第12夜 竜と食事といけにえ

先日のドラゴンキラー騒ぎから数日がたち、山も平穏を取り戻した。


お昼になり、吾輩が起きるとコボルトやゴブリンたちは昼飯を食べているようだった。

食材が何かは敢えて見ないし聞かないようにしておく。


今日は暖かいし、昼寝にはうってつけの日なので再び床に入るかと思っていると

「あ、ご主人様。こんにちわ」

 とゴブリンの一人が挨拶をする。

「ああ、こんにちわ。そして、おやすみ」

 と、最速の挨拶をする。

 おはようからおやすみまで見つめる肉食動物も実働10分で済むなんともホワイトな職場環境である。


「あれ?ご主人様は食事はとられないんですか?」

 と言われて、『ああ』と彼らの疑問に気が付き、こう答えた。


「吾輩はある種の蛇と同じで、半年くらい食べなくても平気なのだよ」


 すると、ゴブリンもコボルトも言葉を失い、やがて

「う、嘘だぁ!」

「そんなに大きな体なのに、何も食べなくても平気とかありえないですよ」

「冗談ですよね?ご主人様」

 と、騒がれた。


~第12夜 俺の世界では平気なんだよ 竜と食事といけにえ~


 竜と言うのは西洋の場合、人間を好んで食べたという。

 またファンタジー世界でも人間より賢い、当時としてはレアな種族だったので、クロちゃんのRPG見聞録では、人間にクイズを出して、答えられなかったら食べてしまうというドラゴンもいたらしい。

 それ、スフィンクスじゃ…、と思ったが、あれは旅人を待ち伏せて知恵比べで負けると死んでしまうと言う、問題出さずにそのまま食い殺せば早いのに…と思える変わった生き物だったが、それくらいの制約がないと勝てない相手だったのだろう。

 他にもグリフォンなどは牛をさらって食べると言うし、大型魔物は食事の量も多いだろうというのもわかる。

「そうですよ。我々も毎日、食べられる野草とか肉とかを手に入れるために一日を費やしているのに、ご主人様ほどの巨体で何も食べないと言うのは不自然ではないですか?」

 とゴブリンが言う。

 うーん。そういわれてもなぁ。

 ドラゴンの親戚にあたる蛇とか、3日に一度くらい水を飲む必要はあるけど、食事に関しては2週間食べないのはよくあることらしいし、生前読んでいた『天地創造デザイン部』というマンガだと、アフリカタマゴヘビという蛇は、鳥類の卵のみを食べ、卵がない時(鳥類の繁殖期ではない時期)は絶食するらしい。

 食べ貯めができるので普段は捕食の為に動かなくてよく、それゆえに代謝が少なくて活動しない。

 ドラゴンは最強のニート兼引きこもりなのではないだろうか?


「あれ?でもかなりまえにニンゲンと一緒に行動していたドラゴン様は『おいしいものが食べられるから同行している』とおっしゃってましたよ」

 ああ、最近の転生ものだとドラゴンも転生者の料理を気に入って一緒に行動するというのもトレンドだったけか。

 確かにたくさん行動するなら、食事も頻繁にとる必要がある。

 おまけに、いままで引きこもっていたから食事なんて動物の丸焼きか生で食べる程度だったろうし、食事の魔力に取りつかれても仕方がないだろう。

 吾輩もたまにポテトチップとかサイダーとかが恋しいときがある。

 だが、どちらもこの体では手に入らないだろうし、おいしい食事は前世に人間の姿の時にそれなりに食べていたので、こちらの世界の食事はそこまで興味がない。



「とまあ、吾輩は食べ物に興味はないし、動かなければ腹は減らないから、多分平気なのだと思う」

 という事で結論付けた。

 日本でも竜神様への生贄というのがあるが、あれも一年に一度、村の若い娘を。という謎ルールが物語ではテンプレとなっているが、蛇の絶食習性と、大雨で犠牲になった人は蛇神に食われたのだ>だったら、先に生贄を出せば水害が収まるんじゃないか?という謎理論が複合して生まれたんじゃないかと思った。

 確率1%の事故を自分たちで起こせば、災害をコントロールできる的な。


「そういうものなのですか?」

 と、まだ納得のいってないゴブリンたち。

 まあ、食べるのに大変な存在からしたら、食べなくても生きていけるというのは、

 身を粉にして働いて、やっと生きているのに、その横で『お金は余っているから働かなくても生きていける』と言われているに等しいのかもしれない。

 あ、確かにそりゃ納得がいかないし、吾輩が弱かったら殺されていたかもしれないな。

「中国の龍だと、ツバメとかアズライト(藍銅鉱)が好物という情報もあったけど、物語だと普通に人間みたいに酒宴をしているし、仙人に近い存在だから食べ物無しでも平気そうなんだが…」

 ん?まてよ。

 たしかあの世界食べると仙人になれるという蟠桃って桃があったから、霞だけで生きて行けるんじゃないか?

 でも、西遊記だとその桃を食べた孫悟空は五行山に封印された時

【悟空の腹が減れば「鉄の玉」を食わせ、のどが渇けば「熔けた銅」を飲ませた。】

 という拷問器具で食事を済まさせている。仏は鬼である。

 そんなもん食ったら吾輩でも死んでしまうだろう。多分。


 ちなみに五行山はベトナムにあるダナンという山の事で、営業時間と入園料が設定されて一般人も入れるらしい。

 どこでもドアがあれば行って見たい気もする。


「ま、少しでも負担が減るように、リッキー君との取引で保存食を増やして、あと農業も少しやってみるか」

 

 別に働く必要はないのだが、押しかけ部下のために、ほんの少しだけ働いてみるか。

 そうおもってみたのであった。


 その後、ゴブリンから

「やり方は分かりましたのでご主人様はやっぱりお休み下さい。間違っても農園には来ないで下さい」と言われるのは後の話である。


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 中国の龍は美食家。西欧の竜は食に無頓着。日本の竜は人肉食。

 そんな雑なイメージがありましたが、手の構造的に調理とか大変そうだし、あんまりよいものを食べてなさそうなイメージがあります。



 

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