誰が好きか言い当てるのが得意な俺だが、幼馴染の好きな人を言い当てられない。悔しいから、お前が決めた期日までに絶対、言い当ててやるからな!

若葉結実(わかば ゆいみ)

第1話

 教室にチャイムが鳴り響き、休み時間に入る──俺は通学鞄から弁当を取り出すと、机に置く。するとクラスメイトの男子が三人、集まってきた。


「なぁ、俊司。噂で聞いたんだけどお前、好きな人を言い当てられるんだって!? ちょっと気になる人がいるんだけど、教えてくれないか?」


 茶髪のクラスメイトの一人がそう言って、両手を合わせる。


「あぁ、いいよ。知ってる人ならね」

「おぉ、サンキュー! えっと……2年A組の鈴木って女の子なんだけどさ」

「あぁ、知ってる。あの子は多分、好きな人いないよ」


 クラスメイトはそれを聞くと天を仰いで「いないのかぁ! てっきり俺の事が好きだと思っていたんだけどなぁ」


「そういう事か、だったら多分……三割ぐらいは気があるんじゃないかな?」


 茶髪のクラスメイトが「マジで!?」と答えると、近くにいたクラスメイトが「ギャハハ」と笑う。


「三割って少なくねぇ?」

「は!? 三割あれば十分だろ!?」

「おぉ! かっこいぃ~」


 勝手にクラスメイトが盛り上がる中、俺は黙って弁当の中身を食べ始めた。


 俺は別に特殊能力を持っていて、言い当てられる訳ではない。ただ中学の時からラブコメの漫画を読んだりするのにハマり、周りを観察していたら、自然とそれらしい予想が出来るようになっただけだ。だから、三割とは言ったものの本当にそうかは分からない。


 でも今まで何人か聞かれてきて、文句を言われた事はないし、ちょくちょく人が来るから、きっとほとんど当たっているのだと思う。


 正直、よく知らない奴に話しかけられるのはドキドキするけど、本当のラブコメを生で体験している様で、いまの状況を楽しんでいた。


「俊司、ありがとな」

「どう致しまして」


 俺がペコリと頭を下げると、クラスメイト達は去っていく。続いて俺のところに来たのは──幼馴染の美帆だった。


「俊司。今日って部活、休みの日だよね?」

「あ? 何で知ってるの?」

「俊司の先輩達が、廊下で話しているのが、聞こえてきた」

「あぁ、そうだったのか。うん、休みだよ」

「じゃあさ、一緒に帰ろうよ」

「別に構わないけど」

「やったぁ。じゃあ校門で待ち合わせね」


 美帆はそう言うと、嬉しそうに笑顔を浮かべ去っていく。何がそんなに嬉しいんだか……そんなんだから、周りに勘違いされちまうんだよ。


「俊司」


 後ろから声を掛けられ、俺は後ろを振り向く。声を掛けてきたのは友達の浩介こうすけだった。


「おう、浩介。一緒に飯食おうぜ」

「あぁ、そのつもり」


 浩介はそう答え、俺の正面に来ると椅子に座る。お弁当袋を広げながら「なぁ俊司」と話しかけてきた。


「なに?」

「お前と美帆って、本当に付き合ってないのか?」


 ほら、勘違いされた。


「あぁ。付き合ってないよ」

「凄く仲が良いのに何で?」

「何でねぇ……」


 俺は箸を止めると、ちょっと考えてみる。


「──あいつとは小学校の頃からの付き合いだけど、そういう関係に発展していないのが答えなんじゃないかな?」

「ふーん……」


 そこで会話が途切れ、少ししてから俺達は別の会話をして、昼休みを過ごした──放課後になり、俺は直ぐに校門へと向かう。


 校門に着くと、美帆は携帯を見るのに夢中になっていて、俺に気付いている様子はなかった。


「おーい、美帆。帰るぞ」と、俺が声を掛けると、美帆はようやく俺に気付き、慌てた様子で紺色のブレザーのポケットに携帯をしまう。


 ポニーテールの黒髪を揺らしながら俺に駆け寄ると「あ、うん」と返事をした。俺達は校門を出て、通学路の並木道を歩き始める──。


「携帯で何をしてたんだ?」

「ん、ちょっと調べもの」

「あ、そう」


 ──そこで会話が途切れる。美帆とは何年もこうやって登下校してきたし、クラスも一緒だから、お互いの事を知り過ぎてネタが思いつかない。それは美帆も知っているはずなのに、なんで俺なんかを誘ったんだ?


「──ねぇ、俊司。聞いたよ」

「聞いたって何を?」

「俊司は誰が誰を好きかって言い当てられるんだって」

「あぁ、それか。うん、知ってる人なら大体、予想がつくよ」

「へぇ……」


 美帆はそう返事をして、後ろで手を組みながら歩き始める。


「──じゃあさ……私の好きな人を当ててみてよ」

「は? お前、好きな人が居たの?」


 俺がそう答えると美帆はフグのようにホッペを膨らませ、怒ったような表情を浮かべる。少ししてホッペから空気を抜くと「居るよ! 居ちゃ悪い!?」


「いや……悪いなんて言ってないし……お前なぁ、そういう怒りっぽい所、良くないぞ」


 美帆はプイっと俺から顔を背けると「はいはい、ごめんなさいね」と拗ねた態度をみせる。


 まったく……こういう所はまだ子供って感じだな。


「んで、好きな人を言い当てるって話だっけ?」

「え? いま居たの? って、言ってたじゃん」

「うん、言った。言ったけど、今までの事を振り返ってみて当ててやるよ。そうだな──」


 俺がそう言うと、美帆は興味津々のようで俺の顔を見つめる。


「分かった!」

「え、誰!? 誰!?」


 俺が「同じクラスの伊藤君だ!」と言うと、美帆はニコッと微笑む。


「ぶっぶ~外れ。伊藤君とは仲が良いけど、単なる友達です!」

「なにぃ~」

「俊司の言い当てるの、結構人気だったから楽しみにしてたんだけどなぁ……期待外れだったなぁ……」

「ぐぬぬ……上等だ! 今度は言い当ててやるよ!」


 美帆はポンっと両手を合わせると「本当!? じゃあ……今度の月曜日までに言い当ててみてよ」


「分かった。期日までに絶対、言い当ててやるからな!」

「ふふふ、楽しみにしてます」

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