第12話 人混み……
「「つ、着いたぁ〜」」
俺と町田さんは新幹線から降りると揃ってそんな声を上げる。なんだろう。新幹線に乗ってただけで特に乗り換えとかもしてないんだけど……凄い疲れたような。
ちなみに兼田くん達は町田さんと弟(嘘)の邪魔をしないようにかは分からないけど、素早く立ち上がると俺たちより早く新幹線から降りた。まぁ、おかげで助かったけど。
「じゃあ、行きますか?」
「ここからは歩きだもんね」
改札を通った俺と町田さんはそんなことを話しながら駅を出る。すると、その途端道には人、人、人、人、人、人、人、人。
とにかく、人っ!
「す、凄いね」
町田さんも驚いたようでやや戸惑ったような声を上げるが……俺も同意である。東京はなにも初めてというわけではないが……毎度この人の多さには驚かされる。
そういや、町田さんは初めてだって新幹線の中で言ってたっけか?
「これはちょっと高い所に行って「人がゴミのようだ」って言いたくなるね……」
俺がそんなことを考えていると町田さんはそんなことを呟くが……ちょっと俺には理解出来ない概念だった。うん。これは同意は出来ん。
「あっ、あ、いや、違うよ? 冗談だからね?
そんなことしないからね? あくまで願望だから」
つまり、出来ればしたいと思っているらしい。……なんか、色々と残念だ。
いや、俺なんかが町田さんを残念とか思うの太陽もビックリの傲慢さだが、なんか残念なのは確かだ。
「というか、こんなのどうやって歩くんだろう。絶対引き裂かれちゃうでしょ。「あ〜れ〜」とかそんな感じで」
「なんで着物剥ぎ取るシーンみたいな感じなんですか!?」
「でも、そうだよね」
「まぁ、それは……」
表現こそ若干おかしいものはあったものの確かに町田さんの言う通り、このまま普通に歩いていけば途中ではぐれてしまう可能性も高いだろう。
「なにせ、人がゴミのようにいるんだからね」
「結局言うんですね」
そんなことしない、とはなんだったのか。
まぁ多分俺との会話を途切れさせない為に、俺が会話しやすいようにボケてくれてるんだろうけど。
「でも、実際問題困りましたね」
「だね……」
俺の言葉に深く頷く町田さん。別に町田さんは普通に頷いているだけなのだが、それでも絵になるのだから不思議だ。まぁ、つまり町田さんそのものの素材が良すぎるというわけだが。
それに、心なしか人(主に男性)がコチラの方をチラチラと見てくるような気がするしな。
「どうしようかな」
「そうですね……」
そこで俺は1つの考えが浮かんだ。……が、これは果たしてどうなのだろうか?
「あっ、なんか思いついた?」
「い、いや、流石になしかなぁ……と」
「なんでもいいよ。別にダメだったらダメでまた考えればいいから、言ってみて? 私なんも思いつかないし、ね?」
俺が言い出しにくくどうしようかと思っていると、町田さんが明るくそんな声をかけてくれる。
そう、だよな。ダメだったら別の手を探せばいいんだから。意を決した俺は口を開く。
「その、掴んで歩けばいいかなぁって」
「へっ!?」
俺はそう言いながら町田さんに一歩近づいた。すると町田さんが変な声を上げた。
「すみません。嫌だったら別に……」
「い、いいよ。というか、それしかないし。でも、ちょっと心の準備だけさせて?」
「は、はい」
思わぬ賛同を得て俺はやや慌てながらもそう答える。すると町田さんはなにやら目を閉じた。どうしたのだろうか?
「あのー、大丈夫です——」
「よしっ!」
少し心配になった俺が声をかけた瞬間、町田さんは一言そう言うと自分で自分のほっぺたを軽く叩き目を開けた。
「へっ?」
そしてその白く繊細な手で俺の右手をガッシリと掴んだ。……なんて、柔らかく小さいんだ——じゃないっ。違うだろ、俺!
「じゃ、じゃあ行こうか?」
いつもより声の音量が下がり、少しだけ恥ずかしそうにしながらそんなことを言う町田さん。
どうする? 言うべきか? いや、言おう。じゃないと俺が保ちそうにない。
「す、すいません。ちょっと言いづらいんですけど……俺は、どちからがもう一方の服の袖を掴んで歩けばいいと言う意味でさっき言って——」
「ん!?」
町田さんは時間停止の技でも食らったのかと思うほど、その場で見事に硬直。
「ごめんなさい、本当にごめんなさい」
そして次の瞬間、俺の手を離すと一瞬で顔を真っ赤に染め全力で何度も頭を下げてくる。
「だ、大丈夫です、大丈夫ですから。自分の言い方が悪かったのでっ」
当然、焦るのは俺の方である。
「……本当にごめん」
「だ、大丈夫ですから」
その後も何度も泣きそうな顔をして謝ろとしてくる町田さんを俺はなんとか宥めるのだった。
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次回「視線……です」
今、改めて考えてみると手を繋ぐより服の裾を掴むほうが破壊力ヤバくないですか?(唐突)
そんなわけで良かったら星や応援お願いします。次回はそんな状態(服の裾を掴んだ)で2人が東京を歩いていきます。
では!
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