第7話 竜虎は本当に相搏(う)てるのか? ~ワータイガー~
我が輩が元居た世界には竜虎相搏という表現があった。
竜と虎とが戦う意味で、力量に差のない豪傑、英雄、強豪同士が激しく戦うことを指す言葉だ。
有名な所で言えば甲斐の虎と越後の龍がそうだ。
赤いきつねと緑のたぬき、みたいな語感だが、実際に竜になってみて思ったことがある。
『竜と虎って戦力差がありすぎるのではないか?』と。
~竜虎は本当に相搏(う)てるのか? ワータイガー~
なぜこのような事を考えたかというと、吾輩の目の前に虎が戦いを挑んで来たからだ。
「おう!てめえが最近ここらでデカいツラをしている竜かい!」
白い毛のホワイトタイガーが威嚇するように叫ぶ。
その体長は2m半。二本足で歩いている。
「あれは二足歩行しながらも虎のように四つ足にもなる。いわゆる虎人間、ワ―タイガーというやつですね」
と解説役のコボルト ライデンが言う。
サーベルタイガーのように伸びた2本の牙は非常に鋭く、噛まれたら痛そうだ。
そして、その手から伸びた爪は石だって切り裂きそうな煌めきを持っていた。
というか、実際に切った。
「俺は、ここらを縄張りにしているカリアっていうもんだ!」
どうやら、この虎は数年前からここら一体を支配していたそうだが、急に現れたドラゴン(吾輩の事である)がコボルトやゴブリンを従えて勢力を伸ばしていると聞いてやってきたそうだ。
完全に誤解なのだが、ヤンキーの縄張り争いみたいなもので自分にその気はないと言っても納得はしないだろう。なので
「そちらの言いたいことは分かった」
と、うなずいた後、おもむろに
「そっちの勝ちでいいから帰って」
と、あくび混じりに言った。
なにしろこの虎、太陽が昇ると同時に訪ねて来たので、本日は日の出(約朝八時)起床という偉業を遂げさせられて眠いのだ。
すると
「ふざけんじゃねぇ!!!」
と怒り出した。
戦わずに勝ちを譲ると言っているのに何が不満なのだろう?
「完全に馬鹿にされていると感じたからではないでしょうか?」
とモフモフくんが言う。
ああ、確かに。
とにかく眠いので、言葉をオブラートに包むのを忘れていた。
「だいたい、何でおまえはそんな勝ったような立場でモノを言っているんだよ!」
肉食獣独特の凶悪な顔でにらみつけてくる。
たしかに、言いたいことは分かる。だが
「何でってそりゃあ…」
目の前の虎は体長2m半。それに対してこちらの体調は『10m』(しっぽを含まない)。
猫と人間の小学生位の差がある。
「この体格差で、なぜ負けないと思えるのかの方が不思議なんだけど…」
そう、竜と虎は体格差がデカいのだ。
だから、目の前の獣人タイガーがブチ切れて
「くらえやぁ!虎の爪をおおおおおおお!!!」
と人間ならば首ごとちぎりとりそうな一撃をはなっても
キィィィィィィ!!!!!(寒気のする高音)
堅い鱗のせいでガラスでもひっかいたような音がするだけで特にダメージはない。
………精神にダメージはあったが、足下から聞こえるのと至近距離で聞くなら近い方がダメージが大きいのは当然で…
「ぐおおおおおおおお!!!!気持ち悪りぃぃぃ!!!!!」
ワータイガーはもんどりうって倒れる。
魔物の世界に黒板とかガラス板はないだろうから、初めての不快音体験だろう。
ついでに
「なんなんですかぁ!この不快な音はぁ!」
とモフモフくんたち犬型コボルトもその聴覚から、身悶えしていた。
おのれ、よくもかわいい仲間たちを。
「うるせぇ!自分だけ平気な顔しやがって!」
自爆技を華麗に炸裂させた張本人が勝手に怒る。
そして、
「爪がだめなら!これなら、どうだぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
と虎は飛翔して牙を剥き、その凶悪な長い刃物を我が輩の顔に突き立てた。
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……突然だが、みなさんは『おさんぽ大王』、または『ゆずとまま』というマンガを読んだ事はあるだろうか?
