第9夜 ドワーフ 後編 ~ある意味 研究者~

●前回までのあらすじ


 コボルトくんたちの鎧を製作してもらいたいので、ドワーフさんに頼みに行くことにしました。


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「ドラゴンが現れたぞおぉぉぉぉ!!!!」

「うおおおお!!!このトカゲ野郎め!!!先祖代々住んできたこの土地を渡してなるものか!!!」

「女、子供は奥に避難させろ!若いモンは武器をとれ!全力でぶつかるぞ!」


 手厚い歓迎を受ける我が輩。

 あはは、こらこら、斧は痛いって。


『はじめまして、私隣の山にすむドラゴンですが、部下たちの防具を作って頂きたいのですが』と、言うが早いか、見張りのドワーフが叫び、洞窟中のドワーフから攻撃を受けた。


 よく考えなくても、竜が住処にやってきたらそりゃ攻撃されるよね。

 吾輩うっかり。


 などと言っている場合ではない。早く話し合いで誤解を解かないと。


「ブレスが来るから、正面以外で攻撃じゃ!50人で取り囲んで一斉に攻撃じゃ!」


 立派な髭を蓄えたドワーフが、仲間に指示を出す。

 それに合わせて他のドワーフたちが散会する。


 まるでネトゲのボスになったような気分である。

 さすがドワーフ。力が強い。

 我が輩が竜でなかったら、あっと言う魔にミンチになっていたであろう。

 だが、この鱗には斧の刃でも傷が付かないようだ。

 堅い鱗は斬るよりも叩く方が効果的なのだ。(ファイヤーエンブレム知識)

 なので、余裕を持って攻撃を受けているのだが


「バカタレ!竜の鱗に斧なんぞ効くか!戦鎚もってこい!」


 その言葉に、我が輩は弱めの話し合い(ドラゴンブレス(電撃))をお見舞いした。

 


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「なぁんじゃ。防具の制作をしてほしいなら最初からそういえば良いのに」

「言ったよね。我が輩、『はじめまして、私隣の山にすむドラゴンですが、部下たちの防具を作って頂きたいのですが』って言ったよね」

 そう言うと、隣のドワーフが

「若いの。ワシら長ったらしいのは嫌いなんじゃ。『防具をくれ』頼むんならこれで十分じゃ」

 お前等は物事を三つまでしか覚えられないスタンド攻撃でも受けとんのかい。

 ん?というか、それだと強奪するように聞こえないか


「ははは。まあ細かいことは気にするな。若いの」

 まるで工事現場の職人みたいな切り替えの早さである。

 ドワーフは頑固だが、悪人ではない。一度心を開けば心強い味方になると、だいたいのファンタジー解説書には書いてある。

 元々、神と同等の力を持つ巨人を食して生まれ、神から知恵を与えられたのだから頑丈な体と、良い心を持つのも納得ではある。


 まあ、その心を開くのが非常に難しいのだが…

 今回はリッキー君の酒をお土産に持ってきたのと、勘違いで襲ってきた後ろめたさの合わせ技で信頼を勝ち取れたらし……


「ほほう。見てみい。ドラゴンの鱗というのはすべて曲面になっておるんじゃ。これがどういうことかわかるか?」

 後ろでは老ドワーフが若いドワーフに、問題を出している。

「曲面だから斧の刃先が滑る。それで、懇親の一撃でも受け流された。

「そうじゃ。だから防具はなるべく曲面を作るんじゃ」

 と、なれなれしく鱗をさわりながら若者への教育素材にされている。


 ……もしかして、これが目的で話を聞く気になったんじゃないだろうな?


 まあ、鎧を作ってくれるならどちらでもいいか。

「と、まあ、そんな感じでコボルトとゴブリン用に曲面が多くてなるべく余所を襲えないように重い鎧を作ってほしいのだが」

 と依頼を出す。

「コボルト用か…」

「できれば、吾輩の鱗のように堅くて頑丈で、それでいてモフモフさが失われない鎧で、住む山の中だけでは羽のように軽くて、外に出ようとしたら普通の重さに戻るような奴がいいんだが」

「お前、酔っぱらってんのか」

 だよなぁ。そんな便利な鎧あったらみんな使ってるよな。

 単なる思い付きを詫び


「そうだよな。無理だよな」

 と、いい加減なアイデアを詫びた。




これがまずかった。


「なんじゃとぉ…」

 どうやらこれを、『無理難題言ってごめんなさい』ではなく『そんな技術あるわけないですよね。技術力の足りないあなたたちにお願いしてごめんなさい』という意味に取ったようだ。

 職人に『できませんよね』というたぐいの言葉は禁句なのである。(事実)


「できらぁ!!!!」

 なんとも頼もしく、フラグっぽい言葉でドワーフは応えた。

「そのかわり、この材料を持ってこい!!!」

 余計なおまけ付きで。


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 世界中を駆け巡り、言われた鉱物を持ってきた。

  

 言葉にすれば一言だが、7日間駆けずり回ってクッソ重い材料を集めた苦労をほめてほしい。

 なにを作るのか分からないが、ドラゴンの力でも泣きたくなるような重たい膨大な資源を持ち帰ると、そのまま炉に放り込まれ、鍛造されていく。

 ドワーフの怪力は機械のように正確で、鉄を打つ音が力強く響き渡る。

 そして…






「よしっ!ドラゴンの鱗砕き器が出来たぞ!」


 ベキッ!


