第5夜 ゴブリン 後編 

 ヨーロッパのゴブリンはコボルトと同じく、妖精の一種だったという。

 背の高さは人間の大人の膝ほどで、子供が好きで良い子にはお菓子をくれる種族もいるそうだが、中には妖精のご飯を食べさせ妖精の国に連れ去ったり、幼い子を食べるという、設定に統一性くらい持たせろや。といいたくなるような種族だったらしい。

 唯一共通しているのは醜悪な顔をしている事。

 なかなかに酷い設定である。


 なので、今目の前にいるゴブリンは、背が低く顔が醜い小太りな禿げ頭の老人に妖精のような羽が生えた生物。という悪夢のような物体だ。


「おう、竜が来たぞ」

「おそろしい。さっさとにげるぞ」

「後から来るお仲間は聞かないだろうからワシらだけで逃げよう」


 そういうと、警察から捕まりそうなコスプレをしたおっさんたちゴブリンは姿を消した。

「…なんだったんだ?今のは」

「あれは、我々のような妖精タイプのゴブリンですな」

 と、一緒に来た小人型のコボルトが言う。


「と、いう事は…」

「次に来るのが本番でしょう」


 コボルトのイメージが定着したのは指輪物語のトールキンによるものだろう。

 性格は邪悪で狡猾。坑道に住み、人を痛める道具を作るのが得意というまさに人類の敵と言う設定を与えられた。

 彼らにとって幸運だったのか不幸だったのか、これにより他の妖精と差別化され、人間より知性は劣るが油断してると殺されるという設定から様々な種類が作られ、単なる雑魚モンスターでは終わらなくなったことだ。


「ギ?」


 ぞろぞろと50匹くらいのゴブリンたちがやってくる。

 こちらの姿を見て怯えたりひれ伏すかと思い様子を見るが


「「「「ギーッッッッッ!!!!」」」」


 鳴き声と共に投石や槍が飛んできた。


 オーケー。これで心置きなく汚物を消毒できる。


 とりあえず、この世界のゴブリンの強さがわからないので、前足でかるくけちらしてみる。

「「「「「「「「「「「「「「「ギャッ!!!」」」」」」」」」」」」」」」


 悲鳴を上げながら転げ回るゴブリンたち。

 あ、やっぱり弱いや。

 

 ボウリングのピンのようにあっという間に転げていくゴブリンやられ役たち


 しかし。


『§Ψ¶Δ!』


 呪文と共に、暗い光が点ったかと思うと倒れていたゴブリンたちは立ち上がった。


「あ!あれは、ゴブリンシャーマンにゴブリンメイジ!それにゴブリンウイザードまで!」

 コボルトの声に、後ろに控えていた3匹の杖や槍を持ったゴブリンたちがニヤリと笑う。


「ちょっと待て」


「は?なんですか?ドラゴン様」

 解説者として熱中してたのに水を差された感じのコボルト(小人型。ひげあり)が見上げる。

「ゴブリンシャーマンというのはわかる」

 大自然に暮らしているんだから精霊とか悪霊とかと話せても、おかしくはない。

「だが、ゴブリンメイジ(魔法使い)とか、ゴブリンウイザード(魔術師)って何だ?」

 同じ魔法使いでかぶってるというツッコミはさておき。

 魔法を使える知能を持つゴブリンって野生で存在できるのだろうか?

「私も詳しくは知りませんが、捕まえた人間との間に生まれ…」

「ストップ」

 知りたくない知識を得そうになった。

 どうやら彼らの魔法は人間仕込みの本物らしい。

 この世界はそれなりに残酷なようだ。


 狡猾な知恵があるのなら、油断はできない。

 そこで


 ドンッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!


 竜の巨体で、おもいっきり地面をたたくと地震のように地面が揺れた。

 満員電車で立っていた時に急ブレーキがかかった程度の衝撃がゴブリンたちに襲いかかる。

 体制が崩れて集中力が途切れた魔法使い系ゴブリン3匹。そこへ


「えい」


 しっぽによる凶悪な攻撃が襲いかかる。

「ギャッ!!!」「ギィッ!!!」「ギョッ!!!」

 哀れ3匹のゴブリンたちは壁に吹き飛ばされそのまま気を失った。


 しかし、それでもゴブリンたちはひるまない。

 今度はゴブリンよりも一回り大きなゴブリンが現れる。

「あれはホブゴブリンですね」

 小人のコボルトが言う。

 『放浪者』『浮浪者』を意味する、別名、田舎ゴブリン。

 元々はただの亜種だったが、いつのまにかゴブリンの上位種扱いになったゴブリンだ。

 それらを従えて出たのは、鳥の羽で頭を飾り、丸太のような混紡を持った一匹のオーガ、いや巨大なゴブリンだった。

 プロレスラーか何かか?というか大人の膝くらいの大きさと言う設定どこいった?

