第4話 例の超絶ご都合アイテム
その後の展開はあっという間だった。
結論から言うと、俺は王宮から追い出されることとなった。
勇者の証たる固有能力を持っていないからというのもあるが、何よりの原因は、一輝がそうするように強く要求したためだ。
どうやら彼は本気で勇者をやりたいらしかった。なので子供は戦場に行くべきじゃないと主張する俺の存在は、目障りでしかなかったようだ。
「申し訳ありませんが、勇者様のご要望は最優先ですので・・・・・・」
俺にその決定を告げた時、聖女はいかにも心が痛いという表情を作っていたが、なんとなく演技臭いという感覚が拭えなかった。
実のところ、一輝の気持ちもわからなくもない。
退屈な日常を抜け出して、剣と魔法の世界を冒険する。
年若い少年にとって、それは夢のような体験だろう。
俺だって昔はそういうのに憧れていた。というか、今でもちょっと憧れている。
でも往々にして、夢と現実は違うものだ。
その違いが、最悪の悲劇となって彼に襲いかからなければいいのだが。
そしてもう一人の日本人、村瀬真優。彼女のことも心配だ。
ろくに会話もできなかったが、見るからに戦いなんかとは無縁で、勇者なんてやれそうなタイプではなかった。
なんとか助けてやりたいが・・・・・・しかし、他人の心配ばっかりしている場合ではない。
俺だって突然異世界に召喚されて、しかもたった一人でその辺にほっぽり出されるという、十分に危機的状況なのだ。
何をするにしても、まずは自分の面倒を見なければならない。
自分すら救えない人間に、他人を救うなんて到底無理なのだから。
王宮を出る際、当面の生活費として硬貨の入った革袋を渡された。
いわゆる手切れ金というやつであろう。中身は金貨が二十枚。
この世界の貨幣価値はわからないが、もし中世と同程度なら、贅沢しなければ数ヶ月は生活できる金額のはずだ。
この辺はあとで調べないといけない。
決して少なくはないのだろうが、たった一人で見知らぬ世界に投げ出された我が身の境遇を思うと、いささか頼りないと言わざるをえない。
王宮を出ると、そこには西洋の古都を思わせる美しい街並みが広がっていた。
煉瓦作りの堅牢で豪華な建築物が立ち並び、通りは石畳で舗装されて広々としている。
ただ人通りは少ない。豪華な衣服を身にまとった貴族らしき人々や、巡回する衛兵がまばらに見られるくらいだ。
王宮の近辺ということもあり、この辺りはおそらく上流階級の住宅街ではないだろうかと思われる。
しかし、なんかチラチラ見られているような・・・・・・あ、そうか。
ハッキリした記憶はないが、俺は朝、家を出て会社に向かう途中に召喚されたらしい。
格好はその時のままなので、今の俺はスーツに革靴、手にはビジネスバッグという標準的サラリーマンスタイルだ。
日本では珍しくもないが、この異世界の風景にはまったく溶け込んでいない。
よし、とりあえずスーツを売り払って、この世界に溶け込む一般的な服を手に入れよう。
それ以外の持ち物も、なくして困るもの以外は全て売ってしまっていいかもしれない。
この世界の人々にとっては、正真正銘の異世界の品々だ。もしかしたらとんでもない高値がつくかもしれない。
なんだか希望が湧いてきたぞ。ぬか喜びにならなければいいのだが。
さて、売らずに取っておいたほうがいいものはどれだろうか。とりあえず家の鍵やカード類は、もとの世界に帰ったときなくなっていたら困る。
あとは、スマホか。
ふと思い立って、俺はスマホを手に取った。
バッテリーはほぼ満タン。電波は圏外。まあ、異世界なら当然だな。
何かの間違いで検索サイトが使えたら、『異世界 帰る方法』とか『魔王 倒し方』で検索するつもりだったんだが。
そんなアホなことを考えていると、ホーム画面に見覚えのないアイコンがあることに気づいた。
赤い色の魔法陣っぽいマークの下に、『DOMINATOR』と表示されている。
「なんだこれ・・・・・・ドミネイター?」
確か、支配するものというような意味の英単語だ。こんなアプリ入れていたっけ?
半ば無意識でアイコンをタップすると、アプリの機能説明が表示された。
ごく短く、至ってシンプルだったが、その内容は信じがたいものだった。
『画面に表示される記号を見せながら命令を下すと、相手はそれに従う。効果は六時間継続する』
これって・・・・・・まさかアレか。
大人のマンガに時々出てくる、例の超絶ご都合アイテムなのか。
なんだってそんなもんが俺のスマホに入っているのだ?
「まさか本物なわけ・・・・・・いや、どうなんだ」
ここが日本で、今日がいつもと変わらぬ一日だったら、俺はまず間違いなく偽物だと決めつけてさっさとアンインストールしただろう。
しかし今は、異世界召喚という空前絶後の超常現象に見舞われている真っ最中。
俺がこの二六年で培ってきた常識なんて、何のあてにもならないと嫌になるほど思い知ったところだ。
異世界の勇者は皆、この世界に来た時に何らかの能力を授かると言っていた。
このアプリが俺にとってのそれなのではないか?
何の根拠もない仮説だが、試してみる価値はあるかもしれない。
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