第3話

 放課後になり、美帆と約束した通り駅前の喫茶店に向かう──喫茶店に着くと、店員さんに窓際の席に案内され、お互い向かうように座った。


「お決まりの様でしたら、そちらのボタンを押してください」と店員さんが言うと、美帆は直ぐに「あ、決まってるから良いですか?」


「はい、ではご注文をどうぞ」


 店員さんがそう言うと、美帆は自分と俺を指さして「うちらカップルなんで、カップル限定パフェをください」


「かしこまりました。ご注文は以上でしょうか?」

「はい」

「では、ごゆっくりどうぞ」


 俺は店員さんを見送ると、美帆に向かって「お前、昔からよく恥ずかしげもなく、そんな事いえるよな」


「え、あなたと私の関係なのに、恥ずかしがる必要なんてないんじゃない?」

「──あぁ、そう」

「あれ? もしかしてムッとした?」

「べっつに」


 美帆は「ふふ」と微笑むと、上着から携帯を取り出し、操作を始める──俺は黙ってそれを見つめていた。


「あのさ……」

「んー?」

「さっきみたいにカップルって言ったり、俺を喫茶店に誘ったりさぁ……そういうの、やめた方が良いと思うよ」


 俺がそう言うと美帆は直ぐに携帯から目を離し、キョトンとした表情で俺を見つめる。


「え? なんで?」

「なんでってお前……勘違いされて、お前に何のメリットも無いじゃん」


 俺がそう言った時、店員さんがやってきて「お待たせしました。カップル限定パフェでございます」と、パフェをテーブルに置く。


 俺達が軽く頭を下げると、店員さんは「ごゆっくりどうぞ」と言って戻っていった。美帆はスプーンを二つ取り出すと、一つを俺に差し出し「とりあえず食べようか?」


「あ、あぁ……ありがとう」


 パフェは二人分だけあって、大きなガラスの容器に、大量の生クリームにアイス、そして、はみ出しそうなぐらいチョコやクッキーが、乗っている。俺は崩さない様にゆっくり、手前から食べ始めた。


「──美味しいね」

「あ、あぁ。これであの値段は安いな」

「ねぇ」


 和やかに食べているが、これで良いのか?


「──さっきの話だけどさ」

「おぅ」

「別に勘違いされたって良いんじゃない? 私は気にしないよ」

「気にしないって……好きな奴、居るんだろ?」


 俺がそう言うと──美帆は黙り込む。


「なぁ、今日は何で俺なんか誘ったの? 面白い会話も出来ないしさ、飽きてつまらないだろ?」


 美帆は食べるのをやめ、スプーンを皿に置くと、強張った表情で俺を見つめる。


「な、なんだよ」

「何で俺なんかって言っちゃうの? つまらないなんて、そんな事ないよ! 会話が無くたって良い……落ち着く人とこうして、和やかの時間を過ごす。それだけで価値があるんだよ?」


 美帆の言葉にビックリして、俺が固まっていると、美帆は穏やかな表情をみせ、ニコッと微笑む。


「ほら、ボォーっとしてるとアイスが溶けちゃうよ? 食べよ、食べよ」

「あ、あぁ……そうだな」


 俺はまた美帆と一緒にパフェを食べ始める──。


 美帆が言った落ち着く人っていうのは、親友よりちょっと上ぐらいの感情だという事は分かってる。でも……それでも俺は嬉しかった。

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