第13話 視線……です


「や、やっぱり凄い人だね」

「そうですね」


 俺の後ろから珍しく少し怖がっているような声を出す町田さん。今、現在ははぐれないようにと俺の服の後ろの裾を掴んでいるのだが、少しその手も震えているのが伝わってくる。

 いつも人に囲まれているから大丈夫だと勝手に思っていたが、どうやら人混みは苦手らしい。


「突然、歩いてる人が刃物持って襲いかかってきて気がついたら女神みたいな人にスキル選択させられたらどうしよう……」


 なんか怖がってる理由が若干おかしい気がするけど……怖がっているものは怖がっているのだ。


「大丈夫ですから」

「ほ、本当に?」


 俺が少しでも安心させるべく声をかけると、声を震わせながら心配そうに上目遣いでコチラを見てくる町田さん。

 少なくともそんな定番の異世界転生みたいなことが起こることはないだろう。うん。


 しかし別の問題は巻き起こってるかもしれない。さっきから視線がっ。

 いや、町田さんはたださえ可愛いというのに今日はやや短めの白のワンピース着てるからな。

 そりゃ二度見とかされても不思議じゃないが出来れば、その後俺の顔を見て「お前がか?」みたいな驚いた顔をするのはやめて貰いたい。


「おい、そこの可愛い子」


 そんなことを考えながらも、怖がる町田さんを連れてカフェ屋へと向かって歩いていると突然そんな声が聞こえてきた。


「そこの子だよ。そこの白のワンピースの子」

「わ、私?」


 俺が声のした後ろの方を振り返るとそこには、黒のサングラスに金色のネックレス派手なピアスに何故か大量のリングを手に通した、見るからに怪しい男が立っていた。

 風貌だけ見ればまさしく「僕、不審者ですよ」と申告でもしてるかのようだ。


「そっ、君可愛いなと思って。良かったらこれから食事でもどう?」


 どうやら目的は町田さんらしく、軽い口調でそんなことを言う。そしてその見た目も相まってかいよいよ完全なパリピ大学生にしか見えなくなって来た。

 名前は分からないから以後はパリと勝手に呼ぶことにしよう。


「ご、ごめんなさい、用事があるから」

「ちっ……じゃあ、メアドだけでも」


 メアド!? お前いつの時代の人間なんだ、パリ男っ! 今の時代メアド聞く奴稀だぞ。


「それも無理です」


 そして当然のごとく町田さんは拒否。というか、もしナンパが上手くいっていたとしてもメアド聞いてたんじゃ断られる気がする。


「ちょっとくらいいいじゃん、なぁ?」


 というか、さっきから町田さんの様子がおかしい。いつもならこういう誘いはバッサリ切り捨てているのだが今日は違う。やはり、人混みに慣れていないからなのか顔色も悪い。


「ごめんなさい。俺と用事があるんで無理なんですよ」

「あっ? 誰だテメェ」


 そこで俺はそう声を上げるが返ってきたのは少しドスの効いたそんな言葉。というか、パリ男の視界には俺が映っていなかったらしい。いや、目の前にいたんだけど。


「まぁ、いいや。どうせ彼氏でもないんだろ? おい、可愛い子行こうぜ!」

「っ!?」


 パリ男はさっきから町田さんが何度も断っているのにめげることなく誘いを続ける。そして何気ない動作で町田さんの元へと手を伸ばした。


「あんっ?」

「あ、赤田くん……」


 その時俺の体は自然に動き町田さんとパリ男の間に入り、パリ男の手を町田さんに届かせぬように掴んでいた。


「パリ男さん、今あなたなにしようとしました?」

「なにって手を掴もうとしただけだろ? というか、俺パリ男じゃねぇしっ。吉田 直樹だし。ってかお前は口出すなよ、ガキがっ」


 不快感をあらわにして俺に噛み付いてくる吉田 パリ男。


「口出ししますよ。俺はこの子の彼氏ですから」

「なっ!?」

「っっ〜〜〜っっ!?」


 吉田 パリ男が酷く驚いた顔をし、俺の後ろでは町田さんが激しく動揺している気配がしたが……許して欲しい。正直、この場はこうするしかない気がするのだ。


「嘘だっ。お前みたいな地味な奴が付き合ってるわけないだろ!?」

「な、なんてこと——っっっっ〜〜!?//」

「これで分かったか?」


 吉田 パリ男の言葉に反応し言い返そうとしていた町田さんの手を握りパリ男に見せつける。町田さんは今度は顔を真っ赤に蒸気させていたが……本当に許して欲しい。罰ならいくらでも後で受けるから。


「そ、そんなわけ」

「じゃあ行くよ」


 俺がなんとか冷静を取り繕いながら手を握ったまま町田さんにそう声をかけると、町田さんは少し顔を俯かせ赤く染まった耳を見せながらコクリと小さく頷いた。


「お、おい」


 そして俺と町田さんの手を握ったまま走ってその場を去るのだった。






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 次回「到着……」



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