5.巨神の剣

 異世界生活四日目。

 悠斗は昨日の約束通り、剣の作成を見学させてもらう為、エンペリと城を出ようとした。

 すると、城のエントランスで、アメノウズメのメンバーと出会した。

「これから出掛けるの?」

「は、はい……」

 夕梨花の問いに悠斗は思わず声がうわずってしまった。

 夕べの風呂の件がまだ尾を引いているのだ。

「剣の鍛造を見に工房まで」

「そうなんだ」

 だが、夕梨花はそんな悠斗の動揺を気にも留めない様子だった。

「そっちはレッスンですか?」

 その事にホッとしながら、悠斗は聞き返した。

 メンバー全員、動きやすいパンツルックを身につけていたからだ。

「うん」

 夕梨花は、頷いた。

「がんばってください」

「ありがとう」

 悠斗の言葉にお礼で応えて、アメノウズメのメンバーは侍女に連れられ、レッスン用に割り振られた部屋へと向かった。

「では、あたしらも行こうか」

「はい」

 それを見送ってから、悠斗とエンペリも城を出た。

 ムーサに向かう時は馬車を使ったが、工房までは近いので歩いて行く事になった。

 その間、悠斗は中世風の石造りの建物が並ぶ町並みを物珍しそうにキョロキョロと見回していた。

 町中は既に馬車で何度も通ったが、こうしてゆっくり見るのは初めてだったからだ。

「そんなに珍しいか?」

 悠斗の仕草に、エンペリは笑いを堪えながら聞いた。

「人通りも多くて、賑やかですね」

「まぁ、王都だからな」

 そうしてるうちに、ズゼネガの店に着く。

「来たな」

 中に入ると、ズゼネガが人懐っこい笑顔で出迎えてくれた。

「ちょうど始めるところだ」

 案内されて悠斗は店の奥に入った。

 そこは工房になっていて、巨大な金床と巨大なハンマーが置いてあり、金床の上には巨大な鉄の塊が乗っていた。

 その周りを数人の職人が取り囲んでいる。

(あれ?)

