ラレオ。

 妻である葉月と出会ったのは、大学に入って随分と経ってからだった。


 友人主催の男女での飲み会。それまで真面目に法律を守っているのもあったけど、一番は恥ずかしさと僕なんて、なんていう自信のなさからくる自虐私観もあって、それこそお酒が飲める年まで一度も参加はしなかった。


「三歳から飲んでるぜ、泡だけだけどな」なんて言う友人もいたけど、僕はどうにも気が乗らなかった。


 ようやくそんな歳になり、気を遣ってくれたのか、大人数での飲み会じゃなくて、食事会としてくれた席で僕は一人の女性と知り合った。


 美しい黒髪と綺麗な瞳、整った鼻筋と小さな唇。小さく笑う、その上品な所作。そして僕と同じように、初めてのお酒に戸惑うような、そんな仕草。


 そんな彼女に見惚れて、緊張して飲み過ぎてしまった僕を、最後まで介抱してくれた。


 情け無いけど、それが葉月との出会いで、それが僕の運命の始まりだった。


 そこから僕らは順調に交際を重ね、緊張したプロポーズにも応えてくれて、ついに結婚した。


 結婚してからは、妻を幸せにするべくひた走ってきたけど、ようやく大きなプロジェクトに関わることが出来たんだ。


 葉月も喜んでくれて、僕らはお祝いしたんだ。


 多分それはとても幸せな、夢見ていたような、新婚生活だったのだと思う。





 最近、葉月の様子がおかしかった。



「最近、元気ないけど…大丈夫か?」



 久しぶりにベッドで一緒になっても、上を見上げては、ぼうっとしていた。



「…大丈夫ですよ。朔くんは心配性なんですから」



 いつもはそう言った後、すぐに胸元に飛び込んで甘えてきたのに、それがない。そう伝えると、葉月は俯いた。


 なんだろうと不安に思う。



「…実は少し太りすぎたかなとショックで…」



 葉月はそう言って、僕の胸をそっと押して距離を取った。



「そんなことで…? い、いや、そんなことなんて言っちゃダメだよな…けど僕は葉月のスタイルがどんなに変わっても好きだよ」



 そう言って葉月の首に手を通そうとした。


 彼女は腕枕が好きだったから。



「えっ、あ、や、だ、駄目っ! す、少し、少し痩せますからっ! が、我慢してください! 今日は…その、またこっちでしますから…」



 そういうのを期待して強請ったわけじゃないけど、彼女はそう受け止めて、ゴソゴソと布団の中に潜っていった。



「最近そう言ってたのは恥ずかしかったからか…」


「……はい」


「じゃ、じゃあお願いしようかな…?」


「…はい…」



 こういう行為も、苦手だと嫌がっていたはずなのに、最近は率先してしてくれる。


 これは喜ぶべきなんだろうか。


 果南さんは、葉月にいろいろ教えたって言っていたけど…。



「…え、ええ、気持ちよくなってくださいね。ちゅ、れろ、んぶ」



 何故かその葉月の声に、心が篭ってないように感じたのは、疲れてるせいかもしれない。


 それに、彼女のこんな下品な音は、気持ちいいのに、何となく僕には不快な音だった。

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