第8夜 ドワーフ 前編 巨人から生まれたと言われる種族

 コボルトにゴブリンと鉱石堀の名人たちが(勝手に)集まったこの山。


 そうなると鉄や銅がそこそこ採れたようだ。

 人間に見つかると強奪される恐れもあるのでこれはリッキー君にも内緒だ。


「ところで、これを集めてどうするのかな?」

 とコボルトたちに積みプラを見つけた友人のような事を聞いてみた。


「それは武器や防具に加工するんですよ。ご主人様」

 とモフモフ君がいう。

 そういえばメガテンのコボルト(魔獣)は鉄の胸当てをつけていたっけ。

 ゴブリンは妖精枠だから武装していなかったが、だいたいの作品だとナイフや弓矢も扱っていたな。


 しかし、モフモフ君が防具ねぇ…。


 某戦車ゲームの重装備とかが思い浮かんだ。

 うん、モフ君は戦闘などに出てはいけない。彼にはもっとかわいい服とかを着せるべきだろう。

 

 などと考えながら、彼らの作った完成した武具をみたが


「醜い」


 一目見ただけでわかる、つたない代物だった。

 カブトは鉄をたたいて丸くしようとした努力は認められるが、たたいた跡が遠目にもわかる。

 きれいな曲面ではないので、剣を受け流すどころか引っかかって首の骨が危なそうだ。

 胸当てはほぼ鉄板。

 腕の手甲はブカブカで剣を受けたら外れそうだった。

「ま…まあ、我が輩は鉄の加工はしたことがないし、実用を考えたら、そうわるくないんじゃないかな…」

「ご主人様、精一杯の気遣いがかえって悲しいです」

 と説明役のコボルト、ライデンがしょんぼりしたようにいう。

 すると

「コボルトは手が犬に近いですからね。まあ不器用なんですよ」

 とコボルトのリーダーが言う。

 ああ、なるほど。

 だとすると金属加工は彼らに任せた方が良いのかな?と思いながらゴブリンたちの武具を見たが

「…ナニコレ」

 剣は先端は鋭く尖り、側面はボロボロなノコギリのような形状そしている。

 鎧はデコボコで、あらゆる場所にトゲが付いている。

 ハリネズミかなんかかな?

「この剣は、人間の体を刺したときに、毒や剣の一部が中に入って傷を悪化させるためです」

 殺意高杉。

「だったら、この鎧の針は?」

「かっこいいでしょう」

 ドヤァ!という顔でゴブリンが言う。


 とてもJIS規格にはとおりそうにないそれをみて、そういえば『ホビットの冒険』に出て来るゴブリンは『美しい物を作れない代わり、人を痛める道具や「いちどきにたくさんの人を皆殺しにする」(瀬田貞二訳)道具の研鑽に余念がなく、火薬など殺人の道具の発明の影にいる』と言われているんだったっけ。と思い出した。


「ゴブリンたちのはともかく、コボルトのカブトは下手したら死ぬぞ。ちょっと貸してみなさい」

 そういって、頚椎破壊道具のようなカブトを受け取ると、少し強めに炎を吐く。

 1000度を超える高温となった鉄だがドラゴンの皮膚だとそこまで熱くない。

 あとは、これをカナヅチで形を整えるだけ…あれ?意外と難しいな。鉄が金づちに引っ付いた。どうやら暖め過ぎたか。

 えっと、もう一度暖めて…………うーん、うまくいかない。ちょっと冷やして、あ、鉄が割れた。

「ドラゴン様が私の兜を壊した!」

 兜の持ち主が泣きそうな顔で言う。

 ご、ごめん。

 えーと、今度は火加減に注意してもう一度。やさしく、やさしく……慎重…金づちが壊れた。

 

 仕方がないので、そこらの丸い石に鉄をかぶせて、粘土細工のように鉄の形を整える。

「ちょっと(かなり)ごつごつしてるけど、まあ、まともなカブトにはなっただろ」

 形はどう見ても原付バイクのヘルメットだが。 


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「という事があったんだよ」

 と、人間社会で工房を営んでいるリッキー君に言った。


「あのー、ゴブリンだけでも根絶やしにしたらダメですか」

 人間として当然の質問をされる。

「武器だけは、毒物禁止でこん棒とかにするように命令したから、目こぼししてくれないか」

 別にかばう義理もないのだが、御主人と頼られた魔物を人間に売るのも夢見が悪い。

「それに、取れた鉄を防具にしてしまえば武器には回せなくなるだろう」

 そのため、なるべく分厚く、重く、頑丈だけど余所に攻めるには向かない重装鎧にしてしまいたいのだと言った。

 統制の取れてない害獣よりかは、誰かに従っている方がマシだと判断したのか、はたまた工房を持って誰かの上に立つ苦しさに共感してくれたのか、ため息交じりにリッキー君は口を開く。


「それならドワーフが適任でしょうね」

 


 ドワーフ。背丈は人間の膝くらい。そのかわり力が強く、戦士となれば頑健で重い斧を振り回す攻撃役。鍛冶をさせれば恐ろしく細かい金細工だって拵える種族……というのが地球のファンタジー世界の設定だったはずだ。

 ゲルマン系言語でドワーフは『小さい』的な意味であり、あるいみゴブリンやコボルトと似た系統の設定だと思う。というのも


「吾輩の知るドワーフと言うと、創世神話の時代の巨人が死んだあと、そこから湧いて来たウジに神々が知性を与えた種族だと聞いているが、人間の間ではどうかね?」


 地球だと北欧神話で太古の巨人の死体から湧いて来た説から始まり、日の光に当たると石化するという厄介な性質もあったはずだ。

「確かに、巨人の死体から生まれたのは一緒だけど、神が自分たちの道具を作るために巨人の肉をこねて、坑道で活動しやすいように小さくて頑丈で器用な生物を生み出したのが由来だといわれているけど、ウジとか言ったらいくら旦那でも命が危ないと思うぜ」

 と、この世界でのドワーフの補正を入れてくれる。



 ちなみに、ファンタジー世界だとドワーフは女性でも髭が生えるという設定があったが、とあるTRPGで『罠にはまって踏み破る』という豪快で可愛いドワーフが登場し、クイーンズブレ●ドというゲームでも少女風の可愛いドワーフが出てきて潮目が変わってきたが、こちらの世界ではどうなのだろうか?


 部下たちが余所で悪さをしないためにも、冒険者と言う強盗に簡単には殺されないようにするためにも、一度仕事を依頼できないか頼んでみる事にした。


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カフン ツライ

ナミダ クシャミ トマラナイ

スギ・ヒノ・ブタクサ ミンナ キレ(血涙

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