第3話
「はよ、孝祐」
「おはよ、修平」
利一孝祐は俺の友人だ。小学生の頃からの付き合いで、もう十年くらいになる。同じ高校に入れた時は嬉しかった。本人に言ったことはないが。
「昨日夢野んちに行ったんだろ?」
「あぁ。姫野も来てた」
「このクラスの二大美女と同じ部屋にいたなんて、修平も隅に置けねぇなぁ」
「なんだそれ。お前も呼べばよかったな」
「や、俺は昨日蒲生と遊んでたから」
蒲生か。あまり喋ったことはないが、孝祐とは仲がいい。
「蒲生とどんな話すんの?」
「お互いゲーム好きだからなー、そういう話とか、色々くだらないこと」
「意外だな、クールな奴だからそういう話しないと思ってた」
「いい奴だぜ」
蒲生といえば、怜悧で整った顔立ちで、女子からキャーキャー言われているイメージしかない。そういう一面もあるのか。
「そうなんだ」
「今日俺んちでゲームする約束してるけど、お前も来る?」
「え、行く」
「おっけ」
孝祐の家に行くのは久しぶりだ。放課後、孝祐と蒲生と合流し、家に向かう。蒲生が僕に話しかけてきた。
「江藤君も『ディールバースト』やり込んでるの?」
「ちょっとだけな。蒲生は?」
「孝祐に誘われてやり始めたんだ」
不思議な印象を抱かせる人間だな、と内心考えた。どこか赤い、と感じる瞳に、恍惚とインモラルと陰の色が乗っている。血の色だ、と思った。どす黒い。なんでだろう、僕はこの人を好きではない。身の内が嫌悪でざわざわと波立つ。孝祐はなぜこいつと仲良くしているのだろう。そこまで考えて、ろくに喋ったことのない人間をそんなに簡単に嫌いになってはいけないと自分を戒めた。印象は印象だ。後で変わる可能性もある。
「蒲生君がゲームが好きだなんて、意外だったよ。いつから好きなの?」
「物心ついた時には、父親がしているのを横から見るのが好きだったな」
「じゃあ今は一緒にゲームやったりすんの?」
「いや、俺が小学生の頃に亡くなったから」
そうだったのか。
「ごめん……」
「いいんだよ、なんとも思ってないから」
赤い印象を抱かせる目をふっと細めてこちらを見てくる。
「親父の残したレトロゲームをやるのが趣味なんだよね」
「こいつにレトロゲーム語らせたら一日じゃ済まないから」
孝祐が笑う。孝祐がこんなふうに笑うのなら、やっぱり悪い奴じゃないのだろう。
「色々教えてくれな」
蒲生はにこりとして頷いた。東の空から、青色が徐々に奪われつつあった。
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