第13夜 コボルトやゴブリンにとっての毒

 さて、部下たちの食料事情を改善するために農業でもやってみるか、ということになった…………のだが。

 その前に、やっておくことがある。

 種は鉱物と交換でリッキー君から買えばよいだろうから、まず彼らが食べられる野菜を知っておくべきだろう。


「どうしてですか?」

「人間にとっては平気でも、他の種族にとっては毒かもしれない野菜があるかもしれないからさ」

 身体能力で他の動物にはるかに劣る人間が、世界であそこまで発展できたのは知恵による高い適応力に加え、毒となる食べ物が少ない雑食動物という点だと聞いたことがある。


 有名な所だと、猫にアワビなどの特定の貝を与えると、コケなどが血管を通り、一番皮膚が薄くて外部に影響を受ける耳で繁殖し、耳が壊死して取れる。という話がある。

 アワビは野菜ではないが、普段当たり前に食べている中で他種族にとって危険な食べ物として気を付けた方が良いだろう。


 また、猫といえば魚などの海産物が好物というイメージがあるが、魚ばかり食べていると栄養失調になるらしい。

 これは、元々猫が陸上の生き物であり、漁村で人間が落としたものを拾って食べる珍味のようなものだからだという。

 魚だけを食べて暮らせるなら、猫は泳げるし、魚を獲る力も発達しているだろうという動物学者先生の言葉が今も思い出される。


「と、いうわけで少量だが育てられそうなやさいを用意してみた。食べられそうか鑑定してみてくれ」

 と、用意した野菜を見せる。

「あの…ご主人様。後ろにある草は何ですか?」

「ああ、もしも毒だったときのために毒消し効果のある草も貰って来た」


 その言葉を聞いてコボルトたちの顔が恐怖で凍り付く。

 ゴブリンは意外と平気だ。


その1;にんじん、じゃがいも、たまねぎ


 まずはカレーの具になるような、植物からだ。

 よく、異世界になんで存在するか問題になるじゃがいもも用意した。

 

 この世界では普通に存在するんだよ。(スターウォーズの監督の『俺の宇宙では(真空でも爆発音が)するんだよ』というセリフと同じ感じで)


 なお、にんじんだが、これは江戸時代に日本に入って来た食べ物だと親切な方から教えてもらった事が有る。

 じゃがいもと同じく新しい食べ物なのだが、こちらはあまり話題にならないのは繁殖力が普通なためか、ポテト程中毒性のある食べ物ではないからだろうか?

「ご主人様。これは古いのはエグみがありますが、新鮮なものは甘くておいしいですね」 とモフモフ君たちが言う。

 さすが、犬並みの嗅覚。臭いで鮮度が判別できるらしい。

「うまいうまい」とゴブリンも食べている。

 なお、実際に犬に与える場合、与えすぎるとβカロテンの過剰摂取により、肝臓に負担がかかる可能性があったり、食物繊維の取りすぎで、嘔吐や下痢のような消化器症状を引き起こすおそれがあるので。中型犬には半分程度を与えるのが適切らしい。

 

 つぎにジャガイモを食べてもらうと

「ご主人様、これ新しいのは大丈夫ですが、この緑色になったのは食べられない気がします」

 と、申告があった。

「すまない。じゃがいもは日光に当てると毒素を出すんだった。よく気が付いたな。ありがとう」

 というと、誇らしげに「ワフッ!」と声を上げる。

 その横で、緑色だろうが新しかろうが「うまいうまい」と食べているゴブリンもいるが、君、後で胃腸薬だけ飲んどきなさい。


 ちなみに犬にじゃがいもはおやつとしてあげるのは問題ないが、炭水化物なので与えすぎると太るから注意らしい。

 モフモフ度が増えるなら与えたい気もするが、健康を壊してはいけない。ここは我慢一択である。


そして最後はたまねぎなのだが

「「「ご主人様。これは、食べてはダメだと本能が告げてます」」」

 と、コボルトが一斉に口をそろえて言う。

 

 ねぎ類(玉ねぎ・長ねぎ・ニラ・にんにく)は犬や猫にとって有害なアリルプロピルジスルファイドという成分が、赤血球を壊し血尿や下痢、嘔吐を起こす恐れがあるという。この成分は加熱しても毒性は消えず、これを平気で食べられる人間はそこが犬たちより毒に耐性があると言える。

 なおネギに含まれるアリニンという成分は豚肉に含まれる疲労回復物質、ビタミンB1の吸収を助ける。さらに豆腐などに含まれるマグネシウムを取るとビタミンB1の摂取可能量が増えるらしい。

 ゴーヤチャンプルーが疲労回復に効果があるのは、これらの成分を含むからだろう。

 なお、ゴブリンは平然と玉ねぎをかじっていた。

 …あの、それ生なんだけど。

 なお、隣に置いていたニンニクに手を出したゴブリンは泡を吹いて倒れた。

 一体何が悪かったのだろう?


