第17話 格……


「さて、ここで君達に質問だ。美味しいコーヒーを作る上で大切な要素はなんだと思う?」

「大切な要素?」

「そう」


 俺達がコーヒーを飲み終えその後味を堪能していると本城さんが微笑を浮かべながら、そんなことを尋ねてきた。


「やっぱり挽き方なんじゃないですか?」

「ふむ、町田ちゃんは挽き方っと。赤田くんはどうだい?」


 本城さんは俺の方へと目を向けてきた。そこで俺は考える。やはり町田さんが言うように挽き方は大事だろう、だが他にも色々ある気がする。

 それは店の雰囲気だったり、豆の種類の選別だったり……。


「赤田くんは梅さんに長いこと鍛えられただけあって少し分かっているっぽいね」

「でも、答えが分からないです」

「それでいいのさ、なにせ答えは全て……だからね」


 本城さんはニヤリと笑うとそんなことを口にした。


「妥協していい部分なんてないのさ、本当に美味しいものを作りたいならね。まぁ、これはコーヒーに限ったことじゃないけど」

「「具体的にはどんな感じでやってるんですか?」」


 俺は気になったので尋ねてみるが、町田さんも同じことを思ったのかまたもや被ってしまう。


「……そうだね、店の雰囲気やコーヒーの色……視覚からの情報も美味しさの1つだからね。清掃はキチンと。そして、挽く前にまずは豆を土から……。これは、現地に行って現地の人と話してその豆の強みを理解するのが大事だ。まずは理解……その上で試行錯誤し、他にはない魅力を生み出すんだ。勿論、挽き方も特殊な手順があるけど……流石にこれは教えられないかな」

「そうなんですね」


 町田さんは目を輝かせ話にのめり込んでいた。俺は少し感動を覚えるのとともに、どこか納得していた。何故、これほどまでに美味しいのかということを。


「まぁ、元々は全て梅さんが教えてくれたことなんだけどね」

「そうなんですか!?」


 本城さんが何気なく発した言葉に俺は食いつく。本城さんは少し面を食らったような顔をしつつも笑って口を開いた。


「そうさ、でも流石に歳だからってね。この店を私に託してくれたのさ。だから、私の目標は若い頃梅さんが出してくれたあのコーヒーを超えることにある……って、ゴメンね。こんな話……」

「い、いえ」


 確かにここまで徹底していると歳をとっても続けるということはかなり難しくなりそうだ。それで梅バァは前線を退いたってことか。


「それでも完璧なコーヒーは作れないからって、深く人間関係を築くカフェを作っちゃう梅さんにはもう一生勝てる気がしないんだけどね。いつになったら認めてもらえるやら」


 尊敬のような半分呆れたような声を出す本城さん。感情としては「どうなってんだ、あの人」というのが1番しっかりくるんだろうな。


「い、いやでも梅さんはきっと認めくれてますよ。私達にここを紹介したんですからっ。「学んでこいっ」って。認めてなきゃ言わないですよ。それにめちゃくちゃ美味しいですし」

「おぅ……なんだその素直な褒め言葉。お姉さん可愛がっちゃおうかなぁ〜」

「ちょっ、なにするんですか」


 かなり嬉しそうな顔をしながら町田さんに抱きつく本城さん。なんだろう、美人と美少女だからかとても……絵になる。


「た、助けてっ——」


 そんなことを考えているとかなり必死な顔をした町田さんがそんな声を上げるのだった。



 *



「「ありがとうございました」」

「い、いやいや、こちらこそ楽しかったよ」


 俺と町田さんが揃って今日の感謝を伝えると、本城さんが少し照れたように頰をかいていた。案外、感謝をされるのに慣れていないのかもしれない。


「うおっほん。それより、町田ちゃんはなんで私から少し距離を取るのかな?」


 照れを誤魔化すように大きく咳払いをすると、話題を早く変えたいのか本城さんは町田さんに狙いを定める。


「い、いや、そんなことないですよ?」


 対する町田さんはそんなことを言いながらもジリジリと本城さんと距離を取る。あの後、かなり撫で回されてたからなぁ。


「やっぱり、距離を取ってるじゃないかっ」


 対する本城さんもジリジリと町田さんの元へと歩み寄っていく。この人……コーヒーに対する情熱は凄い人なのだが変態性もかなり凄い人だ。


「じ、じゃあ、私達はもう行きますね」

「町田ちゃんは泊まっててくれても大丈夫だぞ? 勿論、お布団は一緒」

「は、早く帰ろうか? 新幹線に遅れるのもアレだし」

「そ、そうですね」


 貞操の危機を感じ取ったのか町田さんが俺の服の裾を引っ張ってそんなことを言う。俺も完全に同意なのでそのまま町田さんと共に走り出すのだった。

 なんか、今日は逃げてばかりな気がするけど……まぁ、こういう日もあるよな。いや、あんまりないけど。



 *



「フー、中々に面白い子達だったなぁ」


 赤田くんと町田ちゃんが去った後、私は1人そう呟く。素直で可愛い町田ちゃんに、地味めだが熱心でコーヒーに関する情報も厚い赤田くん。


「ったく、夏が楽しみでしょうがないよ」


 私は笑い堪えきれず1人笑い声を上げるのだった。



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 次回「東京と言えば……アレ」


 東京編……もうちっとだけ続くじゃぞ。良かったら星や応援お願いします。投稿頻度が上がります。


 では!







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