 それを見た悠斗は首を傾げた。

 鍛造に必要な炉や水槽、火箸が無く、ハンマーも柄が無かったからだ。

「じゃあ、始めるぞ」

 ズゼネガの掛け声で、職人達が一斉に呪文の詠唱を始めた。

「えっ?」

 驚く悠斗をよそに、鉄の塊の真ん中に空色の魔法陣が展開されると、宙に浮いた。

 そこへ職人の前に展開した赤い魔法陣から炎が放たれる。

 鉄の塊はみるみるうちに赤くなっていく。

 その間にズゼネガも呪文を詠唱する。

 ハンマーの真ん中に空色の魔法陣が展開され、宙に浮く。

 そのタイミングで、今度は金床へと押しつけられて、上からハンマーが叩きつけられる。

 カン! っと、金属同士がぶつかる音がして、熱せられた鉄の塊が変形する。

「魔法を使うのか!」

 悠斗は感嘆の声をあげた。

 小気味よい金属音と共に、二度三度とハンマーが叩きつけられる。

 鉄が冷めてくると、再び浮遊させ、炎魔法で熱を入れる。

 そしてまた、金床へと押しつけ、浮遊魔法で制御されたハンマーで叩く。

「凄い……」

 その一連の作業に、悠斗は息を呑んだ。

「驚いたか?」

 笑いかけたエンペリに、悠斗は興奮気味に言った。

「魔法を使うとは思わなかったです」

「そっちの世界だと違うのかい?」

「そもそも魔法がありませんから」

「魔法が無い……?」

 悠斗の言葉に今度はエンペリが驚きの声を上げた。

「じゃあ、どうやって打つんだい?」

「俺も詳しくは知りませんが……」

 と、前置きしてから、悠斗は説明した。

「炉を使って鉄を熱して、手でハンマーを叩きます」

「手作業かい!」

 エンペリは驚嘆した。

 そうしてるうちに、鉄の塊は長く平べったくなり、金床をはみ出しそうになる。

 それを浮遊魔法で前にずらしながら、またハンマーで叩いてさらに長く薄くしていく。 ただの鉄の塊だった物が段々、剣らしくなっていった。

「よし、こんなもんか」

 ズゼネガは視線で職人に合図した。

 それにしたがって、鉄の塊を浮遊させる。

 同時に別の職人が、呪文を詠唱した。

 水色の魔法陣が展開され、水が勢いよく鉄の塊だった物へ放たれる。

 熱で熱くなっていた鉄の塊だった物がみるみるうちに冷却されていく。

 そして、長さ五メートルほどの剣身が出来上がった。

「どうだった?」

 一仕事終えて額の汗を拭いながら、ズゼネガは聞いた。

「凄かったです」

 悠斗は、興奮冷めやらぬ様子だった。

「勉強になりました」

 そして、頭を下げる。

「そいつはよかった」

 そんな悠斗の反応に、ズゼネガは豪快に笑った。

「柄と鞘は方は今、発注中だから、完成にはもう少し待ってくれ」

「わかりました」

 悠斗は頷いた。

「ありがとうございました」

 最後にもう一度お礼を言って、悠斗とエンペリは工房を後にした。

 帰る途中、悠斗は今見た光景を思い浮かべながら、物思いに耽っていた。

(鉄を柔らかくするぐらいの熱量を魔法で出せるのか……)

 それも魔導師ではない一般人が、だ。

(もし、敵が炎魔法を放ったら、巨神の装甲は持つのか?)

 それが疑問だった。

「帝国は、魔導師を前線に送ったりするんですか?」

 なので悠斗は、エンペリに聞いてみた。

「そっちは専門外だが……」

 エンペリはそう断ってから、答えた。

「戦争が始まってからは無いはずだ」

 悠斗はホッと胸を撫で下ろした。

「元々、帝国は国民の数が少ないのだ」

 少し遠い目をしてエンペリは語った。

「なので兵力も少ない」

 まるで哀れむような言い方に、悠斗も神妙な面持ちになった。

「それを魔物で補っているのだ」

「なるほど……」

 それならば魔法攻撃の心配は少ない、と悠斗は思った。

(でも……)

 だが、それも一瞬だった。

「魔物の中には、魔法を使う物もいるんですか?」

 ファンタジー物ならば、上位の魔物は魔法も使ってくる。

「いると聞いている」

「いるのか……」

 エンペリの言葉に悠斗は、懸念せざるを得なかった。

(実際、魔法を受けた時にどうなるかは、戦ってみないとわからないか……)

 そんな事を考えてるうちに、城へと着いた。

「お帰りなさいませ」

 直ぐにゲルヌが出迎え、悠斗に尋ねた。

「お食事はどうされますか?」

 言われて、悠斗は腕時計を見た。

(もうそんな時間か……)

 針は十二時を少し回っていた。

「食べます」

「わかりました」

 悠斗の答えに、ゲルヌは頷いた。

 エンペリは、自分付きの侍女に、

「あたしは執務室で食べるから持ってきてくれ」

 と、告げていた。

「では、ご案内します」

 エンペリと別れた悠斗は、ゲルヌに付いて食堂へと向かった。

 食堂に入ると、アメノウズメのメンバーが先に席に着いていた。

「お帰りなさい」

「ただいま」

 気軽に声をかける夕梨花に、悠斗は挨拶を返すと、アメノウズメからは少し離れた席に座った。

「もっと、こっちに来てもいいのよ?」

 それを見た夕梨花が誘ってきた。

 夕梨花はいつも離れて座る悠斗を気にしていたのだ。

「じゃあ……」

 断るのも悪いので、悠斗は木乃実の隣に座り直した。

「えへへ」

 それを見た木乃実がなぜか嬉しそうな笑みを浮かべる。

 ちなみにテーブルには、夕梨花、希美、木乃実が並んで座り、向かいに聡子と葵が座っていた。

 ほどなく、今日の昼食であるパンと肉入りスープ、それにミルクが運ばれてくる。

「いただきます」

 手を合わせてから、アメノウズメのメンバーと悠斗は食事を開始した。

「不思議ね……」

 と、夕梨花が誰とはなしに聞いた。

「最初から思ってたんだけど、食事はあたしたちの世界と大差ないのね」

「!?」

 それを聞いた悠斗は、思わずむせそうになった。

(それにしては、最初から躊躇なく食べてましたけど?)

