終章

「お姉さん、今日はなんで来たの?」

「修平君に会うために決まってるでしょー」

 腕をツンツンされる。シフトを入れるのは週末だけにしているとはいえ、中々体力の削られる仕事だ。精神的にも。

 扉が開いて、また客が入ってきた。黒髪ツインテール。ロリータファッション。これまたどぎつい……と思ったら、同じクラスの姫野じゃないか!!

「……え、江藤?」

「ひ、姫野……違う、これは」

「ホストやってたんだ……」

 くるりと踵を返して足早に店を出ていく。追いかける暇もなかった。まずい。学校にチクられたら終わる。学費が稼げなくなる。しかし、学校外の姫野、可愛かったな……などと不覚にも思う。まんじりともせず日をまたいで、次の日の夜。また姫野は来た。

「江藤さん指名です」

 姫野においでおいでをされる。恐るおそる隣に座ると、姫野は低音で俺を脅した。

「私がここに来てること、絶対周りの人にいわないで。誰にも言わない。約束」

 無理やり指切りげんまんをされる。いてて。

「言わないから、俺もここで働いてること黙っててくれ。特に学校には絶対」

「いいわ。これは私とあなたの秘密」

 こうして共同戦線は組まれた。それからというもの、姫野の存在は学校でも気になる存在になっていった。最初は確かに、秘密が出発点だった。でももう、それだけじゃない。

 孝祐とは学校でたまに話すくらいの距離感になった。すれ違いざま、蒲生は俺の耳に囁いた。

「僕がいてよかっただろう?」

 蒲生と孝祐は付き合ってるのかもしれない。確かにそういう意味では、蒲生は救ってくれたということになる。

「……感謝してるよ」

「収まるべきところに収まったんだ。君も、孝祐も。元々君たちは兄弟だったからね。特に若いうちは、親愛と性愛の区別が付きにくかったんだろうけど」

 どういうことだろうか。でも、孝祐と兄弟だというのは本当のような気がした。

「……孝祐、可愛いだろう」

「あぁ。たぶん君の知らない彼の表情を、僕はたくさん知っている」

 そう言われて、俺の心も救われる気がした。孝祐には幸せになってほしい。

「修平ー!」

 金糸雀に呼ばれた。そばには姫野が机に座っている。俺はそちらへと歩いていった。

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