冬は終わりの季節

@kirimyon

第1話

春は始まりの季節と言われるのならば、冬は終わりの季節ではないだろうか。


じゃがいもの中は少し冷たく、肉は少し硬くなっていた。茹で時間の配分をどうやら間違えたらしかった。

YouTubeで料理動画がおすすめに出され、とても美味しそうに見えた肉じゃがは、私の調理下でそこそこの味に落ち着いたようだ。一人の食卓は慣れたはずなのに、随分寂しく感じられた。

外食など久しく行っていない。父親が作った借金の返済に追われて、昼職と夜職の兼業をしていた。おかげで生活費と家賃代は捻出することができていたが、夜職はどうも肌に合わず、自分に嫌悪感を抱いていた。


春に恋人ができた。実に6年ぶりの恋人だった。

告白された日は舞い上がり、仕事中も上の空だった。駅で声をかけられたのが始まりだった。道を尋ねられ、答えるとお礼にと言われ、一緒に食事をした。連絡先を聞かれた時は正直とても喜んだ。異性との会話すら久しぶりだった。

順調に逢瀬を重ねて、3回目の食事で告白された。容姿も性格も自分の理想としていたものと近かったこともあり、喜んで受け入れた。不運続きの私への神様からの贈り物だと思ったのだ、本気で。しかし現実はそんなに甘くなかった。交際してから数回会った後、実は起業する為にお金が必要だが、出資者が足りないと言う。銀行や友人からも出資を頼んだが、あと100万円だけどうにかならないか、という話をされた。不審に思う気持ちは大きかった。しかし、彼への好意が溢れて何とかしてあげたいと考え、100万円を金融機関から借金をして貸してしまった。それで終わることなく、200万、300万と要求される額は膨れ上がり、1000万円借金を抱えることになった。そして付き合って1年が経った今日、彼とは音信不通になった。お金のこともあるが、何より信頼を裏切られたショックが大きかった。昔から世話焼きで、ダメンズに引っ掛かりやすいから注意しろと忠告してくれた親友の言葉を改めて思い出して後悔した。息をするのも嫌だった。


壁からぶら下がったロープが今、視界がぼやけてよく見えない。三脚に足をかけ、ロープを首に。思い返せばろくな人生じゃなかった。全部終わらせて仕舞えばいい。疲れた。ただどうしようも無く疲れた。次の人生はどうか、今世より幸せでありますようにと願い、三脚を蹴り飛ばす。息苦しさと怖さが襲ってきた。


視界が途切れる一歩手前でロープが切れた。思わず床に倒れ込み、咽せ返る。数秒後に自分が咽び泣きをしているのが分かって、自分で驚いた。涙でぼやける視界には、窓から初雪が見えた。

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