第15話 一流……


「いやぁ、梅さんからの人材の紹介なんて珍しいからさ。楽しみで仕方なかったんだ。だから、中で待ってられなくてつい……ね?」

「はぁ……」


 若い女性は少し申し訳なさそうにそんなことを言う。若干言い回しに違和感を感じつつも、どう答えていいのか分からず曖昧に頷く。


「あっと、まだ名乗ってなかったね。私は本城ほんじょう 小百合さゆり。気軽に

略して今世紀最大の完璧超人美女とでも読んでくれたまえ」

「呼ばないですよ!ってか、全く略してないどころか馬鹿みたいに長いですし」


 胸を張って高らかにそんなことを言い始めた本城さんに一応ツッコミを入れておくが、効果があるかは分からない。というか、この人は本当になんなんだ。


「ふっ、私は馬鹿じゃない! 1足す1だって出来るっ」

「その発想が既に馬鹿なんですよーっっ」

「ふむ、君は中々いいツッコミをするね。流石梅さん紹介の人材だ」

「俺の評価ポイントそこなのおかしくないですか!?」


 なんかずっとペースが掴まれっぱなしだ。というか、店長なんだから店の中を見てなくて大丈夫なのだろうか?


「その心配はいらないよ? なにせ、今日のこの時間帯は君達しか来ないように他の予約はお断りさせて貰ってるからね」

「なんで心読んで——えっ!?」

「えっ!?」


 思わずツッコミを入れようとした俺だが、本城さんが途中でとんでもないことを口にしたことに気がつき思わず口を止める。

 そして俺の隣では今までずっと顔を伏せていた町田さんも顔を上げて、驚きを露わにしていた。


「いや、まぁ正確に言えば普段なら営業していない時間帯に君達を招いているだけなんだけどね」

「そ、そうなんですね」


 本城さんが軽く笑いながらそう言うと町田さんはどこか納得したように頷くが、俺はどこか嫌な予感を抱いていた。どこかおかしい。

 流石に好待遇がすぎる気がする。

 とはいえ本当にただの好意で行なってくれているとしたら、このことを口にするのは失礼なので口には出せない。


「ふーん」


 しかし、黙って色々と考える俺を見つめて本城さんがどこか楽しそうに笑った顔が見えた——気がした。


「じゃあ、そろそろ中へ入って貰おうか」

「「は、はい」」

「あはは、めっちゃ揃ってる。やっぱりカップルだよね?」

「違いますっっ!」


 町田さんは珍しく大声を上げて否定をする。

 まぁ、そりゃ俺とカップル認定されたらたまったもんじゃないか。


「ふ〜ん、なるほど、ね」

「な、なんですか!?」


 すると本城さんは子供がオモチャでも見つけたかのような笑みを浮かべると、俺と町田さんを見比べる。


「なんでもないよ? さっ、入って入って」

「……分かりました」


 本城さんにそう促され町田さんはなにかを諦めたような顔をすると店の中へと入る。それに続いて俺も店の中へと入るのだった。

 にしても、町田さん終始俺に顔を見せてくれなかったな……。余程、嫌われてしまったのだろうか?



 *



「さっ、どうだい。ウチのび、びっ、ぷ? 席は?」

「凄い……ですけどなんで他の店員さんいないんですか?」


 何故かVIPを言おうとして噛みまくっている本城さんに訂正を入れつつも、俺は当然の疑問を投げかける。確かに凄い手入れが行き届いていて言葉にならないくらいオシャレだし、普通のお店の何倍あるスペースなんだとは思うけどな。

 でも、やっぱり他のお客さんも店員もいないのが違和感でしかない。


「いやぁ、流石にいつもない時間のシフトには皆んな集まってくれなくてね。まぁ、とはいえ2人なら私で充分に対応出来るから大丈夫さ」

「そ、そうなんですね」

「まぁ、そんなことはいいさ。ご注文は決まったかな?」

「「じゃあ、ブレンドコーヒーを1つ」」

「……なんだってそんなに揃うんだい? やっぱり付き合ってるんじゃないだろうね?」

「「ないですよっ」」


 確かに異様にタイミングも発言も揃っているがこれだけで俺と付き合っていると思われては、町田さんが可哀想なので俺も今回は一応反論しておく。


「まっ、いいさ。お楽しみにしていてください。お客様っと」


 そして本城さんは伝票を書いてテーブルの上に乗せると、そんなことを言って軽く手を振りながら店の奥へと消えていくのだった。





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 次回「ブレンドコーヒーの真髄……」



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 では!


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