第14話 到着……
「あ、あの、着きました……ね」
俺が隣で耳と顔を手で覆ってしまっている町田さんにそう声をかけると、いつもような返事は返ってこず代わりにコクリという小さな頷きが返ってくる。
「あ、あの、本当にすいませんでした。勝手に手を握ってしまって……」
パリ男を引かせる為とは言え了承も得ず行ったことに対し俺は謝るが、これに対しても返事はせず代わりに首をブンブンと横に振る動作をする町田さん。
さっきから全然声が聞けてないな。……もしかすると、俺が勝手に握ったことを相当怒っているのかもしれない。
というか、それも当然か……。
「ほ、本当にごめんなさい」
「だ、大丈夫。ただ、びっくりしただけだからっ。……それに手を繋がれて嬉しかったし」
「えっ?」
まだ顔と耳は隠しながらもようやく声を出してくれた町田さんの言葉を聞いて俺は思わず固まる。
「あ、あくまで友達としてだよ!? 変な意味じゃないからね!?」
俺がどういう意味で言ったのかと頭をパニックにさせていると、町田さんは少し大きな声でそう付け足した。
「そ、それは分かってます」
「だ、だよね」
お互いに顔を合わせることすらままならない。なんだこれ。今、凄いダメだわ。なんか細胞という細胞が燃えてしまっているような感覚。
つまりなにを言いたいのかと言われれば体が沸騰している、以上!
「だ、だからさ、謝る必要なんて全然ないよ? おかげで切り抜けられたし、私は友達と手を繋いだだけ。というか、私が助けてもらっただけだから」
町田さんはようやく言いたいことが言えると言わんばかりに先程より声を大きくし、そんなことを言う。……相変わらず顔と耳は隠しながらだが。
「い、いや、今思えば他にも色々方法があったのに申し訳ないなぁと……」
俺はあの時彼氏のフリをするくらいしか思いつかなかった。だが、冷静に考えればもっといい方法があったのではないかと思ってしまう。
「それは……違うよ。赤田くんはあの時考えられる手段でどうにかして助けようと思って行動してくれたんだよね? やっぱり私に謝る必要はないよ」
しかし、町田さんは俺の言葉をハッキリとこれまでにないくらいに否定すると、そんなことを言ってくれる。
「それに他の方法だったら赤田くんと手を繋げてないからラッキーだしね」
「へっ?」
町田さんが自然と零した言葉に俺は再び固まる。
「あっ、い、いや、赤田くん友達との握手とか言っても「俺なんかが」とか言ってしてくれなそうだから。そ、そういう意味で……」
「な、なるほどです」
途中でなにかに気がついたようで慌ててそんなことを付け加える町田さんに対し、俺はそう返す。
しかし、お互いに次どう喋っていいのか分からず目を合わせられない。そんな状態が数十秒ほど続いた時だっただろうか?
「あー、お客様。店先でのイチャイチャは他のお客様に殺意、妬み、嫉妬などを抱かせますのでほどほどにしてください」
「「!?」」
突如としてそんな声が頭上から聞こえて来たのは……。俺が慌てて顔を上げるとそこには、黒のエプロンを身に纏いコーヒーのデザインの帽子を身につけた若い女性がニヤリと笑って立っていた。
「お2人さん、赤田くんに町田ちゃんだね?」
「な、なんでそれを……?」
まだ顔を上げていない町田さんに代わって俺が当然の疑問を投げかける。
「何故って、そりゃ私がこの店の店長であり梅さんのお友達であり君たちを招待したものだから」
若い女性は当然だと言わんばかりにそう言うがまだ分からないことも多い。
「でも、まだチケットもなにも見せてないのになんで分かったんですか?」
「なーに、梅さんが寄越してくる人材って言われればある程度雰囲気だけで分かるもんだよ。客商売は相手をよく見る。これが基本だからね」
「な、なるほど」
なんか、凄すぎるような気がするが東京で大人気の一流のカフェ屋の店長だからな。それくらい出来てようやくなのかもしれない。
「あと、梅さんが寄越してくれた君の写真を見ればある程度分かる」
「いや、それは分かりますよっ」
違った。この人ただ写真を持ってただけだ。というか、梅バァなんで俺の写真渡してんだ。
「まぁ、ようこそカフェ屋「ヤミーノ」へ。存分に味わい学んでいってくれたまえ」
そして、若い女性はまた大きくニヤリと笑うと高らかに俺たちに向け、手を広げながらそんなことを言うのだった。
いや、まだ町田さん顔を伏せてしまっているがこれは大丈夫なのだろか?
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次回「一流……」
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