第1話
夢野金糸雀(カナリア)は幼なじみだ。ツインテールが彼女の目印であり、いつもスキップするような足取りで歩く。どんぐり眼をくりっと動かして、俺を諭したりせっついたりする。女子にしては背の高いほうで、俺より少し低いくらい。小さい頃はそれでからかってしまっていたが、中学の時に泣かれてからは猛反省して、もうしていない。偏差値60くらいの高校に二人とも入学して、なんの因果か同じクラスだ。斜め右前に座って、今は友人と喋っている。快活な性格だけあって、見事に一軍に属している。といっても、このクラスは当たりで、あまりカーストがきつくない。基本的にみんな仲良しだ。珍しいなと感じる。金糸雀はガバっとこっちを向くと、跳ねるような足取りでこちらに来た。
「な、なんだよ」
「修平、今日数学の課題出たでしょ」
「あぁ」
「私の家でやっつけちゃいましょ」
遊びの約束か。
「いいけど、お前俺とばっか遊んでないか? 友達とか大丈夫なのか」
「いいのよ、あんたの知らないところで遊んでんだから。とにかく、今日の放課後ね」
踵を返して去っていく。風のような女だ。
「あ、そうだ、今日他の友達呼ぶから」
「誰だ?」
「姫野まりこ。あんた喋ったことないだろうけど」
げっ。姫野はまずい。まずすぎる。
「やっぱ急用が……」
「何? 数学苦手なのにいいの? 今なら私が教えてあげるのに」
「……上がらせていただきます」
姫野まりこも同じクラスの女子だ。俺には彼女を警戒しなければならない事情がある。なぜなら、彼女は俺がホストクラブで働いていることを知る、唯一の人だから。ま、それと引き換えに、彼女がホスト狂いであることを黙っているから、実質共犯関係みたいなものだが。しかし、その関係性を第三者に感づかれるとまずい。
「姫野ちゃん、あんた好みの女の子でしょ。楽しみにしてなさいよ」
姫野は大きな眼をした、姫カットのロリータ系美少女だ。確かに外見はタイプだが、中身は……。ぎこちなく頷いておく。
「ア、アァ」
「なんでカタコトなのよ」
言えない。言えるわけない。学校ではお淑やかな姫野がホストクラブで湯水の如く金を使っているなんてこと。
「……じゃあ、また放課後に」
「そうね」
ふぅ。なんとかごまかせた。さて、問題は今日の放課後だ。姫野にラインを送る。
『徹底的に顔見知り程度の温度感でいこう』
『ラジャー』
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