第3話


 「他に誰がおるねん」



 周りを見渡す。


 見た感じ、俺しかいない。



 誰かと出会う時ってこんなんだったっけ?


 いやいや、そんなわけないよな…


 今まで出会ってきたヤツらとは、自己紹介くらいはした。


 まずは自分の名前を名乗って、その次にはお辞儀をする。


 必要とあらばだが。



 だが目の前にいる女は、腕を組んでいるだけじゃなく、自己紹介もしない。


 ふつー「はじめまして」の次は、名前を名乗るべきなんじゃないのか?


 っていうか今はそんなことはどうでもいい。


 状況が整理できない。


 見ず知らずの人間に通行の邪魔をされ、挙げ句の果てには、ここは通さないと言わんばかりに足止めを食らっている。


 早く家に帰って寝転びたいんだけど?


 どいてくれます?



 「…通りますね」


 「待てや!」



 …お、おう?


 待て…とは?



 横を通り過ぎようとすると肩を掴まれた。


 グイッと、ガードレールの前まで押され、女は急接近してきた。



 …なんだ、これは?


 俺の身に今何が起こってる?


 喧嘩を売ったような覚えはないし、目の前の女とは面識もない。


 そりゃそうだ。


 「はじめまして」なのだから。


 その「はじめまして」もよくわからない。


 はじめましての次には、普通はこうはならないからだ。


 少なくとも出会って数十秒で肩を掴まれることはないし、「あんた」呼ばわりされることもない。


 ここは日本だぞ?


 礼儀正しく、相手を敬う。


 そういう教育を俺は受けてきたんだが、…間違ってないよな?


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る