第13話 チート式猛勉強
師匠も一緒である。なんでも今日泊まるところはまだ決めていなかったようで、時間を無駄にしたくないから自分も〈番犬亭〉に部屋を取るとのこと。
宿に入る前に、師匠は思い出したように、俺に向かって二つの呪文を唱えた。
ひとつは〈
修行でボロボロになっていた俺の服が新品同然に修繕され、また汗や血や泥で汚れていた体もきれいになった。
魔法ってすごい、と俺が小学生並みの感想を漏らすと、
「この程度は時間をかければ誰でもできるようになる」
とのことだ。
つまり俺にもできるようになるということで、実に楽しみな話である。
どれくらいの時間がかかるかは、まだわからないが・・・・・・
〈番犬亭〉の食堂で、俺たちは向かい合わせに座り食事をした。
俺は追加料金を払って食事の量を二倍にしてもらった。とんでもなくエネルギーを消耗していたので、死ぬほど腹が減っていたのだ。
ちなみに師匠も小さい体で同じくらい食べた。俺に付き合って六時間動き続けたのだから、やっぱり空腹だったのだろうか。
その後の時間は魔法の修行に充てることになった。
修行とは言っても、いきなり魔法を使う練習を始めるわけではない。
「最初に必要なのは知識」
と言って、師匠は腰につけている革のポーチを探り、中から立派な革表紙の本を二冊取り出した。
どう考えてもポーチより本のほうが大きい気がするが、ひょっとして見た目以上のものが入る魔法の鞄というやつだろうか。そういえば、ゴルドーの店で同じようなものを見た気がする。たしかえらく高かったはずだ。
「マグナス・アルギレウスの〈第一魔法原理〉とルシウス・キケロの〈初級呪文の実践〉。どっちも名著」
「うーむ、結構分厚いな」
この二冊は、魔法を学ぶ上でまず最初に読むべき教科書らしい。
俺は本を受け取り、パラパラとめくった。羊皮紙に異世界の文字が書き綴られている。
この世界に召喚された時に、何故だが文字は読めるようになっている。なので読むこと自体は出来るが、問題は内容を理解できるかどうかだ。
学生の時、国語の成績は悪くなかった。読解力はある方だと思う。
相手が魔法の理論となると、国語の授業とはまた話は別だろうが・・・・・・そこもまた、〈ドミネイター〉でなんとかできないか試してみるとしよう。
食堂で師匠と別れた俺は、宿の主人から読書灯を借り、自分の部屋に帰った。
〈番犬亭〉の個室は質素な内装で広くはないが、必要なものは揃っている。ベッドがひとつ、テーブルがひとつ、それに中庭に面した窓。俺はテーブルに読書灯と二冊の本を置いた。
読書灯は見た目はオイルランプに似ているが、どうやら魔導具らしく、内側で光を放っているのは炎ではなく小さな鉱物だ。結構明るく、夜の読書には不自由しなさそうだ。
さて、それじゃいよいよ魔法を学ばせてもらうとしよう。
まずは、読書を始める前に〈ドミネイター〉を起動。
画面の魔法陣を見つめ、
『この本の内容を完璧に記憶し、理解しろ!』
と自分自身に命令を下す。
そして俺は、〈第一魔法原理〉を読み始めた。
そもそも魔法とは何か? それがこの本のメインテーマである。
その内容はというと──
この世界には、魔素と呼ばれる目に見えないエネルギーが満ちている。
魔素を制御するために原初の魔法使いによって編み出されたのが、“力ある言葉”、即ち魔法の呪文だ。
呪文を唱え、魔素を制御し、様々な事象を引き起こす。
それが魔法という技術である。
大ざっぱにまとめれば、こんな感じになる。
魔素という万能のエネルギーを、呪文というプログラムで制御する。
現代風に言い換えるなら、このようになるだろうか。
ちなみに、一部のモンスターは生まれつき本能によって魔素の制御法を知っており、呪文を用いなくても、魔法と同等かそれ以上の超常現象を引き起こすことができる。ドラゴンの
また人間の中にも、稀に生まれつき魔素を操れる異能者が生まれるらしい。そのような力は一般的にスキルと呼ばれており、保有者は少ないが概して強力であるという。
ふむ、だいたい理解できたが、肝心の魔法を使う方法が書いてないな。
まだ眠気は感じないし、次も読んでしまおう。
〈初級呪文の実践〉。本命はこっちだ。
内容は題名の通り、初歩的な呪文の使い方についてである。
本の著者は第一に、基礎の基礎たる〈魔法の手〉を練習することをおすすめしている。手を触れずにものを動かす呪文で、要するに
この呪文で魔素を制御する感覚を掴んだら、次は魔素を凝縮して盾を形成する〈
呪文の練習には失敗がつきもの。
暴発した自分の呪文で怪我をしないよう、いつでも〈障壁〉を使えるようにしなくてはならない。
年若い魔法の初心者はすぐに〈
最近の若いもんはせっかちでいかん。魔道は一日してならず。師の言うことをよく聞き、正しい知識と正確な技術を身につけるのだ──
・・・・・・なんかおじいちゃん先生のグチになってるな。次行こう。
そして──
「・・・・・・あっ、やっべ、もうこんな時間か」
気がつくと二冊とも読み終えていた。ついつい熱中してしまったが、窓の外を見るともう真っ暗だ。
何時間読んでいたんだろうか? 体感的にはそう長くないが・・・・・・
とにかく、睡眠不足だと明日の修行がきつくなる。
今日はもう、さっさとベッドに入るとしよう。
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