 そう突っ込みたかったが、心の中で留めておく事にした。

「それは……」

 代わりに言いながら、聡子を見る。

 すると、聡子も悠斗を見ていた。

「異世界物のお約束というか……」

「決まり事というか……」

 曖昧に答えた悠斗に対して、聡子はなぜか照れながら答えた。

「服とかが同じなのも?」

「そうだね」

 希美の疑問に頷いたものの悠斗自身も不思議だと思った。

 それを聞いた木乃実が屈託の無い笑顔を浮かべる。

「パンツやブラも、同じだもんね」

「!」

 途端、夕梨花と希美、聡子に葵、そして悠斗が動揺した。

「このみちゃん……」

 聡子が恥ずかしそうに窘める。

「ほぇ?」

 だが、木乃実は、問題発言をしたという自覚は無く、なにもわからない顔で首を傾げる。

「あははははっ……」

 他のメンバーは乾いた笑いを浮かべるしか無かった。

 悠斗も引きつった笑いを浮かべたが、心の中では、

(下着も同じなんだ)

 と、思わず、下着姿のを想像してしまった。

「そういえば、レッスンは順調ですか?」

 だが、直ぐに頭を左右に振って邪念を払うと、強引に話を変えた。

「久々だったから、ちょっと大変だったかも」

 その意図を察して、夕梨花が乗っかる。

「特にダンス・レッスンは、キツいですね」

 聡子が同意する。

 元々聡子は、ダンスが苦手なのだ。

「でも、なんでダンス・レッスン?」

 そこでまたもや木乃実が無邪気に爆弾を放った。

「歌を力にするなら、ダンスはいらないよね?」

「そ、それは!」

 希美が立ち上がらんばかりに反論しようとする。

 しかし、それ以上言葉が続かない。

 ダンスが認められてアメノウズメのメンバーになった希美としては、それが歯がゆかった。

「このみ」

 すると、代わりに夕梨花が優しく言った。

「あたしたちはいつ、元の世界に帰れるかもしれないのよ」

 それはリーダーらしい貫禄に満ちていた。

「その時、ダンスのレベルが落ちてたらファンのみんなはがっかりするでしょ?」

「そっか……うん、わかった!」

 納得した木乃実は、元気よく頷いた。

(元の世界に帰ったら、か……)

 そのやりとりを見ながら、悠斗はフッと思った。

(異世界召喚物だと、戻れる場合もあるけど、大抵は戻れないんだよなぁ)

 アネマスからは帰れると言われたが、具体的な方法は言及されていない。

 そこで、悠斗は不安そうな顔で自分を見ている聡子と目が合った。

「~!?」

 聡子は驚くと、慌てて視線をそらす。

 その仕草を不審がる悠斗だったが、直ぐに理由を思いつく。

(もしかして、さとみんも同じ事考えてたのか?)

 恐らくそれで当たりなのだろう。

(元の世界への帰還か……)

 悠斗は思案した。

(一度聞いてみたいけど、聞くのが怖いな……)


