第19話 何度だってやり直す

――料理人になってから二か月後、毎日魔物を倒し続けたリトは限界レベルに到達した。料理人の限界レベルは村人よりも高い「40レベル」であり、ここまで上げるのに相当苦労した。


村人の技能「成長」を引き継いでいるとはいえ、戦闘向けではない職業なのでレベルが上がったとしても身体能力は大きくは向上しない。それにリトが暮らしている街の近くに生息する魔物は一角兎やゴブリン程度の雑魚敵しか存在せず、そのせいで経験値を稼ぐのにも時間が掛かった。



「神父様、お願いします!!」

「は、はい……では儀式の間に行きましょう」



二か月も費やしてリトは儀式を受けるためのお金も稼ぎ、再び教会に訪れた。神父はまさか二か月で限界レベルまで上げてきたリトに驚いたが、お金を渡された以上は儀式を行う義務がある。



(まさかこんな短期間でレベルを上げてくるとは……父親も凄かったが、この子はそれ以上だ)



リトの父親も目的のためには無茶をする性格だったが、リトの場合は父親以上であり、普通ならば二か月足らず限界レベルまで上げてくる人間は滅多にいない。しかも彼の場合は村人ですらない。


村人の場合は他の職業と比べて成長速度が早く、レベル上げに必要な経験値は少ない。だから一週間ほどでリトは限界レベルまで到達したが、料理人の場合は村人よりも限界レベルの数値が高く、しかも必要経験値が圧倒的に多い。それなのにリトは二か月間毎日休みなく魔物を倒し続けて限界レベルまで上げてきた。しかもその間に金稼ぎも忘れず、料理人の技能を生かして宿屋を繁盛させていた。



『あの子が料理を作るようになってから客が倍増したよ。それに狩ってきた一角兎の肉を使って色々と料理を作るようになったし……』



アンから聞くところ、リトは倒した魔物の素材を持ち帰って料理に利用しているという。一角兎の肉はあまり美味しくはないが栄養価は高い事で有名であり、リトはそんな一角兎の肉を調理して客に振舞っているらしい。


一角兎の肉は前に神父も食べた事はあるが、お世辞にも美味しいとは言えない。しかし、何故かリトは一角兎の肉を美味しく調理する方法を知っていた。



『なんでか知らないけど、あの子は一角兎の肉を美味く食べられる方法を知っているんだよ。そんな事、あたしも知らなかったのに……』



これまで宿屋の料理はアンが行っていたが、彼女でさえも知らない調理の方法をリトは何故か把握しており、彼が特殊な調理を施した一角兎の肉は客からの評判も高かった。



『どうしてリト君は一角兎の肉の調理法を知っているのですか?』

『さあね、前に料理している時にあいつがぶつぶつと呟いているのは聞いた事があるけど……確か、一角兎の肉は燻製すると美味しさが増して回復量が高まるとか言ってたけど……』

『え、えいちぴい?』



調理の際にリトが何事か呟いていたのをアンは聞いたが到底彼女の理解が追いつかなかったという。そんな話を思い出しながら神父はリトに転職の儀式の準備を行う。



「本当によろしいのですね?」

「はい!!お願いします!!」

「では……始めます」



最後の確認を行った神父はリトに儀式を施し、二度目の転職を行う――






――しばらく時間が経過した後、リトは自分の部屋のベッドに突っ伏していた。彼は枕に顔を埋めながら疲れた表情を浮かべていた。



「あ〜……そういえば僕、昔からくじ運が悪かったっけ」



リトは起き上がると机の上に視線を向け、そこには神父に頼んで特別に貸して貰っていた水晶板が置かれていた。彼は水晶板に手を押し付けると、新しく更新された能力値が表示される。



――能力値――


個体名:リト


種族:人間


性別:雄


適性職業:錬金術師


レベル:1


状態:普通


《習得技能》


・成長――経験値が倍増する


・調理――あらゆる食材を適確に調理できる


・調合――複数の素材を組み合わせ、新しい道具を作り出せる



―――――――



ようやく転職したにも関わらずにリトが新しく覚えたのは「錬金術師」だった。こちらの職業も村人と料理人と同様に非戦闘向けの職業であり、またもやリトは戦闘向けの職業を覚えられなかった。


錬金術師の技能は「調合」と呼ばれる技能であり、この技能は調合関連の技術が向上する能力であるため、ゲームでは主に物語後半で役立つ。ゲームが終盤に訪れると市販の道具アイテムだけでは戦闘が厳しくなり、素材を集めて錬金術師に高性能な道具を作ってもらうと攻略がしやすくなる。


しかし、現時点ではリトは錬金術師の能力を生かしきれない。理由としては調合を行う場合は色々と調合器具を調達しなければならず、それらを集めるには時間も掛かるし、お金も必要とする。リトは月華を栽培して金を作る事はできるが、月華の育成は難しくて身体の負担も大きい。



「今の所は錬金術師の能力は生かす事はできないな……でも、一応は師匠に相談しようかな」



道具屋を営んでいるドルトンならば錬金術師が扱う調合器具も持っているはずであり、後でリトはドルトンに調合器具を借りれないか頼む事にした。



「落ち込んでいる暇はない……何としても15才になるまでに戦闘向けの職業に転職しないと」



リトは日付を確認し、自分が15才を迎えるまでに戦闘向けの職業になる必要があった。彼は気合を入れなおし、また一からやり直す――






――更に三か月後、リトは再び教会に訪れて儀式を受けた。これで三度目の儀式となるため、どうにか念願の戦闘向けの職業になる事を祈る。



「……儀式は終わりました。では、確認してください」

「は、はい……」



儀式が終了するとリトは水晶板を渡されて緊張した表情を浮かべ、恐る恐る掌を押し当てた。



――能力値――


個体名:リト


種族:人間


性別:雄


適性職業:狩人


レベル:1


状態:普通


《習得技能》


・成長――経験値が倍増する


・調理――あらゆる食材を適確に調理できる


・調合――複数の素材を組み合わせ、新しい道具を作り出せる


・観察眼――観察力を一時的に高める


・投擲――投擲の際の命中力が高まる


―――――――



職業の項目を見た瞬間、リトは遂に戦闘向けの職業を覚えた事に気付く。しかも今回は「観察眼」と「投擲」という二つの技能を覚えていた。



「か、狩人……」

「おおっ……まさか狩人となるとは!!おめでとうございます!!」



狩人はれっきとした戦闘向けの職業であり、主に獣系の魔物の討伐に秀でた職業である。しかも戦闘向けの職業の場合は覚えられる技能の数が二つであり、晴れてリトは念願の戦闘向けの職業に就けた。


神父は遂にリトが戦闘向けの職業に就いた事に喜んだが、当のリト本人は浮かない表情を浮かべていた。ようやく念願の職業に就けたというのにリトは素直に喜べず、頭を悩ませる。



(狩人……狩人かぁっ……)



ゲームの中では「狩人」の職業は物語の序盤から中盤まで活躍する職業であり、最初の内は役立つ職業である。しかし、物語後半を迎えると狩人はとある理由であまり役には立てない。


これまでに覚えた職業の中で狩人の職業は一番役立つのは間違いないが、それでもリトは素直に喜べない。彼は未来で起きる出来事を知っているため、どうしても狩人のままでは災厄の未来を乗り越える事ができないと考えた。



「また、来ます……」

「えっ!?リ、リト君!?それはどういう……」



神父に頭を下げてリトは教会を後にすると、彼の言葉に神父は戸惑いの表情を浮かべた――

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