番外編10.黒木 零②

しきの事は、最初は、普通の人間と違いなく思ってた。


でも、なんだか今までの人と、……なんだか違う。


何が違うか分からないけど、あの日思った。


もしかしたら、ままやりく、お兄ちゃんみたいに、別なのかもしれない。


だから、名前を聞いた。

『しき』と言うみたいだった。


しきは私を止めなかった。

私にずっとついてきた。


それを、私はたたいてみたいと思った。


だからたたいた。


すると、しきは何か言った。


「しき、……痛い?」


私が聞くと、しきは目をきらきらさせて見上げてきた。


それは、泣きそうになっているみたいだった。


「……あはっ、」


ドッキリが成功したみたいで楽しかった。


しきは分からない感じだったけど、私も分からなかったから何も言わなかった。


ただ、その時初めて綺麗に目が見えた。


「待って……っ!」


でも、変わったのはこの時。


私は、しきを殴りたいんじゃなくて、今痛い事したらびっくりするだろうなって、イタズラみたいな気持ちでしきに痛くしてた。


けど、しきは……私を殴ろうとした。


殴られるのは嫌だったから、しきを殴った。


「い……痛いっ!れいちゃん、痛い……」


泣きながら、でも嬉しそうにしきは痛いって言う。


もしかして、痛くしたら、しきは仲良くしてくれるんじゃないかって思った。


……仲良く出来るんだ。


「へぇ?」


でも、私痛いのって嫌だけど、しきは痛いの嫌じゃないんだ。


……そう思うと、面白かった。


何度も蹴ってもしきは嫌って言わない。


おもちゃは買ってもらえなかったけど、こんな感じなのかなって思って、楽しかった。


……楽しかった。


でも、いつからか……しきはあんまり楽しくなさそうな事に気づいた。


どうしてだろう?飽きたのかな?


……いや、違う。


しきは変わっていなかった。


じゃあ何が変わったの?


……私?


「……ごめんね、れいちゃん。……大好きだよ。……」


しきの言葉一つで、私は嫌な事をたくさん知ってしまった。


ままと居るのは嫌。

りくと遊ぶのは嫌。


……しきに嫌われるのは、嫌。


「……」


しきは、私に殴られる。

殴られても逃げないのは、嫌じゃないから。


だから、私は安心した。


『大好き』


そう言われて、私は自分の嫌な事が分かっただけじゃなくて、ちょっと怖かった。


大好きは、どうやったら分かる?


しきはそれから一度も言ってくれないから、もう大好きじゃないのかなって思うと悲しかった。


……何で悲しいんだろうな。


「さよならしようよ、2人で」


山の上でしきを蹴ったあと、私はふと思いついた。

このままさよならすれば、嫌な事も無くなるし、しきが私を嫌いになるのも無いって。


「……うん」


しきも良いって言った。


……けどその後、


「っ、やだ……っ」


そう言われて、私は迷ってしまった。


……だから、


「もう一回、ゆって欲しいな……」


お願いをした。


私は、『お願い』をするのが怖くて泣いた。

死ぬのも……痛いのも怖かったけど、生きている方が怖いから泣いた。


しきにもう一回好きって言われて、私もそうなのかもと思った。


でも、分からないまま、夕日にせかされて飛び降りた。


……でも、


途中でしきは私を庇うように抱きしめた。

しきは震えていた。


……だから、間違ってたんだって分かった。


『……しき』


それは、しきと一緒に死ぬこと。


でも、合ってたこともちゃんと分かった。


それは……しきのことが好きなこと。


しき、


しきは、私がどんなワガママを言っても、どんなに傷つけても、私を受け入れて愛したよね。


私、しきのその愛し方、やっぱり正しくなんてないと思うよ。


でもね、……好きだから、




生きて欲しい。

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