第10夜 勇者という名のゾンビ

 みなさんは朝寝てたら氷水をぶっかけられた事はあるだろうか?

 それもバケツ一杯とかではなく樽20個とかのレベルで、である。

 我が輩はある。

 たった今かけられた。


「冷水で体温を下げたぞ!」

「風魔法で水分を飛ばし、熱を奪うんだ!」

「氷魔法が使える奴は水を凍らせろ!」


 突然の理不尽な暴挙にあわてふためいていたら、竜の家に不法侵入してきた害虫…もとい害獣たちがわめいている。


 …そうか、これはお前たちの狼藉か。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「で、人様の睡眠を最悪の形で妨害した事情を聞かせてもらおうか?」

 洞窟という密閉空間を利用した超音波によるスタンと、しっぽによる凪払いで制圧した不法侵入者たちに尋ねる。


 鎧を脱いだ状態で、冷水の上に正座をさせた状態である。

 唇が紫色になろうが、ガチガチ震えているのもいるようだが、どれだけ、非人道的な大罪を犯したか少しは分かっただろうか。


「竜は変温動物だから、凍らせれば寝たまま倒せると町の情報屋に聞いたんだ」

 と、リーダーらしき少年が言う。

「バカ!正直に答える奴があるか!!!」

 と片目に傷を負った盗賊か戦士らしき男が制する。

 なるほど。見た感じ、王族ではなさそうな若者がリーダーとなると、これは勇者パーティーというやつか。

 となると、彼らの実力や知能がどれくらいのものか知っておくのもいいかもしれない。

 そこでちょっと質問をしてみた。


「足音を立てずに上空から水をかけるためにワイバーンを使ったのは、まあ良いアイデアだったと言えるだろう。だが、なんでこの程度で吾輩が凍ると思った?」


 液体窒素でもない限り、この巨体を凍らせるのは難しいだろう。

 ていうか、そんなので倒せるならアイスドラゴンなんて生まれたらずっと寝てるだろうし、氷魔法使いが竜の天敵になってしまうではないか。


 そういうとリーダーらしき少年はちょっと考えて

「そういえばそうだな」

 と、言った。

 素直なのはいいことだが、他人の情報を丸呑みして命を落とすのは感心しないななぁ。吾輩。

 たしかに竜は寒さに弱い種族もいる。

 だが、体の大きさが違うのでちょっとやそっとで凍らせるのは難しい。

 むしろゲーム、ロマサガのシルバードラゴンなんか、開幕と同時に吹雪を吐いて何度即死となった事か。

「じゃあ、次回は燃えた草わらとか油をかける事にしよう」

 今回の反省を活かして勇者もどきがそう言う。

 そっかー。やっぱり次が、あるんだー。

「もしかして、君たち、所持金の半額で蘇る系?」

 だとしたら大変だ。

 いくら倒しても倒しても復活するやばいのに目をつけられたことになる。

 強さ的には全然怖くないが、毎晩安眠を妨害されるとなるのは死ぬよりも恐ろしい。


「よく知ってるな」


 …ごめんなさい。命だけは助けてあげるので二度とこないでください。


 中途半端に知恵のあるゾンビなどと戦うのは嫌だ。

 こうなったら誰も来れない無人島に移住するか、この勇者をどこかの谷底に封印するしかないだろう。

 はっきり言って不死と言う時点で魔王も勇者も違いはない。


 恨みを買うのも嫌なので、炎のブレスで暖めてやる。


 そう。ドラゴンは体内で炎を生成する事が出来るので、活動したいときに体温を上げる事が可能なのだ(この世界では)

 だから、急な寒さにも対応できる。


 んあ? だったら、早起きも簡単じゃないのか?


 睡眠と活動可能なのは全然別腹である。

 やはり太陽が出ないと活動したくないというか、風水的に良くないとか、運気が下がる的な感じ?ってやつである。

 

「なるほど。体内で熱が作れるのか。だったら、燃えた藁も効果は期待できないか」

 勇者くんが理解してくれたようで何よりである。

「まあ、そんなわけなんで、次から戦いを挑むときは不意打してもしなくても結果は同じなんだから、正々堂々と、できればアポイントメント(予約)を取ってから戦いを挑んできなさい」

 そちらだって所持金の半分を失うのは嫌だろう?

 というと

「いや、所持金は0だから、問題ない」

 という返答が帰って来た。


 はい?


「賭博場で全財産すってしまってね。仕方がないから借金してワイバーンと氷水を借りて、竜退治に来たんだよ」

 人間のクズだ。

 おい、そこのいい大人3人。若い子が変なギャンブルしてるんだから止めろよ。

 勇者じゃなかったら、単なるチンピラか強盗になっているぞ。

 そう注意すると、他3人もカジノで出会った仲らしい。


 こうしたプレイヤーは知っている。

 強敵に1%でも勝てる可能性がある方法があるなら、何度も死に戻りをして楽をしよう楽をしようと試すやつだ。

 真女神転生の四門の館というシナリオ無視の高レベル悪魔が出る館で、攻撃反射魔法を使い、楽にレベルを上げようと挑戦した事がある吾輩だからよく分かる。

 こいつらは勝てるまでギャンブルを繰り返すし、惰性で繰り返すからあきらめない。


 ……………………とんでもないのに目をつけられたなぁ。

 隣の山のドラゴンは…………前に吾輩の代わりに犠牲になってくれたんだっけ。

 他に犠牲者もいないし

「火も氷もダメなら次は何で行く?」

「本竜の目の前で聞くなよ」

「ん?どうした。急に掴んで」

 吾輩は緊張感に欠ける勇者を掴むと、朝日が昇る空へ飛び立った。


 遠く遠い海の果て。モンスターもいなさそうな小さな島がある。

 昔のファミコンで言えば、1マスだけの、身動きが取れないから魔物にもエンカウントしなさそうな島だ。

 そこめがけて滑空すると、そのまま勇者を置いていっ不法投棄した。 


 これが勇者との長きにわたる安眠をかけた戦いの始まり……になりそうだった。


 餓死するか、何かのトラブルで死に戻るかもしれない。

 だが、今はとにかく目先の平和が先である。

 ドワーフに頼んで絶対壊せない檻を作るか。

 過去の文献で邪神とか魔王とかが封印されているという土地に一緒に封印するか。


 

 ダークキングダムというゲームで、勇者たちを【なんでも所持金の半分で復活する奴ららしい】と紹介し、強いくせに何度倒しても戦いを挑んでくる厄介な敵として戦った経験があるが、負けたら死の現実世界で狙われたら、これ以上の恐怖はない。


 世の魔王とか邪神は勇者が現れたと聞いたとたんに不安で夜眠れなくなるのではないだろうか?

 幸いにも吾輩はラスボスなどではないのでそこまで狙われることはないが、彼らに命を狙われる犠牲者はかわいそうだなぁ。と、非人間サイドにたつと思うのであった。


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だからといって、死に戻っても絶対倒せそうにないレベルのボスと言うのもプレイヤーとしてはストレスがたまるだけなので、悪いボスは適度な強さで倒されてほしいな。と、人修羅とかRPGの最悪裏ボス10選などを見ると思うのでした。


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