第16話 ブレンドコーヒーの真髄……


「なんか凄い所なのに俺達2人だけって不思議な気分ですよね」


 本城さんがいなくなった今この場にいるのは俺と町田さんのみであり、流石にこの状態は俺のメンタル的に死にそうになるので軽く話題を振ってみることにする。

 陰キャにとって陽キャとの無言の時間ほど恐ろしい物はないのだ。まぁ、変な話振って更に悪い雰囲気になることもしばしだが……そこは町田さんだ。大丈夫だろう。

 並みの陽キャじゃないからな。


 そう思ったのもつかの間、町田さんからの返答はコクリと小さく頷くもののみであった。

 完全に俺としては万策尽きた状態である。そもそも、俺に会話術などない。町田さんが繋げてくれなければ大した話題にはならないのだ。

 というか、やっぱり嫌われてしまったのだろうか?


「い、いや、全然嫌ってはない……よ?」

「えっ!?」


 ここで町田さんが久しぶりに俺に向け言葉を発してくれるが、俺は少し状況が分からず固まってしまう。……まぁ、発してくれたとは言え顔は向けてくれてないんだけどな。


「い、いや、普通に声に出てたよ?」

「!? 本当ですか!?」

「……う、うん。というか、赤田くんって焦ってると声に出やすい傾向にあると思う」

「そうなんですね」


 若干言葉をつまらせながらも俺の疑問を感じ取ってか教えてくれる町田さん。


「そ、それはそれとして……そのーなんでさっきから顔を隠してるんですか? い、いや、問い詰めてるって言うより純粋な疑問なので無理に答えなくて大丈夫ですけど」


 どこからか「ひよったな」と言う声が聞こえて来そうだがしょうがないだろう。

 だって、これで「顔も見たくもないから」とか返って来たらとても俺のガラスのメンタルでは耐えられない。

 しかし、町田さんはそんなことは極力口しないだろう。だからこそ無理をしないでいいの一言。

 これによって俺がどれだけ嫌われていようと「顔も見たくないから」という言葉は絶対に返って来ない、そういうこれは高等テクニックなのだ。

 断じて逃げているわけではない!


「いや、だから嫌ってないよ? というか、さっきから色々と漏れすぎだし……」

「今のもですか!?」


 馬鹿なのだろうか、俺。何故、数秒前と同じことを繰り返しているのだろう。


「まぁ、理由はちょっと言えない……かな」

「えっ、あっはい」


 俺がそんなことを考えていると町田さんは少し恥ずかしそう顔を赤らめると、今度はそれを誤魔化すかのように軽くはにかんだ。

 俺はそのとんでもない威力に翻弄され、どう返していいのか分からず言葉に詰まってしまう。


「んんっ。……やっぱり今日なんかダメだ、私。ゴメンね?」

「い、いえコチラこそ……」


 町田さんが申し訳なさそうにそんなことを言ってくる。


「さて、青春を謳歌する愚かものどもよ、ブレンドコーヒーのお届けものだ」

「なんで、普通に渡してくれないんですか!?」


 場に若干気まずい空気が流れていると、そこに全く空気を読まずに本城さんが姿を現すとコーヒーをテーブルの上へと並べる。

 いや、所作は見事という他ないし手際も物凄くいいのだが……セリフがカフェ屋の店員のそれではない。


「おっと、それは失礼したね。私としては自分に彼氏が出来たことがないから目の前でイチャつかれるとムカついて仕方ないだけなんだ。許してくれたまえ」

「そうですか。それなら仕方ない——ことでは全然ないですねっ!? 思っクソ、ただの私情ですよね!?」


 危ねえ。今、雰囲気に流されそうになったわ。


「し、しかもイチャついてないですよっー」


 町田さんが少し怒りからか顔を赤くしながら、声を張り上げるが本城さんが気にした様子はない。それどころかどこか楽しそうだ。


「まぁまぁ、カッカせずコーヒーでも飲んで落ち着いてくれたまえ」

「いや、刺激して来たのアナタですよね?」

「うむ、まさしくマッチポンプって奴だね」


 なんか違う気もしたがこのままこの人のペースで喋り続けても、意味がないことに気がついた俺は大人しくコーヒーの入ったコップを手に取る。

 前では町田さんも俺と同じ考えに至ったのかカップを手に取っていた。

 というか、この時点で香りからして凄いな。なんと表せば良いのだろうか……昔の貴族にでもなったのかと錯覚させるような優雅で上品な香り。

 しかし、香り自体は梅バァが淹れたコーヒーでもあるようなもの。実際、凄いのはそれをここまで引き出し脳内を支配するという香りの引き立て方だろうか。

 コーヒーをただ淹れたというだけでは到底到達しえない境地。


「じゃあ、いただきます」

「いただきます」


 俺がそう言うとほぼ同じタイミングで町田さんもそう言い、お互いにやはりほぼ同じタイミングでコーヒーを口へと運んだ。


「「っっっ!?」」


 その瞬間、今まで味わったことのない旨みがそして苦味が舌を刺激し体を駆け回る。

 俺と町田さんが驚きを隠せないでいると、


「本当に疑うほど息が合うな、君ら」


 本城さんが少し呆れたような顔をしながらも自慢げに笑っていた。





 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「格……」


 良かったら星や応援お願いします。投稿頻度があがるかもです。尚、本日は投稿遅れてすいません。理由はよう実は面白すぎた! 以上!


 では!
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る