第2夜 にんげん ~冒険者という強盗 と その凶悪な生態~

 竜の朝は遅い。


『大きいトカゲ』とバカにされる通り、この世界の竜は『は虫類』の進化系のようなので体が温まらないと動くのが辛い…というか動くのが億劫である。

 人間だった頃に例えるなら、暖かい布団から行きたくもない会社に行かなければいけないような感じである。


 太陽の光を浴びて活動し、夜になったら寝る。

 曇りの日や雨の日はお休みというカメハメハ大王のような優雅な生活。

 それが竜という生体である。


 ……堕落しきったダメ人間のような生活だが、仮にこんな巨大な生き物が本気で動いていたら人間なんて活動の場がなくなるし、吾輩に限って言えば前世で本気出したのだから、それくらい休む権利があってもいいと思う。


 しかし、そんな生活を乱す者がいる。


「おい。いたぞ。ドラゴンだ」

 皮の鎧に金属の剣を持つ武装した4人の集団。


『冒険者』と名乗る強盗たちである。


 ~第一夜 冒険者という強盗~


 RPGゲームの場合、竜は魔王という人類の敵の部下である事が多い。

 超有名和製RPG第一作ですら、ただのドラゴンは龍王の部下だったし、その役目と言えば捕らえた姫の見張りである。


 竜となった今考えると、あれはおそらく水さえあれば牢屋の前で1年でも寝ていられる竜の特性を利用したものだろうと思われる。

 竜は蛇と同じで寒いと基本的に動きたくないのだ。

 なので、『ちょっと背伸びしたら倒せるかも』とか、『こっそり奇襲をかければいけるのでは?』などという連中たちが襲い掛かってくる事は珍しくない。

 吾輩もゲームで腕試しに戦いを挑んで負けた事が何度もあるし。


「俺は閃光弾を投げるから、おまえは魔法で援護。二人は左右から挟み撃ちにしろ」


 などと小声で吾輩を襲う計画を堂々と話すのが聞こえる。

 どうやら、吾輩は寝ていると思っているようだ。

 だが、身動きしないだけで目はしっかりと覚めている。

 これが人間なら即「もしもし?ポリスメン」しているところだが、そんな存在がいないこの異世界では己の身は己で守る過剰防衛するしかない。

 冒険者と言うのは密漁者のハンティングと同じで金目当ての奴らが多い。

 人間からすれば強大な生物を倒した冒険の成果なのだろうが、竜からしたら勝手に寝床に入って金品や歯、皮までも強奪しようとする残虐な強盗でしかない。

 中には戦いはせず金だけ盗ろうとする盗人もいるが、我輩がなめられているのか、今回は命までねらわれているらしい。やれやれである。

 まあ、元人間で平和的な吾輩は優しいので、かるく尻尾で吹き飛ばしてから2・3の注意だけで済ませてやることにしている。

 最初に選んだ相手が吾輩で良かったな。

 なそと思っていると、斥候役の盗賊のささやきが聞こえる。


「なあ、でもあの竜あんまり金持ってなさそうだぞ」


 おい。


「確かに、あんまり風采があがらない竜みたいだし、金とか先輩の竜からカツアゲされてそうだな」

 聞こえてんぞ。

 狸寝入りをしながら冒険者たちの勝手な会話にムカっとした。

 まあ、所詮人間のいう事だ。

 虫が何か言ってても気にしないように、巨大な竜である吾輩は人間の悪口くらいで怒りは

「仕方ないだろ。このあたりで一番弱そうな竜っていったら、ここだって話なんだから」


 その言葉で頭に血が上った吾輩は、荒れ狂う嵐のように尻尾を振り回し失礼な泥棒たちをギッタギタのボッロボロに『わからせて』やった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おまえたちは『ひとの物を盗ってはいけません』ってお母さんから習いませんでしたか?」

 目の前で正座させられる冒険者たち。

 戦士。盗賊。回復者。魔法使い。というバランスの取れたパーティー。

 年齢は15~24歳といったところだろうか。

「…人じゃなくて竜じゃん」

「はい、そこ!屁理屈をこねない!」

 不満そうにつぶやく盗賊を叱る。

 

「だいたいなぁ。冒険って言葉を免罪符に生き物から金品を巻き上げようという魂胆が気に食わん」

 金というのは他人にサービスを提供したり物を売ることで手に入るものだ。

 他人を倒して金品を奪えるなら上司を何十回もこr…退治して大金持ちになっていたはずである。

 万引き犯を捕まえた。というよりも近所でキャッチボールしていたら車にボールが当たった子供を叱るようにお説教をする。

 すると、これから殺されると勘違いしたのか、盗賊の男が


「ああもう、めんどくせぇなぁ!俺たちは命がけでお前の巣に入った!そして捕まった!命がけの賭に負けたんだから殺される!それでいいじゃんかよ!」

 緊張に耐え切れず、自暴自棄に叫ぶ。

「俺たちって、俺を巻き込んでんじゃねぇよ!」

「そうだ!俺はこの状態からでも生き残れるために土下座と持ち物すべて捧げるかで諦めてないんだぞ!」

 いや、それで助かると思っているような判断力ならここじゃなくてもいつか死ぬから冒険者なんてやめとけよ。

「うるせー!俺はもう理不尽な親方に朝から晩までこきつかわれるのに嫌気がさしたんだよ!!!」

 まな板の上の鯉のように、大の字に寝っ転がる盗賊。

「一度いったら二度と聞くなとか言っているくせに、最新の鍵の開け方は5回も6回も平気で聞いてくる!分からないことがあったら聞けって言ったくせに実際に聞いたら『それくらい自分で考えろ』という!考えても分からなかくて作業をしたら『何で聞かないんだ』と怒る!そんな生活が嫌で一獲千金を目指したらこの結果だよ!!!」

 こんなことならあいつをギタギタにぶちのめしてから、ここに来るんだった。

 盗賊は、そうぼやき

「俺はもうイヤなんだよ!理不尽な上司や客に特に理由もなく大事な時間を無駄に消費するのも、心にもない謝罪やお礼を言って一生過ごすくらないなら、もうここで死んだ方がましなんだよぉおおおおお!!!!」

 いっきにまくし立てる。

 その言葉にうつむく仲間たち。そして吾輩。


 気が付けば、吾輩は彼の肩に指を置いて、こう言った。


「わかるー」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「えと…その、ありがとうございます」

釈然としない顔で盗賊たちは竜の鱗と牙を手に頭を下げる。

「いやいや、糞上司に悩まされた仲間として吾輩は君が金貨の詰まった袋で上司のほほをビンタして『世話になったな』と退職する姿を見たくなっただけだ」

 おれも、千万くらいの札束両手に『この糞会社辞めます!(とびっきりの笑顔)』をしたかった。

「もしも不当な手段で奪おうとしたならば、吾輩に言うが良い。そんな組織の一つや二つ、物理的に潰してくれよう」

 アフターケアも忘れない。

 冒険者たちは何度も頭を下げて、山道を降りて行った。

 












 盗賊ギルドがドラゴンの墜落で崩壊したのはその次の日の事だった。

 悪は滅ぶべき。慈悲はない。


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 実際の所、労働局に訴えても聞いてもらえるかは五分五分と言ったところなのでグーグルマップの口コミの方が効果があるかもしれません。

 異世界よもやま話みたいにしたかったのに、最初から世知辛い話題になりましたがガイアが俺にそう書けと言うので仕方ないと諦めてください。

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