リキュアの場合

第1話

 私はスウィフテン・ガロリア。18歳。ナラリア公国の公女。父はスウィフテン・リキュア、母はナリア村出身のマリアンヌ。父は私が生まれる前に死んだ。若くして闇の国に囚われの身になり、クタリア地震の被害で亡くなったらしい。この地震で、叔父にあたるエドワードと、国王である祖父もまた、亡くなった。そのため、世継ぎがいなくなったらしい。だから私は2歳の時に探し出され、復興したばかりの城に連れてこられた。母とは引き離されて、その後すぐに亡くなったらしい。つまり、物心ついたときにはもう、私は天涯孤独の身だった。

「姫様、集中なさいまし」

 家庭教師に教わる横から、ばあやのリリーがとやかく言ってくる。

「分かってるわよ、ばぁや」

 最近は、亡くなった父がどうして一村人のマリアンヌと燃え上がったのかが気になって勉強が手につかない。話によると、闇の国に囚われた父は、最後の方には闇の国王であるガルシアを愛していたらしい。つまり同性愛者でもあった。なのに何故、一夜だけ女性を愛したのかしら。もしかしたら両性愛者だったのかもしれないけど。父の心の変遷が知りたい。

 一度ばぁやにそういうと、汚らわしいものを見たというような顔をして拒否された。

「あなたのお父上は立派な人でしたよ。闇の国に囚われるまでは。しかしあの人はこともあろうに、闇の国の王を愛したのです。これは謀反行為です。許されることではありません。それに、村人と関係を持った。性に奔放な人だったのです、ガロリア姫。それだけのことです」

 本当にそうなのかしら? ばぁやの見方なら、確かにそういうことにはなるだろうけど……。本当は愛に一途な人だったのではないかと私は思っている。だって、闇の国の王なんて、中々愛そうと思って愛せるものではないわ。

 実は私は今日、こっそり城を抜け出して、ワキャル王国に向かう算段を立てている。理由は、魔女カナリアに会うため。父を知る人がほとんどいない今、この世界随一の魔力を持った魔女に神通力で父の人生を視てもらうという手段が一番いいと思ったのだ。人の話には、どうしてもその人の解釈が入るし、当人じゃないから、ありのままを話してはくれない。ならば、魔力で追体験しようという魂胆なのだ。良くない? いい案だと思う。ばぁやに薔薇園を見に行ってくると嘘をつき、城を抜ける。ボロの頭巾を被って、物売りの少女に変装し、跳ね橋を通り抜ける。……よし、人が少ないせいか、監視がザルだ。余裕綽々、といった気分になった私は、城が森に囲まれているという事実を忘れたまま、意気揚々と歩き出した。途端に行く手を阻む鬱蒼とした木々。なんなの。城から外に出たことがないから分からなかった。こんなど田舎だったとは。どこかで甲高い鳥の声がする。私は途方に暮れてしまった。どのくらい続くんだろう、この森。

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