第11話 ピンチ……です


「ど、どうしま—」


 俺が気を動転させ慌てていると、突然町田さんがカバンから持って来ていた帽子を俺の頭に被せる。


「町田さ—」

「あんまり喋らないで、顔を俯かせておいて。私がなんとかする。分かった?」


 俺が何故こんなことを尋ねようとすると、町田さんにそう耳元で囁かれ吐息がかかる。俺はそのせいで更に気を動転させながらも小さくコクリと頷いた。

 確かに町田さんはもう見られているのだから隠すことは不可能。なら、俺の顔を見せなくしてしまえばいいという事だ。

 ただ、問題があるとすれば問いただされた場合どうしよもないが……なんか策があるっぽいし大丈夫だろう。うん。


「こんにちは、すごい偶然だね〜」

「本当だね」

「おいっおまっ。ったく、よく普通に話しかけられんな」


 ついに長坂さんと兼田くんがすぐ側まで来て町田さんに話しかけてくる。

 顔は俺も帽子を全力で隠している為見えないが、声から少し兼田くんが呆れているのが伝わってくる。


「2人は何の用があって乗ってるの?」


 町田さんは自然な流れで長坂さんと兼田くんにそう尋ねる。俺のことに尋ねられる前にさきに質問して少しでも興味を失くさせるのが目的だろうかん


「え、えっと、ほらアレですよ。アレっ」

「アレ?」

「アンタ馬鹿なんじゃないの? アレって言って伝わるわけないじゃん」


 兼田くんがやや答えにくそうにしながらそう口を開き、それに対し今度は長坂さんが呆れたような声を出す。


「まぁ、端的に言えばデートなのかなぁ」

「真澄おまっ」

「別にいいでしょ……いつまでも隠しとくの無理だし。秘密にしといてアンタが誰かに告られんのも嫌だし」

「デートかぁ」


 要するに付き合っているらしい。うん、青春って眩しいね。

 俺には縁もゆかりもないどころか体を蝕む呪いでしかないワードだけど※一部の非リアの個人的な意見です。


「それで、その町田さんの隣の男の人……だれ?」

「あー」

「そう、俺はそっちのが気になってた」


 先程から少し黙り込んでいた兼田くんがここぞとばかりに声を出す。どうやら、付き合ってるのがバレて恥ずかしがっていたみたいだ。

 純粋ウブかっ! 初恋なのか、兼田くん。


 まぁ、そのせいか俺に矛先が向けられてしまっているのだけど……これ、どうするんだ?


「弟……だね」

「「「はっ?」」」


 長坂さんと兼田くんは完全に虚を突かれたように声を出し、ついでに俺も思わず小声で反応してしまう。いやいやいや、それはどう考えても無理があるだろっ。


「えっ、いや、自己紹介の時町田さん妹しかいないって…」


 長坂さんが町田さんにそう声をかける。そう、そうなのだ。町田さんは始めの自己紹介の際そう言っているのだ。

 というわけで明らかに無理なわけだが一体どうす—。


「そ、その、つい先日ピョコっと生えてきて出来ましたみたいなー」


 俺はキノコかなにかなのだろうか? いや、というか流石にそれは絶対に無理だろ。


「ま、マジか。そんなことが……」


 そう思っていた時期が俺にもありました。……マジかよ、兼田くん。


「いや、そんなわけないじゃん。というかアンタ馬鹿すぎない?」

「えっ、違うの!?」


 しかし、長坂さんには当然のごとく通じず兼田くんも嘘だと言うことに気がつく。

 いや、俺としては兼田くんが本当に信じていたことに驚きだよ。めっちゃレアすぎるピュアボーイだろ。最早、天然記念物レベルだろ。これ。


「ま、まぁ、あくまで冗談だよ? 本当はね」


 というか、町田さんの声の慌てようを見るに誤魔化せると思っていたらしい。……兼田くんレベルがもう1人。だが、次は大丈夫だろ。

 頭もいい町田さんだ。さっきの失敗を生かし次は完璧な回答を——。


「妹みたいな存在だから弟だと認識してなかったのっ」


 妹みたいな弟ってなに!? 弟は普通に弟じゃない!?


「そうなんだ」

「うん」


 それは流すの、長坂さん? いや、どう考えても無理あるんだけど。いいのだろうか。いや、俺はこの方が助かるんだけどね。なんか変な感じである。


「まぁ、よろしくね。弟くん」

「……ッス」


 そして長坂さんが少しコチラに近寄りながらそんなことを言って来たので、俺は少し帽子を更に深く被るとあまり声を出さず短く返事をする。


「声可愛いっ」

「だな」


 すると、俺の返事に対し長坂さんと兼田くんがそう反応する。この場合、可愛いは褒め言葉なんだろうか?


「じ、じゃあ今日はたまたまだけど会えて嬉しかっ——」

「ちょっと顔だけ見せてよ」


 町田さんがそろそろ終わりにして、この場を収めようとしたその時であった……長坂さんはなんの気兼ねなしに俺の帽子へと手を伸ばして来る。


 マズイっ! が、なんとかして避けようにも視界は帽子を深く被っている為手が伸びてきているのが僅かに分かる程度、それになによりもこのスペースでは避けようもない。

「終わり」そんな言葉が頭に浮かんだ時であった。


「っ!?」

「か、花凛ちゃん!?」


 しかし、長坂さんの手が俺の帽子を取ることはなかった。何故なら町田さんが俺を守るように俺に覆い被さり、間に割って入ったからである。

 長坂さんもビックリしたようでかなり声を上げていた。


「ご、ゴメンね。弟、人見知りだから顔とか見られるの嫌なんだ……」

「そ、それはゴメンなさい」


 音だけしか聞こえないが長坂さんが遠ざかっていくのは分かる。


「じゃ、じゃあ旅行を邪魔するのもアレだし、俺らも席戻るかっ。ココだと邪魔になるし、な」

「う、うん、そうだね」


 兼田くんがそう言うと長坂さんもそれに答え2人は歩く音が聞こえ始め、それはやがて聞こえなくなった。

 つまり乗り切れたというわけだ。よく、あの状況で行けたな。だが——。


「あ、あのー、もう2人は行きましたよ?」


 何故、町田さんは未だに俺に覆い被さっているのだろうか。正直、心臓がヤバイのだが。お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか案件が起こってしまいそうなのだが。


「そ、そうだね。ご、ゴメン」

「い、いえ」


 町田さんは俺に言われハッとしたように声を上げると、慌ててどいてくれた。


「ほ、本当にゴメンね?」

「いえ、俺を助ける為だったのは分かってますから」

「う、うん」


 俺がなんとか冷静を取り繕いそう返すと、町田さんも必死にブンブンと首を縦に振って頷くのだった。

 その後もしばらくはお互いに目も合わせられず先程までとは違い、静かな時間が過ぎていく。


 そして、そんな中俺は思う。多分、あの感触を完全に忘れることは出来ないだろうと。




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 次回「人混み……」


 次回ついに東京到着。一歩、また関係が近づいたり近づかなかったり……?

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 では!

















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