第23話 準備は整った

「ふうっ……この技名、物騒だからあんまり口にしたくないけどな」



戦技を発動させるには基本的には言葉を口にしなければならず、技名を告げないで仕掛けようとすると失敗する事も多い。ちなみに「辻斬り」の戦技だけは最初から覚えていた技であり、今後もレベルが上がれば新しい戦技は覚えられるはずだった。



「流石に上級職なだけはあってレベルが上がるのが遅いな……でも、その代わりに成長率は高い気がする」



狩人の限界レベルまで到達した時と比べ、転職した事でレベルが1になったリトは身体能力が大幅に落ちている。しかし、今までのどの職業の時よりもリトはレベルが上がった際に強くなっている実感を抱く。


現在のリトのレベルは「15」だが、これ以上のレベル上げは難しいと思われた。いくら狩場や経験石でレベル上げを計ろうと、今の段階では戦える魔物が弱すぎて経験値もあまり得られない。



「レベルはもう十分かな。技能も覚えたし……あとは入学のための準備だな」



リトは魔法学園に入学するため、今後はレベル上げではなくて魔法学園に入学するための準備を行う事にした――






――最初にリトはやるべき事はアンの説得だった。リトは魔法学園に入学したい事を伝えると、彼女は心底驚いた表情を浮かべる。



「魔法学園に入学したいだって!?あんた、自分が何を言っているのか分かってるのかい!?」

「うん、無茶を言っているのは分かってるけど……」



魔法学園の存在はアンも知っており、この国の教育施設の中でも最も厳しく、入学が難しい。魔法学園に入学するには年齢が15才の者に限り、そこから3年ほど教育を受けなければならない。


学園に入学する人間は15才であれば種族や身分は問わず、条件は戦闘職か支援職の人間だけが入る事が許される。この二つに属さない場合は入学は認められず、もしもリトが村人のままだったら入る事もできなかった。


魔法学園は騎士科と魔法科に分かれており、リトが希望するのは当然だが騎士科だった。魔法科に入るためには魔法職の人間限定のため、生憎と魔法職に就けなかったリトは魔法科には入れない。だが、リトの目的は騎士科である。



(騎士科に入学できれば主人公と接点を持つ機会もあるはず……何としても確かめないと)



騎士科に入学すればファイナルドラゴンの主人公と接触できるはずであり、この世界の西暦を確認する限りでは主人公もリトと同い年なので魔法学園に入学すれば主人公と会えるはずだった。


不安があるとすればゲームの主人公が本当にこの世界にいるのかどうかであり、もしも彼女の存在がいなければ世界の運命は大きく変わってしまう。最悪の場合はリトが主人公の代わりを勤めなければならないが、はっきりと言ってリトでは力不足である。



(ゲームに出てきた敵は全て覚えているけど、勇者がいなければどうしようもない相手ばかりだ。もしもこの世界に勇者がいなければ……いや、きっといるはずだ)



今までの事を思い返し、リトはこの世界がゲームの世界だと確信していた。それならば本来のゲームの主人公もいるはずであり、それを信じて彼は魔法学園の入学を希望した。



「母さん、僕は魔法学園に入学したい」

「……魔法学園に入ってどうするんだい?父さんのように強くなりたいだけなら別に魔法学園に入学する必要なんてないだろう?」

「えっと……会いたい人がいるんだ。その人の力になりたいというか……」

「誰だいそれは?」



アンの言葉にリトは返答に悩み、まさか勇者の存在を明かすわけにはいかない。しかし、彼女に黙って魔法学園に入学する事はできず、学園に入学するためには保護者の許可が必要だった。



