第22話 リトの職業は……
――狩場を利用したレベル上げの結果、リトは短期間の間に大量の経験値を獲得できた。しかも倒した魔物の素材は回収を行い、それらを売却して地道にお金も稼いでいく。
狩人の職業に転職してから半年後、驚異的な速さでリトは限界レベルまで達した。しかし、学園に入学するまでの猶予は迫っており、次に変更の儀式を受けて戦闘職にならなければ学園の入学は断念しなければならない。
「神父様、儀式を受けに来ました」
「ま、また来たのですか!?もうここには来ないと思っていましたが……」
「すいません、お金を用意するのに時間が掛かりました」
リトは教会に訪れると神父は驚愕し、またもや儀式を受けに来た事に動揺を隠せない。こんな短期間の間に何度も儀式を変更する人間など初めてであり、神父は心配そうにリトに尋ねた。
「リト君、君が父親に憧れている気持ちはよく分かる。だが、戦士の職業になるまで無茶な事を繰り返すつもりかい?」
「え?」
「確かに戦士は戦闘職の中でも優れた職業だ。しかし、だからといって君が無理をしたらお父さんが悲しむぞ」
「いや、あの……」
神父はリトが職業の転職を繰り返す理由が亡き父親に憧れ、彼の様な「戦士」の職業に就きたいからだと思っていた。実際の所はリトは別に戦士の職業に拘っているわけではなく、彼は狩人のままでは災厄の未来を乗り切る事はできないと判断して別の職業になりたいだけである。
(なんか誤解されてる気がするけど……これが最後のチャンスなんだ。このまま話を押し通そう)
敢えて神父の誤解を解かずにレナはお金が入った小袋を差し出し、彼に最後の儀式の申し込みを行う。
「お願いします!!僕は父さんのように強くならないといけないんです!!」
「ふうっ……どうやら決意は固いようだ。だが、これだけは約束してくれ。例え戦士になったとしても父親のように無茶な真似はしないとね」
「はい!!約束します!!」
リトの熱意に根負けした神父は彼に儀式を受けさせるために教会の中に招き、いつも通りに変更の儀式の準備を行う――
――何度も受けているとはいえ、変更の儀式の度にリトは緊張してしまう。儀式を受ける際は肉体が造り替えられる感覚を味わい、正直に言えば気持ちの良い物ではない。しかし、この世界で強くなるためにはこの程度の事は耐えなければならない。
儀式を終えるとリトは水晶板を取り出し、緊張した様子で掌を構える。今回の転職が学園に入学する前の最後の
(頼む……もう一度戦闘職であってくれ!!)
狩人以外の戦闘職を期待してリトは掌を押し当てると、水晶板がいつも違って強い輝きを放つ。普段は白色の光を放つのだが、今回は何故か虹色の光を放ち、それを見た神父は驚く。
「こ、これは……まさか、虹色現象!?」
「えっ!?」
「信じられない……わ、私も初めて見た。虹色に水晶板が光り輝く時、滅多にない職業に就けると聞いた事がある」
「と言う事は……」
リトは神父の言葉を聞いて水晶版を見つめると、輝きが収まって彼の能力値が表示された。
――能力値――
個体名:リト
種族:人間
性別:雄
適性職業:忍者
レベル:1
状態:普通
《習得技能》
・成長――経験値が倍増する
・調理――あらゆる食材を適確に調理できる
・調合――複数の素材を組み合わせ、新しい道具を作り出せる
・観察眼――観察力を一時的に高める
・投擲――投擲の際の命中力が高まる
・隠密――存在感を極限まで消し去る
・無音歩行――足音を立てずに移動できる
・跳躍――跳躍力が強化される
・気配感知――気配を察知し、相手の居場所を正確に探り当てる
―――――――
能力値を確認してリトは驚愕し、今回の職業は「忍者」だった。しかも新しく技能が4つも追加されており、通常の戦闘職よりも倍の技能の数を覚えた。
(忍者!?これってゲームでは条件付きで転職できる上級職のはず……そうか、いつの間にか条件を満たしていたのか!!)
ファイナルドラゴンのゲームでは複数の職業を習得した場合、上級職と呼ばれる通常よりも性能が高い職業に就く事ができる。そして「忍者」の職業は上級職の一種であり、物語の終盤でも十分に役立つ職業だった。
忍者は戦闘職の中でも変わった能力を有しており、前衛でも後衛でも役に立つ。しかし、全体的に能力は高いのは確かだが攻撃や防御のどちらかに特化しているわけでもなく、器用貧乏なイメージを抱かれやすい。
(忍者か……贅沢を言えば戦士や騎士になりたかったけど仕方ない。これで我慢するしかないか)
リトは忍者になれた事に微妙な気持ちを抱き、念願の戦闘職ではあるが忍者の扱う能力は変わった能力が多いので使いこなせるかどうかはプレイヤーの力量次第である。腕が未熟なプレイヤーは忍者の価値に気付かずにさっさと転職してしまうが、リトの場合はもう他の職業に転職する余裕はない。
「神父様……今までありがとうございました」
「リト君?」
「多分、これからは儀式を受けに来る事はないと思います」
「そ、そうか……ようやく分かってくれたか」
儀式を受けに来ないと聞いて神父は安心し、ようやく彼が父親と同じく戦士の職業になる事を断念したと思った。だが、リトは神父に対してある願いを伝える。
「神父様、実は頼みたい事があるんですけどいいですか?」
「何だい?」
「あの……教会が管理している聖水を分けてほしいんですけど」
「聖水?それは構わないが、どうしてそんな物が欲しいんだい?」
聖水とはこの世界では教会が生産している
どうしてリトが聖水を欲しがるのかというと、それは聖水は物語の序盤から中盤までしか手に入らない貴重品だからである。実は物語が終盤に迫ると世界各地の教会は街に魔物が押し寄せないように聖水を利用するため、主人公達に分け与える分はなくなってしまう。更に後半では貴重な武具や防具の製作のために素材として聖水が必要になる機会があるため、リトはそれを見越して聖水の購入を願う。
「とりあえず、100個ほど下さい!!」
「100個!?ほ、本気で言っているのかい!?」
「はい、でもお金を用意するのに時間が掛かると思うので、毎日ここに来るときに1つずつ売って下さい!!」
「そ、そうか……分かった。だが、聖水はあまり安くはないぞ?」
「大丈夫です、必ずお金は用意します」
神父と約束を取り告げたリトは必ずや100個の聖水を手に入れるため、これから毎日買いに来る事を約束した――
――上級職は限界レベルの上限が高く、それでいてレベルを上げるために必要な経験値は通常職よりもずっと多い。だからこれまで通りに短期間でレベル上げを行うのはいくらリトでも不可能だった。
しかし、その反面にレベルが上昇した際の能力値の上昇率は高く、リトはレベル10まで上げた段階でもう彼が暮らしている街の近くの魔物は敵ではなかった。リトは更に武器も一新し、狩人の時は斧と弓を利用していたが、現在はドルトンに作って貰った二つの短刀を利用して戦闘を行う。
「辻斬り!!」
「ギャアアアッ……!?」
山の中にてリトはゴブリンの背後に迫り、両手に構えた短刀でゴブリンの首を切り落とす。彼が新しく覚えた戦技は不意打ちに特化した戦技であり、昔は苦戦したゴブリンを一瞬にして葬る。
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