第2話 絶望しかない
聖女レノアの先導で広間を出た俺たちは、長い廊下を通り、いくつかの角を曲がって応接間のような一室に案内された。
周囲を護衛の兵士たちに固められていたので、案内されたというよりは連行されている気分だったが。
内側から観察した限りの推測だが、どうやら俺たちがいるこの建物は王宮か何かのようだ。細部に至るまで贅を尽くした調度が施されている。
応接間は広く豪勢な内装で、高い天井から吊されたシャンデリアが室内を明るく照らし出している。
部屋の中央には円卓があり、俺たちは促されるままに、聖女と向かい合うような形で席に着いた。
「まずは皆様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
そういえば、まだ自己紹介していなかったな。
「俺は黒野勇。歳は二六、ただの会社員だ。一応言っておくけど、戦闘能力はほぼゼロだぞ」
まずは俺が名を名乗り、
「俺は
「わ、わたしは
少年と少女が後に続いた。
大和一輝は、取り立てて特徴のない黒髪の少年だった。
ブサイクではないが、イケメンというほどでもない。身長や体格も平均の範疇だろう。
今は少し落ち着きを取り戻し、若者らしい生意気そうな表情を浮かべている。
村瀬真優は常にうつむき気味なおどおどした少女だ。
これが彼女の性格なのか、この異常な状況に戸惑っているせいなのかはわからない。
黒い髪を肩口で切りそろえていて、なんとなく品の良い印象を受ける。もしかしたら、良いとこの出なのかもしれない。
俺自身がそうであるように、この二人も勇者なんて呼ばれるような存在には見えない。聞いてみれば、やはり二人とも日本に住む普通の学生だそうだ。
「イサミ様、カズキ様、マユ様ですね。それでは皆様に、この世界を襲う危難と、勇者の使命についてご説明させていただきます。どうかお聞き下さい」
そんな俺たちに、聖女が語った内容を要約すると──
勇者とは、魔王に対抗するために異世界から来訪する存在である。
では魔王とは何者か?
大ざっぱに言ってしまうと、人間と敵対する
この世界には数多の怪物たちが跋扈している。ドラゴンに
そんな過酷な世界でも人間が一定の勢力を保っていられるのは、怪物たちが団結することを知らないからだ。
怪物は人間にとって強大な敵ではあるが、怪物同士でもまた相争い、喰らい合っており、人間の関わらないところでお互いを間引いている。
強い怪物が弱い怪物を奴隷として従えることはあるものの、種族の垣根を超えた連合軍というものは存在しない。
だが、もしそんなものが生まれて人間界に侵攻することがあれば、危ういところで保たれているこの世界のパワーバランスはあっさり崩壊してしまう。
ドラゴンが空から炎の吐息を降らせ、雲突く巨人の戦列が大地を蹂躙し、闇の中を吸血鬼が跳梁する。
そんな悪夢の軍勢がこの地上に誕生すれば、人間という種族はひとたまりもなく世界から消滅してしまうだろう。
そしてその最悪の事態を引き起こしうる存在がいる。
それが魔王だ。
数百年に一度生まれ、神の如き力を以て怪物たちを支配し、世界を喰らい尽くさんとする存在。
俺たちは、そんな化け物を倒すためにこの世界に召喚されたらしいのだが──
どう考えても無茶ぶりだろ、としか言いようがない。
こっちは会社員で、しかも最近忙しくて運動不足気味なのだ。
当然、魔法使いでも超能力者でもない。
空も飛べないし、眼からビームも出ない。その辺の兵士にも負ける・・・・・・というか、下手すりゃ一般人にも負けるわ。
一体何をどうしたら、ドラゴンやら巨人やらを従えた怪物の王を倒せるというのか。
「・・・・・・とりあえず、魔王についてもう少し具体的に教えてくれないか。どんな姿で、どんな能力を持ってるんだ?」
「当世に現れた魔王の名は、キュアノマイア。白き鱗を持つ邪悪な
ドラゴンには寿命という概念がなく、歳を経るごとに際限なく成長するという。
千年以上の時を生きる古代竜は、怪物の中でも間違いなく最強格の存在。
これに対抗しうるのは、同じく千年以上生きる
そんな古代竜の中において、さらに抜きん出た力を持つ最強の存在が当世の魔王キュアノマイアだという。
ちなみに普通の古代竜(という言い方はちょっと変な気がするが)ですら、人間によって討伐された事例はただの一つもない。
過去に召喚された勇者の中には古代竜と矛を交えたものいたようだが、討伐には至らず撤退させることしか出来なかったと伝えられているらしい。
どうしよう、聞けば聞くほど絶望しかない。
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