ツキサシ。
あの日、聖夜。下品な嬌声や姿を撮られていたとは知らずに、彰さんに言われるがままに交わっていた。
それを見ていた…見られていた…?
ホテルを押さえてくれたのは…果南だ…。
「と、盗撮…? まさかっ、そんな…嘘…」
「あっははは。葉月ったら散々なこと言ってたよねー優しいだけのつまらない男だっけ? おちんちんが違うのーだっけ? ひっどーい。あはははははは」
「わ、私…!」
「おっと、蒸し返してトドメでも刺す気かな?」
「っ!」
ドッドッドッと動悸が激しくなる。あの不貞の証拠にはクリスマスの話はなかった。
果南との関係を持ち出そうにも、証拠もないし、言われるのが怖かったからとても言えなかった。
「あの日、拒否すれば見せないつもりだったんだよ? ちゃんと戻ってきたら見られなかったんだよ? もー朔さん絶望って言うかー吐きまくってさぁー気絶してさぁーシーツ洗うの大変だったんだから。んふふ」
気絶って…朔くんが? 果南のことじゃなかった…? そういえばあの日は…果南とセックスしたから消耗したんだって…思ってた…それ以降はハグを求めたのに…疲れたって拒絶されて…飲み過ぎたってトイレで吐いてたのも…
私の裏切りを知って…た…?
「はぁ、はぁ、はぁ、そ…… うぶっ、おぇ、おぇぇ…」
「おお、吐くなんて意外。ま、朔さんにすぐに謝られたらまずかったんだけど、葉月なら隠しちゃうよね〜」
「はぁ、はぁ、それは…それに、果南、あなた遊びだって…!」
「ちゃんと葉月で遊んだよ? 妬いちゃうって言ったよ? 三ヶ月いるって言ったよ?」
「っ…!」
くすくすと笑う果南の笑顔が怖い。でもこのやり口は、どこかで知っている。何か覚えてる。それは何だったか。
「油断に突き刺すは致命の一撃を──」
「…え…?」
「ってね。派閥の格言、幸せな結婚生活ですっかり忘れてたのかな?」
「…まさか…忘れてなんて…いないわ…じゃ、じゃあ果南の初恋って…」
「あー、それだけは嘘だったね。ごめんね? でも葉月が悪いんだよ? 膝枕なんてするからさぁ」
「……膝枕…?」
朔くんと出会った時、確か最初は果南が…介抱していて、朔くんは酔っていたし、覚えてないかも知れないけど、果南がお水を買いに行った隙に、果南のようにって黙って朔くんを膝枕したのは私だ。
そこから確かに朔くんと始まった。
それから二人で、恋をした。
すぐに愛に変わったのは、覚えていない。
それくらい二人でずっと一緒にいた。
それこそ、果南と過ごした時みたいに。
「まー葉月の恋も愛も想いも全部が全部、すべてのすべて。やっぱり最初からどうしようもないほどの偽物だったってことだねー。んふふ。バイバーイ」
そう言って、彼女は今はもう違う、私達の家の方向に軽い足取りで歩いて行った。
残された私は、どうにも朔くんとの暖かかった思い出が次々と溢れて、とても温かくて動けなかった。
見上げると、いつの間にか空は暗い曇天だった。
その空の濁った墨色がまるで私の汚さみたいで、でもそこから偽物みたいに綺麗な雪が降ってきた。
だから私は、暖を取ろうと瞳を閉じた。
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