「ああっ!あれはゴブリンジェネラル!」

「知っているのか!ラ●デン」


「ライ…?なんですかそれ」

 小人コボルトか首を傾げる。

 しまった、つい元の世界のノリで言ってしまった。

 著作権的にまずいから、別の名前。ライディー●は音楽とアニメ両面で不味いし、バイ●ン…はもっと不味い(政治的に)。

 まあ、シューティングゲームとか戦闘機の名前にもなっているし、ライデンでいいか

「ああ、君の名前だ。雷のごとき鋭い解説からライデンの名を授けよう」

「おお!ありがたき幸せ!」

 感激したように頭を下げるライデン。そこで、はっと気がついて

「あ、あのゴブリンジェネラルとは…ゴブリンの将軍役で、50匹程度のゴブリンを軍団的に操る能力があるそうです」

 なるほど。指揮官か。

 どうりで会話中にしっぽで叩きつぶしたらあっさりと沈没したわけだ。

 指揮される予定だった50匹のホブゴブリンたちがうろたえている。

『ドウスンダ、コレ?』『サア?』

 とでも言っているような会話が聞こえてくるようである。

 その後にやってきたゴブリンキング、ゴブリンチャンピオン、ゴブリンロードなどを適当に尻尾で撃退する。

 便利だな。尻尾。


 すると、

「あっ!あれはゴブリンエンペラーですよ!」

 ライデンが変わらぬテンションで叫ぶ。

 その名前に吾輩も少し警戒する。

 ゴブリンエンペラー。字のごとくゴブリン皇帝。

 某MMORPGでは強力な魔法に石化まで使う強敵である。

 人間が50人がかりでも勝てないような化け物的な強さを持つ可能性が脳裏に浮かぶ。

 もしも、相手が反則的な強さだった場合、即座に土下座できるように身構えつつ

「ライデン。エンペラーとはどのような存在なのだ?」

 と尋ねる。

「キングは1000匹、エンペラーは5000匹のゴブリンを率いていると言います。」

 え?そんなにいるの?

「はい。ゴブリン突撃隊を先に弓兵、槍兵、投石隊、その後から自身はゴブリン親衛隊を率いてやってくる上に、簡単な魔法や言語も習得した突然変異らしいです」

 そこまで種類が細分化されているとはゴブリンおそるべし。


 某スライムみたいなバリエーションに富んでいる。


 というか、それだけ数がいたら食料とかはどうしているのだろう?と思ったが「ともぐ…」聞きたくない言葉が出てきたので、とりあえず化け物の皇帝と対峙する。


「………」

「………」

 嫌らしい笑い顔でこちらを見上げるエンペラー。

 隕石魔法か即死呪文でも詠唱済みなのだろうか?

 それとも身体強化でもされているのか?それともただのバカなのか?


 その笑みは余裕の表れか、これから吾輩に対して行う残虐な行為への歓喜か?

 未知の相手に対して、その心底は測りかねた。

 そこで我が輩がとった行動は…


「ギ?」


 軽く握った拳。


 それをゆっくりとゴブリンエンペラーの前に突き出す。

 明確な敵意はなく、相手の出方をうかがうように人差し指だけをさしだす。

 これで、向こうも指を近づければ異世界コミュニケーション完遂(参考;E・T)

 持ち上げられて投げ飛ばされたり拳ごと吹き飛ばされれば土下座謝罪からの命乞いルートだ。


 はたしてどっちだ?


 不審そうに吾輩の指を見つめたエンペラーは、容赦なく

『ΘΛΓ!!!!』

 と魔法を唱える。

 無数の火の玉が飛び出し、周囲の敵、つまり吾輩を無慈悲にも襲ってきた。

 

 あ、これあかん。


 MMORPGの即死クラスのダメージを覚悟して腕でガードしようとしたが、小さな竜の腕では対して意味がないことに気が付いて……………


「あれ?」

 かなりの威力のはずだが、吾輩の体はびくともしなかった。

「ギギッ!!!」

 ゴブリンエンペラーと、後ろに控えた取り巻きは驚いたように、その光景を見る。


 あ、そうか。

 確かにゴブリンエンペラーはMMOのボスだったら人間に対しても強いだろう。

 だが、ドラゴンはそれ以上に強いだけの話である。

 どれだけすごくても、ゴブリンに負けるドラゴンなんて話にならないからね。


 とりあえず、目の前の邪悪な生物が自分の敵たりえないことを理解した吾輩は、腕と尻尾をブンブン鳴らして、仕返しタイムを開始する。

「あ、これは終わりましたね」

 とライデンも解説を止めた。

 試合終了。

 これからはお子様には見せられない一方的な蹂躙が始まる。


「さて、何か言い残すことはあるか?」


 通じるかどうかはわからないが、一応聞いておく。

 すると、今まで威風堂々。偉そうにふんぞり返っていたゴブリン皇帝は平課長もびっくりの卑屈さで揉み手をしながら

『ヤダナァ。ダンナ。ジョウダンデスヨ』

 と言った。


 うん。ならばこれも冗談だ。安心して駆除されるが良い。

 


 その後、尻尾でハエを叩くように何度も地面にたたきつけたり、炎のブレスで『汚物は消毒だー』ごっこもやってみたが、ボスだけあってなかなかしぶとく生き延びたので、山の麓に放り投げておいた。

 他のゴブリンもボスの敗北と共に蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。

 まあ、どれだけすごくても人間ほどの組織は作れないのだろう。

 外敵を追い払い、吾輩は再び眠りに付く事にした。

 




『神ヨ。ササゲモノ。モッテキタゾ』


 何か幻聴が聞こえた気もするが、気のせいだろう。

 ゴブリンエンペラーは体中の骨が折れているはずだし、両手足をブレスで焼いていたのでここまで来れるはずがない。

 親衛隊が神輿に担いで連れてくるなどという、可能性など一ミリもないはずだ。

 あれだけ悪臭を嫌ったコボルトたちも、坑道を彫る技術に感心して仲良くなったなどとあるはずもない。

 これは悪夢だ。助けてナイツ。


 某漫画のオチのセリフを思い出しながら、あらたな厄介ごとの襲来がなかった事にならないかと、夢の世界のヒーローに切に願うのだった。


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 ゴブリンスレイヤーでゴブリンの設定は加速度的に詳細になった気もしますが、彼ら軍隊規模になったら農業もなしにどうやって食料確保してるんでしょうね?


 なお、パブロンと花粉症の薬を飲んで寝たら、今日はびっくりするほど兵器に一日を過ごせました。昨日は寝不足が原因だった様です。

 健康的な生活って大事だと思いました。

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