カナリアの国から

はる

エドワードの場合

序章

 私はナラリア公国第一王子のエドワード。今は詳しい説明は省くが、隣国ワキャル王国を攻め入る算段をしている君主、すなわち私の父を止めに、執務室へと足早に向かっている。私の父は尊敬すべき人物だったが、ここ最近は耄碌し始め、むやみやたらに戦争を仕掛けようとしていて、私や他の者が止めなければ大惨事を引き起こしそうな危うさを常に孕んでいる。それに、ワキャル王国には私が密かに想いを寄せているアマリア姫がいた。国同士の関係が悪くなれば、アマリア姫にお近づきになることさえできなくなる。そういった私情はあるが、もちろんせっかく良い関係を結んでいるワキャル王国との国交を失いたくはなかった。無駄な人死にを起こしたくないのは人情だ。赤いベルベットの絨毯が敷かれた廊下は無駄に長く、私は途中からほとんど走っていた。その時だった。地面が崩れたと錯覚するほどの衝撃が訪れ、私は地面に倒れ伏した。な、何が起こった。途端に、二度目の衝撃が頭を貫いた。霞んでいく視界に、崩れ落ちてゆく城が映った。地震か。体中の力が抜けていく。ここまでか。私は薄れゆく意識を手放した。アマリア姫。もう会えない。父上は無事だろうか……弟は…………。

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