アヤマチ。
待ち合わせは小綺麗な洋食屋だった。
「おひさ。こっちこっち」
「久しぶりね。もう、いつも唐突なんだから」
橋本果南。24歳同い年。学生の時は憧れた人に惹かれて金髪にしていたが、流石に社会人になった今は清楚な黒髪とメイクで落ち着いた装いになっていた。
「へへ〜ごめんってば。どうしても飲みたくてさ。怒った?」
「もう…別にいいわよ。果南の非常識さは慣れてるし」
「うわ、酷ーい。くすくす。先に食べよ」
「先に?」
「後で飲もうってこと」
お腹を満たし、お酒が少し進み、お互いの近況を伝え合う。
「赤ちゃんは?」
「まだ先よ。でも一応は計画してるの」
「でもそういうのって勢いとかじゃないの?」
「果南と一緒にしないで。朔くんの仕事の都合もあるんだし」
「そう? ま、戸塚家の方針なら仕方ないけどさ。じゃああっちの方は?」
「ま、まぁ、最近忙しいから」
確かに最近してないのよね…
忙しくしてるし、私から誘うなんてこと出来ないし…いつ求められてもいいようには習慣付けて身綺麗にしてはいるけど…
「そ、それより果南は良い人見つかった?」
「ずっと片思いなんだよね〜」
「えっ、そうなの? 驚いた…そんな話してくれなかったじゃない」
「そうだっけ? まあ、飲も飲も。今日はとことん付き合ってもらうぜー。確かめたいこともあるし」
「何よそれ。ふふ。わかったわよ」
そうして、夜は更けていった。
◆
目覚めると、そこはどこかシティホテルのような場所だった。
「……ここは…」
「や、起きたかい?」
声の方を向くと、筋肉質の明るい髪の男が、白のガウンを胸元だけさせて立っていた。
「貴方は…いったい誰…? きゃっ!? わ、私…」
身体を起こすとシーツがはだけて、朔くんが褒めてくれる自慢の胸がまろび出てしまった。
裸だ。全裸だった。
状況がまるっきり掴めない。確か果南と飲んでいて、行きつけのバーに行って…それから隣の男二人が話しかけてきて…。
そこから記憶が…曖昧だ。
「どうしたんだい?」
その声に、背筋が、ぞくり、と凍えた。
――そんな、まさか……まさかまさかまさかまさか――。
嫌な想像が頭の中を駆け巡る。心臓が破裂しそうなほど脈打って、呼吸が不規則になる。
「はぁっ、はぁっ、そ、そんな…わ、私…いや、いや、いやっ…!」
「はは、そんな態度は凹むね」
「か、帰りますっ!」
「葉月さん」
彼は当然のように私の名を呼んだ。いいえ、まだ大丈夫、まだ何も起きてない。間違いなんて起きているはずがない。
「ッ! …なんですか…?」
「帰るならシャワー浴びた方がいいよ。随分と臭うだろうし」
「に、臭う…?」
確かにお酒臭い。でもそれとは違う、否定したくともできない、シーツから漂うこのいやらしい臭いは…。
「それに橋本さんが言い訳を用意してくれたみたいだよ」
「果南が…? 言い訳…何の…うぐっ!」
頭が痛いのは、お酒のせいだけじゃない。果南がする言い訳する先なんて、この状況で一つしかない。
「ほら、お水。あんなに飲んだんだ。もう少し休みなよ」
手渡されたガウンとペットボトルの、朔くんとは違う、たくましい太い手首…。これ…。
「あ、ありがとうございます…」
「はは。お礼を言うのはこっちだよ」
「…え?」
「見た目より、案外と激しいんだね」
その一言で、私の不貞はどうやら間違いないようだった。
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