第2話

 こうして次の日から美帆の監視を始める。授業中だというのに俺は、斜め前に座る美帆を見つめた。


 切れ長の目にアイドルのように整った顔立ち……それに加えスタイルも良いから美帆は男子に人気があるし、分け隔てない性格をしているから、友達もいっぱいいる。


 非常に予想がしにくいタイプだ。その中でも仲が良さそうな伊藤君を昨日は選んだのに、ダメだった。あいつ、本当に好きな人なんて居るのか? ──授業中、ずっと考えてみたが結局、誰だか分からなかった。


 休み時間に入り、美帆の後をつけてみる。すると一人の女の子が、ゆっくり美帆に近づき──後ろから美帆の胸を鷲掴みした!!!


「きゃ! ちょ……だ、誰!?」


 慌てる美帆。キャッキャと楽しそうにしている女子生徒。何とも羨ましい光景だ。


「あんたかぁ! 今度、同じことしてやるからね!」

「今度じゃなくても、今でも大丈夫よ」

「言ったなぁ」


 そんな会話をしながら美帆も楽しそうにしている。もしかして美帆の好きな人って──いやいやいや、あいつの部屋にはボーイズラブの漫画が置かれている。きっと好きな人の相手は男だ。


 となると──俺が黙って考え事をしていると、不意に美帆と視線が合ってしまう。美帆は腕をクロスにして胸を隠すと、そそくさと行ってしまった。


 まぁ……幼馴染だからといっても、俺は男だからなぁ。あんな所を見られて恥ずかしかったのだろう。


 ※※※


 それから数日が経ち、水曜日になる。俺はまだ美帆の好きな人が分からず、自分の席に座りながら美帆の行動を黙って見つめていた。


 監視すればする程、分からねぇな……気晴らしに、ちょっくらジュースでも買いに行くか。


 俺は立ち上がり──廊下に出る。歩いていると「俊司」と女子に声を掛けられた。立ち止まり後ろを振り向くと、美帆が追いかけて来ていた。


「なんだよ」

「どこ行くの?」

「ジュースを買いに行くんだよ」

「じゃあ私も」

「じゃあって何だよ?」

「気にしない、気にしない」


 俺達は肩を並べて歩き始め、一階にある自販機に向かう。


「──ねぇ、俊司。今日、駅前にある喫茶店に行こうよ」

「あ? 今日、部活があるって知ってるだろ?」

「知ってるよ……でも、サボって行こうよ」

「なんで?」

「なんでって……実は今日、カップル限定でパフェが半額になるんだよね」

「なんだ、そんな事か」


 俺がそう答えると、美帆はガシッと俺の腕を掴む。


「そんな事じゃないよ! 半額だよ!? お得じゃん!」

「お得だけど……今日は練習試合があるんだよなぁ……」


 俺がそう返事をすると、美帆はプクッと頬を膨らませる。おぉ……おぉ……怒ってる、怒ってる。


 美帆は俺の腕から手を離すと、黙って立ち止まる。顔を戻すと「じゃあ別の人を誘うから良いよ!」


「別の人? 誰?」

「──浩介君」

「浩介? 何で?」


 俺が質問すると美帆は黙り込む──少しして口を開くと「知らない!!」と怒って、スタスタと、俺と反対の方に向かって行ってしまった。


 取り残された俺は、とりあえずポリポリと頬を掻く──確か浩介も部活があるって言ってたよな? ──しゃーねぇ、付き合ってやるか。


 俺は美帆に駆け寄りながら「おい、美帆。待てよ」と声を掛ける。美帆は立ち止まると「何よ!」と俺を睨みつけた。


「怒らない、怒らない。喫茶店、付き合ってやるからよ」


 俺がそう言った瞬間、美帆の顔がパァァ……っと明るくなる。


「え、本当!? 良いの!?」

「あぁ、良いよ。今日ぐらい」

「やったぁ! じゃあ付き合ってくれる代わりに、ジュース奢ってあげるよ」

「マジ? じゃあ、新発売のやつ飲んじゃうかな」

「いいよぉ」


 こうして俺は、機嫌の直った美帆と自動販売機に向かった。

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