第4話

 孝祐の家に上がらせてもらって1時間が過ぎた。『ディールバースト』は対戦型のテレビゲームで、コントローラーが2台しかないため、交代しながら対戦することになる。人の画面を見ているのも楽しい。蒲生は守りが手堅いのかと思いきや、結構攻撃に特化している。どこか自棄的なプレーにはらはらさせられた。孝祐はというと、俺が昔から知っている、バランスのいい軽快なプレーだ。協力プレイをすると、彼のソツのないフォローの仕方や、柔軟さが際立つ。こういう性質は学生よりも、大人社会のほうが評価されるんだろうな、などと思う。彼の真価が発揮される未来が楽しみだ。

「江藤くん、一戦交えようよ」

 蒲生が目を光らせて提案してきた。乗ることにする。

「いいぜ、手加減しねぇからな」

「それフリ? 悪いけど勝つよ」

 くそぅ、やってやんぜ。攻撃を仕掛ける。華麗に避けられて、攻撃を放たれる。無駄のない絨毯爆撃が降り注ぐ。なんとか避けたが、結果は蒲生の勝利。悔しがる俺を肴に蒲生がジンジャーエールを飲んでいる。

「江藤君は、なんていうか優しいね」

「弱いって言いたいんだろ……」

「いや、どこか相手を攻撃することに躊躇いがあるんだ。僕はあまりそういうことは感じないから、面白いなと思って」

 あまり意識したことはなかったが、もしかしたらそうなのかもしれない。

「孝祐は粘るからね。親の仇みたいに攻撃してくるよ」

 ふふふ、と口を抑えて蒲生が笑う。親の仇。何かが脳裏を横切って消え去る。なんだったんだ? 何か大事なことを思い出しそうな……。孝祐が「ちょっとションベン」と言って出ていく。俺は謎のデジャヴに少し呆然となっていた。そこに蒲生が耳に口を寄せてくる。

「まだ思い出さないの?」

 なんだ。異様な空気に飲み込まれそうになって、俺は蒲生を見た。こいつはなんだ? 俺に何を思い出させようとしている?

「何を知ってるっていうんだよ」

 牽制する。やっぱりこいつはおかしい。変な奴だと直感したさっきの勘は当たっていたのか。

「僕らの前世の話さ。君と君の弟と、僕の因果について」

「弟……」

 まずい。頭がクラクラする。ジンジャーエールに毒でも入れられてたのか? 吐きそうになって口を抑える。丁度その時、孝祐が厠から帰ってきて扉を開けた音がした。

「何してんの?」

 蒲生が表情を変えるのが、見なくても分かった。

「江藤君が気持ち悪いって」

「え、修平大丈夫? トイレ行くか? ついてってやるから、立てるか?」

 脇を支えられてなんとか立ち上がる。

「悪いな、孝祐」

「いいよ、お互い様だろ」

 トイレまで連れていってもらい、胃の中のものを吐き出す。孝祐が背中を擦ってくれる。

「しっかし、なんで急に」

「……孝祐、蒲生に変なこと言われたことないか? 前世がどうとか」

 孝祐の顔色が変わった。

「……なんだそれ」

「隠さないでくれ。何か思い当たる節は」

「……無いね。蒲生、小説の読みすぎじゃない? あるけど、言われたことは」

 目の光が弱まっている。他人からは隠せても、幼馴染みの俺の目はごまかせない。

「それだけじゃないだろう。お前、何か弱み握られてないか? 蒲生に」

 青い顔をして黙っていた孝祐は、しばらくして小さく息を吐いた。

「修平に隠し事はできないね」

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