 それから数日は、悠斗は巨神とムーサの調査に、アメノウズメのメンバーはレッスンに明け暮れた。

 巨神とムーサのエナジーが足りなくなると、アメノウズメに来てもらい、そこでエナジー補給兼レッスンを行ってもらった。

 そうしてるうちに、巨神の剣が出来上がったと、連絡があった。

 搬入当日。

 ズゼネガは幌の無い馬車二台で剣と鞘を運んで、ムーサへと赴いた。

 ムーサには、悠斗の他、巨神とムーサの稼働の為、アメノウズメのメンバーも揃っていた。

 悠斗はまず、中央官制室で一階の客席を地下に収納した。

 この機能は、調査でわかった事だった。

 席の床におかしな隙間スリットがある事で、悠斗が気付いたのだ。

 それから、搬入口の扉を開ける。

 これも、調査で発見したものだった。

 ズゼネガはそこから馬車ごとムーサの中に入った。

 その間にステージへ降りた悠斗は、はしごを登って巨神のコクピットに着くと、ハッチを閉じる。

 アメノウズメの歌声が流れる中、宮廷技師がはしごを外すのを待ってから、悠斗は巨神を立たせると、ステージから降りた。

「レイ、剣を武器として認識できるか?」

 巨神のコクピットで、悠斗は馬車に乗る剣を見ながら聞いた。

『可能です』

 悠斗の視線から、剣の存在を六角形のマーカーで捉えたレイが答える。

「なら、認識してくれ」

「了解」

 直ぐにフロートウインドウが開き、剣の立体図が表示される。

 その上を重なるように文字列が流れていく。

『完了』

 文字列が流れ終わり、レイは告げた。

『剣として、認識しました』

 その答えに悠斗はホッとした。

 巨神が、登録された武装以外は使用できないのではないかと懸念していたからだ。

 だが、問題は次だった。

「これを鞘として認識できるか?」

 鞘に視線を移した悠斗は、レイに再び聞く。

『認識不可』

 レイの答えは無情なものだった。

(やっぱり駄目か……)

 一瞬、悠斗は諦め掛けた。

 しかし、レイの報告には続きがあった。

『使用用途の像を描いてください』

「像を描く……?」

 その言葉に悠斗は首を傾げた。

「イメージしろってことか?」

 だが、直ぐに答えに気付く。

 なので、悠斗は頭の中で剣が鞘に収まるところと、ベルトで腰に巻くところをイメージした。

 すると、フロートウインドウが開いて、鞘の立体図が表示された。

『認識中』

 またもや文字列が流れる。

『完了』

 さっきよりも長めに流れてから、レイが報告した。

『鞘として、認識しました』

「よっしゃ!」

 悠斗は心のかなでガッツポーズをした。

「じゃあ、鞘をセットしてくれ」

『了解』

 ズゼネガや職人達、宮廷技師とアメノウズメのメンバーは見守る中、巨神は鞘に手を伸ばした。

 まるで人間のように、ベルトを手に取ると腰に巻き付ける。

 それは悠斗が思い描いたイメージ通りだった。

「次は剣を取ってくれ」

『了解』

 悠斗の指示通り、巨神は馬車の上の剣を取る。

「剣を構えて」

『了解』

 巨神が両手で柄を両手で握ると、剣を構えた。

(素振りをしてみるか)

 悠斗の思考を読み取り、巨神は素振りを始める。

 上段、中段、下段と型を取って、剣を振っていく。

 ちゃんと剣として認識している事を確認した悠斗は、最後に剣を鞘にしまった。

「おーっ!」

 歓声と共に拍手が起こった。

 それを照れくさく思いながら、悠斗は巨神をステージに上げると、いつもの場所で片膝立ちさせた。

 直ぐに宮廷技師がはしごを掛けてくれた。

 上部ハッチを開いてコクピットを降りた悠斗は、はしごを降りるとステージに立った。

「すげぇな」

 と、ズゼネガが人懐っこい笑顔で声をかけてきた。

「剣圧だけで、馬車が吹き飛びそうになったぜ」

 そして、豪快に笑う。

「これなら、帝国の魔物もイチコロだな」

「そうですね」

 肩を叩くズゼネガに、悠斗は作り笑いをした。

(だと、いいんだけど)