 気が付いたら尻尾で、完成品をへし折っていた。

「ああっ!せっかくの発明品が!!」

「なんちゅうもんつくっとるんじゃ!このボケチンが!!!」


 湾曲した鱗への衝撃を逃がさないように、鱗にぴったりはまるような曲面に無数の小さな棘をもつ巨大なハンマー。

「こうすると、微妙に叩く箇所がズレても微調整が効くんじゃよ」

 と、頼まれてもいない解説を加える。

  

「ちょっとしたジョークじゃよ。ジョーク」

 そういうと、依頼した鎧をとりあえず30。見事な品質で作り上げていた。

「うわ、きれいな出来だな」

 実際に自分でやってみて失敗したからわかる仕事の出来栄えである。

 見た目のごつさとは違い、繊細な仕事だ。

 さすが器用な種族と言われるだけはある。

 そういうと、不愛想な表情なまま『ドヤァ』という擬音が聞こえて来た。


 器用である。


 だが、この量に対して、あの材料の量は多すぎないか?と思ったら

「追加料金分じゃ」

 しれっと、言われた。

 それを先に言えよ。と思ったが、技術料やアイデア料を考えたら、それくらいかかるし「まあ、そうか」と納得したら、「気に入ったならまた来いや」と言われた。


 後でリッキー君に聞くと、客として合格だと言われたのだと言う。


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「わぁ!ご主人様!軽いです!」

 持ち帰った鎧を着てコボルトたちが飛び跳ねる。

 鉄鎧の厚さは1cmはあるのに、そんな重さを感じない程にコボルトたちは軽々と飛び跳ねている。

「こんなに重そうなのに、走ったり飛べるとか、素晴らしいですね」

 と、モフモフ君が、まるで久々に散歩に出た犬…じゃなかった。月面で歩いているかのように飛び跳ねる。

 まるで、ではなく本当にまったく重さを感じていないのだ。

 むしろ羽でも生えたかのようにジャンプ力が上がっている。


 まさに魔法の鎧。


頑張った甲斐があった。

「あ、でも調子に乗って宙返りとかはするんじゃないぞ」

 と、注意する。

「え?なんでですか?」

 と、モフモフ君が振り返ると

「みぎゃ!」

 と、調子に乗った別のコボルトが不思議な声を上げる。

 みれば、逆立ち状態で鎧が地面にひっつき、コボルトくんはジタバタともがいていた。

 先ほどまでの軽やかさとは逆で、ノリで引っ付いたかのように鎧は動かない。

 そして、助けに行こうとしたコボルトが近寄ると、

「むぎゃん!」

 同じような格好で地面に引っ付いた。

「ご主人さま。これは?」

 心配そうにモフモフ君が尋ねる。


「うん。この鎧は微量な磁力を帯びていてな」


 鉄は重い。それは鉄のもつ質量が重力によって下に引っ張られるからである。

 ならば、上に弾くような力が働けば軽い鎧が出来るのではないか?

 

 ドワーフはそう考えた。


 そして依頼主がドラゴンゆえに途方もない案を思いついたのである。

 

 地面を磁石にして、鎧にも磁石を入れ込み、それを着た状態だと反発するような鎧が作れないか?と。

 

 ただの磁石なら反発した後、すぐにひっくり返ってくっついてしまう。

 だが、中に余計な重り、兼、磁石との間を隔てるものが入り、反転しないようにバランスを取ればその問題を解決できると小さな模型を作って考えたらしい。

 

 まあ地面一面の磁石を炎で溶かして固定するなんて真似、竜でもなければ普通できないだろうし、それだけの資源を集めてこれれば作ってやんよ。という気持ちでの提案だったようだ。

 その苦労の甲斐あって、こうして軽い鎧が完成したわけである。


「よくわかりませんが、この部屋の中でだけはこの鎧は宙に浮くように軽いということですか?」

 モフモフ君が首をかしげながら言う。

 そのとおりだよ。モフモフ君は賢いな。


 逆に言えば、この部屋の外では歩くのも辛い重さとなる。

 完全にインドア派のための鎧である。

 これなら人間を攻めようなどという考えは消えるはずだ。



 なお、この部屋に入った冒険者は金属装備が全て下に引っ張られて使えなくなるので、鎧を作る必要がほとんど無かった事が後で判明するが、武闘家とかオーガには効果があったので、まあ良しとすることにした。

 うん。成功。

 余計な苦労や無駄な労力は使ってない。多分。


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 実際の職人さんだと、平気で仕事を放りだしたり、底意地の悪い野郎もいたのですが、本作には不要な存在なので気持ちのいい部分だけを抽出しました。

 個人的に、平野さんの『ドリフターズ』に登場するドワーフへ『出来んがか』と言った時の反応とか、戦い方が大好きなので、そんなイメージで書いてます。

 

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