第13話 対峙(後)

 目の前に、正円状の部屋が現れる。床には、扉と同じように星座が描かれていた。


「ここなら、暴れられそうかな」


「ランス?」


 いつになく楽しそうなテンパランスを、横目で窺う。右手にレーザーナイフを持った彼は、床に描かれた巨人のようだ。


「俺、ここに残る。研究員くらいなら、足止めできるかも」


「1人じゃ、無理よ。私も残るわ」


「レンまでっ」


 止めに入ろうとするが、ストレングスは黒く長いスカートの中からレーザー銃を取り出して、ほほ笑んでみせた。


「飛行機から降りる前に、拝借しておいたのよ」


 小首を傾げ、悪びれる様子のない彼女に、フールが目を丸くする。彼から手渡された武器以外にも、在庫が隠されていたのだ。

 それを目敏く見つけ、持ってきてしまった彼女。春を呼ぶ女神のような笑顔をしながら、穏やかとは言い難い内面を持っているのかもしれない。


「道案内役がいるんだもの。私が付いていなくても大丈夫。後は頼んだわね、ジャッヂメント」


『ありがとう。気を付けて』


 2人を部屋に残して、更に上を目指す。鉄の棒と板だけで作られた階段は、踏むたびに高い音が響いた。反響がすごくて、誰の足音なのかも分からない。

 次の扉が見える頃には、足音の他に、下から言い合う声が聞こえてきた。星座の部屋で、2人と研究員たちが出会ったらしい。


「もう追いついてきたのね」


『障害があるわけじゃないからね。さあ、エステス。君の出番だよ』


 淡い黄色で薄雲が描かれた、月の扉の前に立つ。中央にはめ込まれた青白い石には、クレーターが再現されていた。

 生唾を飲み込んで、青白い石に手をかざす。石は黄色く輝くと、さっきと同じように簡単に扉が開いた。安心して、ほっと息を吐く。

 再び現れた円状の部屋に入る前に、螺旋階段の下を覗き込んだデビルが、愉快そうに笑った。


「なるほど。ランスたちの相手を、完全に研究員に任せたか。ハングとファントが、こっちに来るよ。ハング相手なら、僕の出番でしょ?」


「私も残ろう。1度、本気で相手をしてみたかったんだ」


 名乗りを上げるフールの顔を、デビルはまじまじと見た。


「へえ。物好きだね」


「一応、友達だしね」


 2人は笑い合ってから、同時にジャッヂメントを見上げた。


「てことで、僕たちは残る。映像がどうやって現状を把握して、しゃべってるのかは知らないけど。エステスを泣かせたら、承知しないからね」


「同じく、だ」


 2人は、透明の少年が自分とラバーズの父親であるということを、忘れてしまっているのではないだろうか。

 青い瞳と赤い瞳を交互に見比べてから、ジャッヂメントは困ったように笑った。


『心しておくよ』


 デビルとフールを気にしながらも、また螺旋階段を上っていく。

 しかし、今度は直接、円状の踊り場に出てしまった。踊り場には、スプレッド朝がある大陸やハミット島はもちろんのこと、東の国まで入った地図が描かれている。

 その先には、ただ直線状の鉄の階段があるだけだ。


「封印の扉が、無い? 兄さんは、鍵になっていないの?」


 最後尾に付いていた自分は、疑問を小さく口にした。しかし、考える間もなく、近づいてくる一つの足音に気付いて、階段の下を覗き込む。

 ハイエロファントだ。

 1度は上りかけた階段から、迷うことなく飛び降りる。履き慣れた靴は、しっかりと踊り場を捉えてくれた。


「エステスッ」


「おじさんたちは、先に行ってて。兄さんと話してくる」


 渋っていたエンペラーだったが、こちらの意思が固いと悟ると、「気を付けるんだぞ」という言葉を残して階段を上っていった。彼等を見届けた後、兄が自分を無視して行ってしまうことがないように、上へと続く階段の前に立って待ち構えた。

 対面にある階段から、徐々に兄の顔が見えてくる。

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