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その2:ブドウ・干しブドウ

 今度はデザートに、とフルーツを出してみようかと思ったが、甘いものは虫歯の原因になるだろうか?

 そう思ったら

「ご主人様。これも毒です。食べられないですよ」

 と、モフモフ君から言われた。

 なんでも、ドワーフからワインの元としてブドウを貰ったが、皮も食べたコボルトが非常に苦しんだという。

(ブドウは犬猫にとって皮に強い毒成分があり、腎不全の原因になります)

 なおゴブリンは(以下略)


その4;カカオ

 犬にチョコレートは毒。

 そんな話を聞いたが、やっぱりコボルトもダメだった。カカオに含まれるテオプロミンが原因で、下痢や嘔吐など中毒を引き起こすらしい。

 ゴブリンも「苦い!まずい!」と言っていた。全部食べたけど。


その5;シナモン、ナツメグなどの香辛料

 食べ物ではないが、野菜スープには香辛料。と思ったら、持ってきた瞬間に逃げられた。

 臭いに敏感なのもあるが、獣医さんが『耐性が低いため肝臓障害を引き起こす可能性があります』ってテレビではなしていたっけか。

 意外な事にゴブリンもこれにはギブアップした。

 

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「と、ここまで調べて分かったのだが」

 コボルトは基本的に犬がダメな食べ物は全部ダメらしい。

 そしてゴブリンは基本なんでも食うが、ニンニクとかハーブ、香辛料などがダメらしい。

 基本的にゴブリンは人間でも食わないようなゲテモノでも食べるイメージがあったので意外だが、どうやら殺菌効果のあるものとか害虫に効果があると言われているものがダメらしい(※この世界のゴブリンが、です)

 このゴブリン自体がばい菌みたいな存在だからだろうか。

 ひどいや、創造主。


 というわけで、ニンジンやジャガイモ。あと豆類を植える事にした。

 

 個人的にニンニクが好きだったのだが、全員がダメという事で植えなくて良かったと思う。

 さあ、次回は頑張って野菜を作るぞ



 そう思っていると

「ご主人様は、何か苦手な食べ物ってないんですか?」

 と、みんなから聞かれた。

 

 はて?


 ドラゴンは体が大きいので、そこまで毒になるわけではないが、西欧の竜は一部が毒殺されたんだっけ。

 ただ、この体はそこまで食料を必要としないので、食べ過ぎなければ大丈夫だろう。他に何かあったけ?

 そう思った時、一つ思い当たるものがあった。


「……酒。かな?」


 日本神話も中国神話も、酒の飲み過ぎで討ち取られたり失態を重ねた竜のなんと多いことか。

 西欧のドラゴンもそうだが、竜にとってアルコールとは死亡フラグの代名詞でもある。

 というか、人間もそうだし、だいたいの生き物の失敗談に使われるオチ担当食品ではないだろうか?

 あれを回避できるのはドワーフくらいなものだろう。


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 基本的にファンタジー世界にはポイズンの魔法がありますが、食品での毒になるものというのは、あんまり考察されてないんじゃないかと思います。

 グルメ系の場合、神獣とか大型動物が多いので何を食べても平気というのが多いし、変にうんちくを語るよりも、おいしいものを美味しく食べるのを見て楽しむものだから、あれはあれで正しい感じがします。

 ただ、現実の動物は人間ほどいいかげんに胃ができていないので、食べ物を与える時は注意が必要だという事は、心の片隅にでもおぼいてもらえれば幸いです。


 なお、犬には他に鳥の骨が、砕けると胃とか喉に刺さって危険だったり、アルコールも体内で分解できないので中毒になるそうです。

 個人的に大好きな【みかん絵日記】というマンガでは主人公猫がまたたび酒を飲んでいたのですが、あれは大丈夫なのかな?と今になって思い出しました。

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