その作品では『ゆず』というかわいい茶虎の猫をしつけるために飼い主である作者がわざと怒り、飼い主にかみついた時
かぷ。というかわいらしい擬音とともに
「いたーい♪」
という、ほほえましい笑顔と共に
「ゆんたん。まま、たいたーい♪」
という飼い猫のかわいらしいさを表した言葉が出てきた。
自分よりも小さな虎から噛まれた時の、竜の感想がまさにそれだ。
ちくっとするが、鱗に覆われた体ではそこまで痛くない。
『デカいトカゲ』の異名は伊達ではないのだ。
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「やったなー♪おかえしだZO☆」
猫と遊ぶように、頭に体を押しつけてぐるぐる回る。(※この竜は特別な体質と訓練を積んでいます。本当に猫にやったらガチで引っかかれたり咬まれるので真似しないでください)
目が回って抵抗できないのを見計らって高い高いもしてみる。
(※野良猫の場合、こうした行為は大変いやがられます。引っかかれて熱を出したくなくても、出したくても絶対にやめましょう)
「ふぅ。いい汗かいた」
猫科の動物は犬科とはまた違った手触りで大変気持ちがよい。
モフモフ君と交代でウチにモフられに来てくれないだろうか?
そんなことをかんがえていると
「あれ?」
野生動物とのふれあいは終わり、そこには乗り物酔い状態の虎が水にあがった魚のように、ピクピクと倒れていた。
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「やっぱり虎は猫科だけあって毛触りがいいなぁ」
「ご主人様、あんまり触らない方が…」
その声で気が付いたワータイガーは、自分が猫のようになでられているのに気が付いて、わなわなと震えながら
「触るな!」
と、飛び跳ねた。
ちっ。至福の時間はもう終了か。
名残惜しそうに見ていると
「テメーだけは絶っっっっっ対に許さねぇ!!!!」
と、言いながら飛び出していった。
負けたのが、そこまで悔しかったのか。
でも、この体格差で勝てると思う方が間違いだよなぁ。と思う。
そういえば、昔某掲示板で『なんで竜と虎は同列に語られるのか?』というスレッドを立てたら、
『クソスレ立てんな』
『2げと』
『―――――――――終了―――――――――』
『―――――――――再開―――――――――』
『逝って良し』
などの大変ためになる回答の中に、
『マジレスすると、中国の陰陽五行説が多分大本。龍は陽の気で虎は陰と相剋(相反する力を持つもの)だから。四神としても、竜は東の守護神「青龍」であり虎は西の守護神「白虎」。日本だと常ににらみ合っている事から、二つの霊獣の覇気で、魔物や悪鬼邪気が入り込めないと考えられ、魔除け柄として用いられることもある。虎は人間に退治される強さだからこの場合の虎は神獣の方を指す。でないと竜だって人間は捕獲可能になってしまう』
という親切な人の話があったのを、実際の猫ちゃん、ではなく虎を触っていて思い出した。
もともと竜と虎は戦うわけではないし、この場合の虎は神獣だったのか。
それなら納得できる。
などと思い出していると
「あの…ご主人様」
とコボルトたちが近寄ってきた。
「いくら、相手が弱くても、あそこまで虐めるのはいかがなものかと思いますが…」
と、ライデンが言う。
ん?猫扱いはやっぱりまずかったか?
でも、仕方がないじゃない。さわり心地が良かったんだから。
と、いうとコボルとたちはあちゃぁという顔をする。
なんだ?なにか問題なのか?
そう、聞くとライデンが
「あのワータイガー。未婚のメスですよ」
…………………………
ワータイガー。
ワーウルフに代表される変身型獣人の一種。
その名の通り虎に変身する。
作品によっては「女性(牝)の個体が多い」「拳法を使う」などの特徴がある(引用;PIXIV百科事典より)
「……………………………………………まじか………」
その日から、山の麓では「セクハラドラゴン」なる不名誉なあだ名がついた。
ちがうんだ。
吾輩はオスだろうがメスだろうが、ネコチャンをなでられるならどちらでも良いんだ。と釈明した所、「変態」なる異名にランクアップした。
あの日以来、あのワ―タイガーは洞窟の端で吾輩を見張っている事が多い。
でも、近寄れば逃げる。
そういえば、人間の時も猫とはそんな関係だっただろうか。
ちょっと寂しいお話である。
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花粉は消えるべきである(こんにちは)
今回のタイトルはインパクト重視で『セクハラドラゴン』にしようかと思いましたが、完全なネタバレなので変更しました。
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