セイヤゴ。

 翌る日、自宅に帰る前に果南の家で落ち合った。彼女の家に泊まったことになっていた。



「どうだった?」


「そんなの言わせないでよ…」



 恥ずかしいじゃない…物凄く愛してもらったわ。それに、あんなに乱れるなんて自分でも驚いたくらい。



「んふふ。葉月が楽しそうで良かった。とりあえずこっちも大丈夫だったから。朔さんってすごいのね」


「そ、そうかしら…? いえ、そんな事を言っては駄目よね…」



 夫との営みはここ最近無いからわからないけれど。そういえば、そんな話、果南とした事はなかった。



「すっごく叫んで頑張って耐えてくれて、何度も何度も…ふふ。最後は気絶しちゃったもん」


「…は…? 嘘…そんなに…?」



 朔くんがそんなに? 嘘でしょう? 私とはそんな事…何だかモヤモヤしてくる。



「あー、うん。あ、ちゃんと掃除したからね」


「…そんなに…やっぱり私の身体なんて…興味なかったのかしら…」


「相性もあるし、こればっかりはね…まーどうせ円満に別れるんだし、気にしても今更でしょ」


「…え…? そんなこと…」


「その顔見ればわかるよ。んふふ」


「…そう…なのかしら…」



 彰さんには確かに言ったけれど…それはその場の勢いというか…でも、そうなのかも。


 やっぱり私は自分に嘘はつけないし、このふらふらした関係も何とかしたいのは確かだ。朝も彰さんと交わったし、クリスマスプレゼントで指輪ももらった。


 流石に今は外しているけれど、浮かれている自分がいる。


 果南には何でもお見通しなのかしら…。



「…でも…今からどうすれば…」


「んー、葉月の回数からいくと、三ヵ月は欲しいよね」



 一方的に責められないようにと、果南はどうやら朔くんとこのまま関係を深めたいみたいだ。



「年始明けから考えたら良いんじゃ無い? とりあえず繁忙期過ぎないと朔さん落ちつかないでしょ? 実家だって帰るんだし」


「ッ…そ、そうね…」



 毎年帰ることにしていた両家の暖かい姿を思い出し、気分が酷く悪くなった。



「ふふ、大丈夫。朔さんからは何も言えないよ。あ、体調不良ってことにして葉月だけこっちに残ったら? 流石に耐えられないでしょ?」



 それは罪悪感の話なのか、彰さんとの逢瀬の話なのか。


 あるいはそのどちらともなのかも知れない。





 家に帰ると夫は頭を下げて謝ってきた。



「…ごめん、葉月……」


「い、いえ、私こそ頭に血が登ってしまい飛び出して…連絡もせずに…せっかくのクリスマスなのに…ごめんなさい」



 驚いたことに、スラスラと嘘が出てくる。


 果南とのことを全て知っているから罪悪感なんて感じなかったけれど、朝帰りどころか昼帰りなのは妻として流石に罰が悪い。



「果南の…いえ、何でもありません。もうやめましょう。お昼ご飯用意しますね」


「ああ…」



 けれど、円満な離婚の為に少しばかり牽制しておく。それが効いたのか、夫はシュンとしていた。


 果南は同性から見ても顔もスタイルもいい。私もそこは負けてないけれど、それプラス私にはない愛嬌があの子にはあった。


 そんな子とセックスして嬉しくないわけがない…ないはずでしょう?


 だって気絶させるくらい求めたのでしょう?


 だってあんなに嬉しそうな果南なんて見たことがないのだから。


 それなのに、何ですかその顔は…。


 今まで一度も嘘を吐いたことなんてなかったのに…そんな嘘の表情で嘘を吐くなんて…。


 昨日の様子が嘘のように夫の頬はこけ、寝不足なのか目の下にクマが出来るくらい消耗していた事にイライラする。


 まるで果南に負けたみたいだ。


 いや、私に憤慨する資格なんてない…。


 でも、何だろう、この気持ちは。


 彰さんを思う気持ちとは違う、不安によく似た、でも尖ったような鋭利な気持ち。



「っ…」



 寝室のシーツは綺麗に取り替えられ、お風呂はまだ湿気が抜けてなかった。


 嫌でも夫と果南の関係を突きつけられる。



「朝ご飯は食べましたか?」


「…いや、何にも食べてないよ…君は?」


「私はモーニングを……少し食べ過ぎました」



 これは嫉妬なのか、何なのか。よくわからない感情に支配され、つい、悪どい事を考えながら言ってしまった。


 そして内心が漏れ出ないように隠して、私はお昼ご飯を作った。


 でも、腹の立つことに、風邪をひいたと言って寝込み、夫は食べてはくれなかった。



「…」



 一人リビングに残され、残されたお昼ご飯を見て、この心に突き刺さる不安は、いったい何なのかと思う。


 それに気づくのはそこまで遠くなかった。

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