 だが、心の中ではそう簡単にいくのかな? と思っていた。

 ズゼネガの腕を信用してない訳ではない。

 ただ、相手は未知の魔物だ。

 その事を警戒しているのだ。

「じゃあ、引き上げるとするか」

 ズゼネガの声で、職人達が帰り支度を始める。

 馬車に剣を固定していたロープを乗せて、搬入口から引き上げていった。

 それを見送ってから、悠斗は再び中央官制室に行くと、一階席を戻して、搬入口を閉めた。

「こっちは終わりにしますけど?」

「じゃあ、あたし達も上がろうか」

 悠斗の声掛けに、夕梨花は他のメンバーを見た。

 みんな、頷いていた。

 軽く後片付けをして、アメノウズメのメンバーと悠斗は馬車で城へと帰った。

「ん?」

 馬車を降りた悠斗は城の中が騒がしい事に気付いた。

「朝霧様!」

 エントランスに入ると、慌てた様子のゲルヌが声を掛けてくる。

「直ぐに会議室に行ってください!」

 それを聞いたアメノウズメの侍女達も集まってくる。

「国王陛下がお待ちです!」

 切羽詰まったもの言い方にただ事で無い事を悟ったアメノウズメのメンバーと悠斗は、急いで会議室へと向かった。

 会議室に入ると、アネマスの他、ガイムとエンペリ、それにグイルソンが集まっていた。

「戻られたか」

「なにがあったんですか?」

 席に着きながら、悠斗は聞いた。

「帝国が、魔物をギズミ近郊の丘に集めている」

 言いながら、アネマスはテーブルの上に置かれた魔水晶を視線で指した。

 アメノウズメと悠斗が覗き込むと、確かに水晶の中に、魔物の群れが見えた。

「わぁー、なにこれ!?」

「どうやってるの!?」

 それを見た希美と木乃実のJCコンビが驚きの声を上げる。

「多分、魔法だと思います」

 聡子の予想通り、これは現地にいる魔導師が見たものを念波で送り、映し出しているものだった。

(この前とは魔物の種類が違う)

 魔水晶に映っていたのは、緑の肌に豚の顔をし、手に槍を持った全長二メートルぐらいの魔物だった。

(オーク……か?)

「敵はグワッシャ多数とミナギャインが三体見られます」

 だが、グイルソンは別の名前を口にする。

 視線が移り、今度は全長十メートルぐらいの一目の巨人が映し出される。

 全部で三体いて、手には剣を持っていた。

(サイクロプス?)

 悠斗は思ったが、こっちの世界ではミナギャインと言うらしい。

「恐らく数時間のうちに部隊編成を整えてギズミに再侵攻してくるだろう」

 悠斗が魔水晶から顔を上げると、グイルソンがこちらを見ていた。

「なので、その前にこちらから仕掛けようと思う」

 その目は真剣だった。

「朝霧様と歌姫様には協力して頂きたい」

 グイルソンの言葉に、悠斗は夕梨花に目配せした。

 それに気付いた夕梨花も、頷く。

「わかりました」

 悠斗は席を立った。

「直ぐに巨神を出撃させます」

 アメノウズメのメンバーも立ち上がる。

「頼む」

 アネマスの言葉を背中に受けて、アメノウズメのメンバーと悠斗は会議室を後にした。

 再び、馬車に乗り込みムーサへと向かう。

 ムーサに着くと、急いで中に入る。

 ステージに上がった悠斗ははしごを駆け上がって、コクピットに着いた。

 アメノウズメのメンバーも、ステージへと上がる。

 ムーサを調査していた宮廷技師は、邪魔にならないようにステージを降りて観客席へと座った。

 と、そこへ、遅れてアリサと侍女が入ってきた。

 宮廷技師達は思わず、頭を垂れる。

 それに手を上げて応えながら、アリサは最前列に座った。

(本当に、来たんだぁ)

 悠斗は心の中で冷や汗笑いをした。

 ワクワクとステージを見上げるアリサに苦笑いしながらも、夕梨花は言った。

「今日はもいるから、ダンスもやっちゃう?」

 聡子に葵、希美と木乃実が頷く。

「歌いたい人?」

「はい、はーい!」

 夕梨花の問いに木乃実が元気よく答えた。

「じゃあ、<宿命>ね」

「うん!」

 木乃実をセンターに残し、他のメンバーがステージに散らばる。

「♪~今はまだなにも見えないけど」

 美しいハーモニーがムーサ全体に響く。

「♪~叶うと信じて前を向いて走ろう」

 それにダンスが加わって、手足を動かしながらステージを舞う。

「♪~いつも感じていたなにがが違うって」

 その光景をアリサは、目を輝かせながら見ていた。

「♪~退屈な日常を壊せるものがあるはずだと」

 コクピットの悠斗は、フロートウインドウを開いて、エナジーゲージを見ながら、首でリズムを取っていた。

「エナジーゲージの上がりがいつもより高い」

「♪~手にした力が描く未来は希望? それとも絶望?」

「ダンスも入れてるからか……?」

 そこまで考えて、悠斗はハッとなった。

「今は、そんな事を考えてる場合じゃ無い」

「♪~もしも君と一緒に歩んでいけるなら」

「レイ、出撃準備」

『了解』

 アメノウズメが歌声を奏でる中、ムーサの天井が左右に開く。

「♪~僕は信じている」

『ゲート解放完了』

「よし、発進!」

 悠斗の声に、巨神の背中のスラスターが立ち上がり、光の粒を放つ。

 まるで翼が生えたような巨神の姿に、アリサは目を奪われた。

 そのまま巨神はムーサを出ると、ギズミへ向かって飛んでいった。

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