第10話 移動……です


「わっ! 景色が凄い勢いで変わってくっ。凄い、凄いねっ」

「そ、そうですね」


 通路側の席に座っている町田さんがかなりテンション高めに声を上げ、俺の肩をポンポンと叩く。

 いや、俺からすると隣の席ということもあってか、町田さんと距離が近すぎる上に町田さんが乗り出して見るもんだから、それどころじゃないんだけど。

 にしても、町田さんのこの反応……。


「もしかして新幹線初めて……ですか?」

「あはは、分かるの?」

「いや、テンションがいつにも増して高かったので」


 なんとなく察してはいたが、町田さんは新幹線初心者らしい。なんとなく高校までには皆んな一回くらい乗ってるイメージだったから、なんか変な感じだ。

 というかまた笑ってるし、本当に今日はテンション高いな。……いや、新幹線が来るまでは俯きっぱなしだったけど。


「いやー、人類の進歩は凄いね」

「町田さんは一体いつの時代の人間なんですか!?」

「多分、未来だと磁石と力とか使って浮いて物凄い速さで移動できるものとか出来てるかも」

「それリニアですっ。もう、既にある奴です。というか、さっきから分かってて言ってますよね?」

「うっ、バレちゃったか」


 俺が指摘すると少し悔しそうな表情を見せる町田さん。いや、アレでバレてなかったと思ってたのか。やっぱり素直というか単じゅ_——いや、なんでもない。


「よしっ、じゃあババ抜きやろう。トランプ持って来たんだよね」


 しかし、次の瞬間にはコロッと表情を変えて鼻歌を歌いながら持ってきていたバックからトランプを抜き出す町田さん。

 だが、しかしババ抜き……か。


「あのー、すいません。多分、2人しかいないのでババ抜きはちょっと難しいかもです」

「あっ」


 俺が町田さんにそう指摘をすると、まさしく今初めて気がついたと言わんばかりに目を丸くし次の瞬間には恥ずかしそうに顔を隠してしまった。

 なんか何も悪いことしてないのに罪悪感が。


「そ、そうだ。神経衰弱とかどうですか?」

「……私、ババ抜きのルールしか分からないんだよね

「そうですか……」


 つまり、完全にこのトランプは使い道が消えてしまったということだ。

 あぁっ、なんか町田さんが物凄く悲しそうにトランプをしまっていく。なんか、背中からも哀愁を感じるな。


「ご、ごめんね。意味のないもの持って来ちゃって」

「そんなことないですから。俺に気を回して持って来てくれたの分かってますし、気持ちだけで嬉しいですよ」


 さっきまでのテンションはどこへやら、子供が叱られた時のようにシュンとなってしまった町田さんに俺は慌ててフォローを入れる。


「うぅ」

「大丈夫、大丈夫ですから」


 それでも町田さんはまだかなり落ち込んでしまっているようだ。


「っ、!?」

「な、なんですか?」


 すると、途端に顔を上げ驚いたような顔をコチラへと向けてくる町田さん。


「手がっ、手が」

「えっ? あっ、あっ、すいませんっ!」


 俺は町田さんにそう指摘され初めて自分が町田さんの背中を撫でていたことに気がつく。

 どうやら無意識の内にやってしまっていたらしい。なにしてるんだ、俺っ!


「本当にすいませんっ」

「だ、大丈夫。大丈夫だから少し驚いただけだから、ね?」


 町田さんは優しいからか絶対に嫌だったろうにそう声をかけてくれる。


「本当に自分ごときが触れちゃってすいません」

「……別に嫌じゃないって言ってるのに」

「? 赤田さんそれってどういう___」

「あれ? あれ、もしかして町田さんじゃね」

「本当だ」


 俺が町田さんの発言を少し不思議に思い尋ねた……その時であった。どこかで聞いたことがあるような声が聞こえて来たのは。

 俺は慌てて少し立ち上がり声のした方向を見る。すると、


「あれ? 誰かと一緒? というか男とじゃね?」

「うーん? どうなんだろ」


 そこにはコチラに向かって歩いてくる男女の姿があった。


「兼田くんに長坂さん!?」


 町田さんの声を聞き俺は焦る。思いっくそクラスメイトじゃん。というか、この状況はマズすぎるだろっ!

 一体どうすれば……。




 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→


 次回「ピンチです……」


 少しでも続きが気になったら星や応援お願いします。投稿が早くなるかもです。


 では。








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