「ごめん、母さん。今は全部話す事はできない……でも、僕はもっと強くなるには魔法学園に入学するのが一番だと思っている」

「あんた、本気かい?魔法学園に入学するという事は王都で暮らす事になるんだよ。そもそも入学金や学費は払う余裕なんてうちには……」

「大丈夫、この日のために僕も頑張って来たんだよ」



リトはアンの前に大量の銅貨が入った小袋を取り出し、更に精霊薬を取り出した。それを見たアンは驚愕の表情を浮かべ、忍者になった後にリトは魔法学園に入学するために必要な資金も稼いでいた事を話す。



「こっちのお金は魔物の素材を売り払って得たお金と、この精霊薬は昨日作った物だよ」

「あ、あんた……また精霊薬を作ってたのかい!?」

「うん、前の時は調合器具が足りなくて苦労したけど、新しく買い替えた調合器具なら割と簡単に作れたんだ。材料の月華を育てるのに時間は掛かったけど……」



前回にリトは精霊薬を調合した際、売却して購入したのは経験石だけではなかった。最新の調合器具を購入したお陰で今回は時間を掛けずに精霊薬の調合に成功した。


月華を育てるのだけは時間を費やしたが、入学前にリトは全ての準備を整えた。入学試験を受けるための受講料と、合格した際の三年間の学費は自分で払うつもりで彼はお金を用意していた。



「母さん、お願いします!!俺を魔法学園に入学する事を認めて欲しい!!」

「……条件があるよ」



リトの熱意を感じたアンはため息を吐き出し、彼女は小袋と精霊薬を彼に返す。そしてリトの両肩を掴み、真っ直ぐと彼の目を見ながら条件を告げる。



「この金と薬はあんたが持っていきな。魔法学園に入学するなら無一文のまま入るわけにはいかないよ」

「え、でも……」

「入学金と学費ぐらい、あたしがなんとかしてやるさ!!だいたいあたしは母親だよ!?子供の世話を見るのは親の役目に決まってんだろう!!」



アンはリトが稼いだお金で彼を魔法学園に入学させるつもりはなく、最初から自分が学費を払うつもりだった。彼女はリトの覚悟を確かめるために最初は嘘を吐いたが、彼を入学させるだけの金ぐらいなら貯蓄はあった。



「こんな時のためにあたしのへそくりと父さんが残した金があるからね!!あんたにそれだけの覚悟があるなら魔法学園でもどこでも行きな!!」

「か、母さん……!!」

「だけど、一つだけ約束しな。魔法学園に入っても無茶だけはするんじゃないよ……どんなに辛い目に遭おうと、必ず学園を卒業するんだよ」

「うん、分かったよ!!」



リトはアンの言葉に頷き、彼女と約束の握手を行う。彼にとってはアンは実の母親同然の存在であり、彼女のためにもリトは強くなる事を誓う――






――それから時は流れ、リトは入学試験の一か月前に街を出る事にした。事前に魔法学園側に手紙を送り、試験を受けたい事を伝えると学園側が指定した日時に試験を受けに来るように伝えられた。


ファイナルドラゴンのゲームでは主人公が魔法学園の試験を受ける時点から始まり、試験内容に関してもリトは全て把握している。しかし、魔法学園が存在するのは王都であり、移動までに時間が掛かるので一か月前から街を離れなければならない。見送りにはアンとドルトンと神父が来てくれ、彼等に別れの挨拶を行う。



「母さん、行ってきます」

「父さんよりも強くなって帰ってくるんだよ」

「師匠、今までありがとうございました」

「気にするな、儂も色々と楽しませて貰ったからな」

「神父様もお世話になりました」

「いえ、気にしないでください。どうか君に女神のご加護があらんことを……」



アンからは弁当、ドルトンから新しい装備品、神父からは聖水をそれぞれ受け取り、リトは3人に別れを告げた。



「行ってきます!!」

「おう、行ってらっしゃい!!」

「気を付けるんだぞ!!」

「どうかお元気で……」



三人に手を振りながらリトは駆け出し、決して振り返らずに彼は王都へ向けて旅に出た――





※よ、ようやくプロローグが終わりました。ここまで長かった……(´;ω;`)

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