフォローしなくては。


「俺も最初は凄い興奮しましたから」

「私くらい?」

「……」


 真顔でそう問われ思わず押し黙る俺。お互いに静寂が続き少し気まずくなる。


「ご、ごめん。私トイレ行ってくる」

「わ、分かりました」


 そんな空気の中、町田さんはそう言うと近くのトイレの方へと歩いて行ってしまった。

 正直、めっちゃ気まずかったから有り難い。

 いや、町田さんが悪いわけでは全然ないんだけど。

 取り残された俺が1人そんなことを考えていると、視界に明らかに具合の悪そうな女の人が入ってきた。

 その女性は髪の毛が銀髪と大変目立ち遠くからでも美人さんなのは分かるのだが、それに以上に具合が悪そうなのがヒシヒシと伝ってくる。

 何故、誰も声をかけないのだろうか? 俺はそんなことを疑問に思いつつも少しだけ勇気を出して声をかけてみることにした。


「こんにちわ」


 別に俺の勘違いならいいのだ。でも、声をかけずに後悔するなんてことを俺はしたくなかった。


「っ? こ、こんニチわ」


 相手は少しビックリした様子でコチラを見ながらも挨拶をしてくれる。見た所、俺と同じ高校生って所か。だが、近くで見れば見るほど具合は良くなさそうだ。


「あの、大丈夫ですか? 具合悪そうですけど……」


 そこで俺は思い切って率直に尋ねてみることにする。ここでいつまでもウダウダやってても仕方ないしな。


「だ、大丈夫デす」


 相手はそう答えるがやはりとてもそうには見えない。


「いや、汗も凄いですし。とりあえずタオル渡しますね。これ、誰も使ってない奴なんで貰ってくれちゃって大丈夫です」

「い、いや、悪いデスよ」

「あとは……多分座った方がいいですね。そこまで付き添いますからイスに腰掛けましょう」


 相手が申し訳なさそうにしているが俺は構わず続ける。そもそも、知らない人相手に話すことはハードルが高いのだ。まともに会話してたら俺が潰れるっ。



 *



「本当に助かりマした」

「いえいえ、ほんの1分程度手を貸しただけですし」


 女性は大分落ち着いたらしく、イスへと座りタオルで汗をふくと俺に頭を下げる。さっきから日本語にたまに変なイントネーションが混ざっているが……やはり髪の毛の色といい外国人なのだろうか?


「やっぱり髪の毛気になりマす——ってその手帳……アナタ、佐原高校!?」


 俺がそんなことを考えていると銀髪の女性は酷く驚いたような顔でコチラを見つめるのだった。

 えっ!? なんで!?





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 次回「夜景……」


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